古典怪異図鑑CLASSICAL YOKAI ARCHIVE
奇怪千万古典怪異図鑑影女
FILE 79 / 影・家屋

影女

かげおんな

月の出た夜、障子へ映る女の輪郭

長く空き家になった屋敷で、夜になると障子の向こうを女が通る。戸を開けても、部屋にも庭にも誰もいない。灯りを戻すと、髪を結った横顔だけがまた紙障子へ浮かぶ。影女は、姿のない女が影だけを見せる怪異である。鳥山石燕は人の去った古家を舞台に、その一瞬を描いた。

月夜の座敷で、障子に髪を結った女の影が映る場面
月夜の座敷で、障子に髪を結った女の影が映る場面

障子に残る横顔

石燕の絵では、傷んだ家の障子に女の上半身が影となって映る。結い上げた髪、額、鼻、袖の形まで分かるのに、影を作る本人は画面のどこにもいない。庭には草が伸び、家が長く使われていないことも読み取れる。

影は、光を遮る体がなければ生まれない。ところが体を探すと見つからず、探すのをやめると紙の上へ戻る。壁や障子一枚を隔てた向こう側に何かがいるという、日本家屋の夜に合った怪異だった。

障子の内側に座る男が、灯明を手に影の方を見る場面
障子の内側に座る男が、灯明を手に影の方を見る場面

語りの移り変わり

  1. 近世以前空き家に以前の住人の気配や影が現れる怪談が語られる。
  2. 1781年頃鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』に、障子へ映る影女が描かれる。
  3. 近代妖怪画集の復刻を通じて影女の名と姿が紹介される。
  4. 20世紀以降旅館や廃屋を舞台にした新しい影女の怪談が書かれる。

人の去った古い家

天明元年(一七八一)ごろの『今昔百鬼拾遺』で、石燕は住む人の絶えた家に影女が現れると記した。かつてその家にいた女なのか、後から入り込んだものかは説明しない。

廃屋には、以前の住人が使った部屋や建具がそのまま残る。女の姿を描かず、生活の痕跡を受け止めてきた障子へ影だけを置くことで、誰が戻ったのか分からないまま夜が続く。

外の庭には誰もおらず、月明かりだけが障子へ差す場面
外の庭には誰もおらず、月明かりだけが障子へ差す場面

後世に作られた怪談

近代以降には、山形県の旅館で男が障子の女影に悩まされる話など、影女の名を使った怪談が書かれた。土地の伝承として紹介される場合もあるが、石燕の絵から直接続く同一の物語とは限らない。

原典にあるのは、古家と障子の影、そして影女という名である。どんな顔だったか、近づいた人をどうしたかまで決められていないため、後の語り手がそれぞれ別の女を影の向こうへ置いた。

月光の差す障子へ女の影が映るが、障子の外の庭には誰もいない
月光の差す障子へ女の影が映るが、障子の外の庭には誰もいない
男が障子を開けても庭は空で、女の影だけが障子紙へ残る
男が障子を開けても庭は空で、女の影だけが障子紙へ残る
灯明が動かないまま、女の影だけが隣の障子へ静かに移る
灯明が動かないまま、女の影だけが隣の障子へ静かに移る
SOURCES

主な参考資料