古典怪異図鑑CLASSICAL YOKAI ARCHIVE
奇怪千万古典怪異図鑑うわん
FILE 80 / 絵巻・声の名

うわん

うわん

大口を開けた絵と、声のような名

古い屋敷の塀を曲がったところで、異様な顔が飛び出し、「うわん」と叫ぶ。大きく開いた口にはお歯黒の歯が並び、両手は驚かすように上げられている。江戸時代の絵巻に描かれたうわんは、名がそのまま叫び声になった妖怪だ。ただし、叫び返さなければ死ぬという有名な話は古い絵巻には書かれていない。

古い屋敷の塀際で、大口を開けた三本指のうわんが片手を上げる場面
古い屋敷の塀際で、大口を開けた三本指のうわんが片手を上げる場面

口を開き両手を上げる

元文二年(一七三七)、佐脇嵩之が描いた『百怪図巻』のうわんは、首から上が大きく、口をいっぱいに開けている。歯は黒く、髪は乱れ、三本指の両手を顔の横まで上げる。今まさに声を浴びせてくる姿である。

同じような図は別の化物絵巻にも写され、鳥山石燕も『画図百鬼夜行』へ収めた。いずれも名と姿が中心で、いつどこに現れたかを語る長い詞書はない。

大口と黄色い目、三本指を持つ黒いうわんが古い屋敷の塀から覗く
大口と黄色い目、三本指を持つ黒いうわんが古い屋敷の塀から覗く

語りの移り変わり

  1. 1737年佐脇嵩之『百怪図巻』に、両手を上げたうわんが描かれる。
  2. 1776年鳥山石燕『画図百鬼夜行』に同系統の姿が収録される。
  3. 近代妖怪絵巻の模写・復刻によって名と図像が知られる。
  4. 昭和以降叫び返す、墓へ引き込むなどの性質が妖怪図鑑に加わる。

声から生まれた名

暗い道や空き家で突然声を掛けられれば、相手が人間でも体がすくむ。「うわん」はその短い叫びを名前にしたものらしく、絵の大口と上げた手も、声を目に見える形へ変えている。

後の解説では、古い家や寺の塀から現れるとされる。絵の背景から想像された部分もあり、全国に共通するうわんの口承が採集されているわけではない。

月夜の路地でうわんが両方の三本指を上げ、大きく口を開く
月夜の路地でうわんが両方の三本指を上げ、大きく口を開く

叫び返すというルール

現代の妖怪図鑑には、うわんと叫ばれたら同じように返事をしなければならない、黙っていると墓場へ引きずり込まれる、といった話が載る。声の妖怪にはよく合う決まりだが、『百怪図巻』や石燕の本には見当たらない。

絵巻のうわんは、百鬼の行列に並ぶ一体でしかない。決まった弱点や退治法がない分、名前を聞いた人が「返事をしたらどうなるか」を考え、遊びの規則を後から足していった。

夜道の旅人が振り返り、土塀際に立つうわんと向き合う
夜道の旅人が振り返り、土塀際に立つうわんと向き合う
黄色い目、大口、三本指を持つうわんを古い絵巻の姿に忠実な近景で描く
黄色い目、大口、三本指を持つうわんを古い絵巻の姿に忠実な近景で描く
うわんが月夜の屋敷塀の上へしゃがみ、道を見下ろす
うわんが月夜の屋敷塀の上へしゃがみ、道を見下ろす
SOURCES

主な参考資料