古典怪異図鑑CLASSICAL YOKAI ARCHIVE
奇怪千万古典怪異図鑑加牟波理入道
FILE 81 / 厠・年越し

加牟波理入道

がんばりにゅうどう

大晦日の厠で唱える、入道とほととぎすの名

大晦日の夜、厠へ入ると、窓の外から大きな僧の顔がのぞき込む。口からは郭公のような鳥が飛び出している。鳥山石燕が描いた加牟波理入道は、年の境に厠へ現れる怪異だった。その名を入れた決まった文句を唱えれば、一年間その姿を見ずに済むとも、反対に姿を見れば幸運を得るとも伝わり、まじないの意味は資料によって揺れている。

大晦日の厠の小窓から入道が顔を出し、口元に鳥がいる場面
大晦日の厠の小窓から入道が顔を出し、口元に鳥がいる場面

年越しの厠をのぞく

昔の厠は母屋から離れた場所や家の端にあり、夜は灯りも乏しかった。とりわけ大晦日は、古い年から新しい年へ移る特別な夜である。その暗がりを、巨大な僧の顔が外からのぞく。

加牟波理入道は毎晩出るとはされず、大晦日と結びつく。年の最後に厠でその名を唱える俗信があり、妖怪画より前から類似の文句が記録されている。呼び方には、がんばり入道、雁婆梨入道などの違いがある。

年越し前の家で、家人が厠の戸口へ灯明を置く場面
年越し前の家で、家人が厠の戸口へ灯明を置く場面

語りの移り変わり

  1. 近世以前大晦日の厠で特定の文句を唱え、災いを避ける俗信が伝わる。
  2. 1779年鳥山石燕『今昔画図続百鬼』に加牟波理入道が描かれる。
  3. 江戸後期厠の神や年越しの禁忌とともに、異なるまじないが記録される。
  4. 近代以降姿を見ると不幸になる型と幸運になる型が、妖怪事典で並んで紹介される。

口から飛び出す郭公

鳥山石燕は安永八年(一七七九)の『今昔画図続百鬼』に、窓越しにこちらを見る入道を描いた。大きく開いた口から一羽の鳥が飛び出す。詞書には郭公の字があり、厠のまじないで唱える言葉と鳥の名を結びつけている。

入道がもともと鳥を飼っていたという昔話はない。石燕が伝承の文句を絵に置き換え、口から実際に郭公を出す洒落にしたものだ。奇妙な姿を先に見ると、言葉遊びまで一つの怪談に思えてくる。

厠へ入った男が、小窓を見上げながら唱え言を口にする場面
厠へ入った男が、小窓を見上げながら唱え言を口にする場面

見ると不幸か、幸運か

加牟波理入道を見れば疫病にかかるため、呪文で避けるとする説明がある。一方、姿を見れば一年間幸運になる、尻をなめた紙を取れば金持ちになるという別の話も後世に伝わる。

相反する説明があるのは、年越しのまじないと石燕の妖怪画が、後の事典で組み合わされたためでもある。原典から確かめられるのは、大晦日の厠、名を唱える言葉、郭公を吐く入道という三つの要素である。

大晦日の厠の小窓から、口元にほととぎすを伴う加牟波理入道が覗く
大晦日の厠の小窓から、口元にほととぎすを伴う加牟波理入道が覗く
厠で唱え言を口にした男の前へ、入道の顔と鳥が小窓から現れる
厠で唱え言を口にした男の前へ、入道の顔と鳥が小窓から現れる
夜明け前の厠で加牟波理入道の顔が窓から薄れ、ほととぎすが外へ飛び去る
夜明け前の厠で加牟波理入道の顔が窓から薄れ、ほととぎすが外へ飛び去る
SOURCES

主な参考資料