人を道から外す灯
狐火は青白い、赤い、橙色など、土地によって色が違う。地面すれすれに動くものも、木の高さへ浮くものもある。追えば遠ざかり、元の道へ戻ろうとすると別の方角へ現れる。夜に道を失った人は、狐に化かされて火を追ったと話した。
遠くに並ぶ火を婚礼の提灯に見立て、「狐の嫁入り」と呼ぶ土地もある。行列へ近づけば火も人影も消え、何もない野原だけが残る。晴れているのに雨が降る天気雨も同じ名で呼ばれ、狐の婚礼を人に見られないよう隠す雨だとされた。

語りの移り変わり
- 近世以前狐が夜の灯をともして人を迷わせる話が各地で語られる。
- 江戸時代王子稲荷の大晦日と狐火による豊凶占いが名所記に載る。
- 1857年歌川広重が『名所江戸百景』に王子装束榎の狐火を描く。
- 1993年以降東京都北区王子で伝承をもとにした大晦日の狐行列が行われる。
大晦日の王子に集まる狐
江戸の王子稲荷には、大晦日の夜、関東各地の狐が参詣するという伝承がある。狐たちは近くの大きな榎へ集まり、身分に応じた装束へ着替えてから社へ向かった。榎の周囲には狐火が無数に浮かび、王子の人々はその数や燃え方を見て翌年の豊凶を占った。
『江戸名所図会』は王子稲荷と狐の集合を紹介し、歌川広重は一八五七年の『名所江戸百景』に、榎の下へ集まる狐を描いた。暗い田の向こうまで小さな火が続き、手前の狐は口元へ明かりを浮かべている。絵の題名にある「装束ゑの木」は、狐が装束を整える榎を指す。

怪火と実際の光
江戸時代の本には、狐が枯れた骨を口にくわえて火を起こすという説明や、尾を打ち合わせて火を出すという話が載る。狐そのものが見えず、火だけを見た場合も狐火と呼ばれたため、すべてが同じ現象だったとは限らない。
遠くの提灯や漁火、大気の屈折、湿地での発光などが候補に挙げられてきた。どれに当たるかは、場所、天候、距離の記録がなければ決められない。王子では狐火を見る伝承から、現在の大晦日に狐面と装束で歩く「王子狐の行列」が生まれた。かつて占いに使われた灯が、町を歩く行列へ姿を変えて続いている。






