古典怪異図鑑CLASSICAL YOKAI ARCHIVE
奇怪千万古典怪異図鑑木霊・木魅
FILE 52 / 樹木・山

木霊・木魅

こだま

古木に宿るものと山から返る声

村外れの大木を切ろうと斧を入れると、幹から血が流れ、木の奥でうめき声がした。古くから、年を経た木には木霊が宿ると信じられた。木そのものが神となる場合もあれば、人の姿で現れる場合もある。山へ向かって叫んだ声が少し遅れて返る現象も「こだま」と呼ばれ、樹木や山の精が答えていると考えられた。

朝霧の杉林で、太い古木の瘤が人の顔のように見える場面
朝霧の杉林で、太い古木の瘤が人の顔のように見える場面

木の中にいる神

十世紀に編まれた『和名類聚抄』は、木の神を「古多万」と記している。大木や奇妙な形の木には、注連縄を張り、神の依り代としてまつる習慣があった。一本の木そのものを神聖な存在とし、枝を折ることさえ避ける場所もある。

伐採を始めた途端に作業者がけがをする、切った家に病人が出る、夜ごと木の泣く音がする。こうした出来事が重なると、その木には木霊がいると語られた。必要があって切る時は、酒や塩を供え、山の神へ断りを入れる。

木こりが斧を下ろし、幹の奥から返る乾いた音へ顔を向ける場面
木こりが斧を下ろし、幹の奥から返る乾いた音へ顔を向ける場面

語りの移り変わり

  1. 10世紀『和名類聚抄』が樹神の和名を「古多万」と記す。
  2. 中世以前古木を神の依り代とし、伐採を避ける信仰が各地に広がる。
  3. 1776年鳥山石燕『画図百鬼夜行』が老木と老男女の「木魅」を描く。
  4. 現在山の反響を指す普通名詞としても「こだま」が使われる。

百年の木が人になる

鳥山石燕の『画図百鬼夜行』では、「木魅」と題して大きな古木が描かれる。その根元には、木の幹から抜け出したような老いた男女が立つ。詞書は、百年を経た木には神霊が宿り、形を現すと説明する。

若い木ではなく、何世代もの人を見てきた木が老人の姿になる。木の寿命は人より長く、村ができる前からそこに立つものもある。長い時間を人の年齢へ置き換えれば、白髪の翁と媼になるのは自然だった。

注連縄を巻いた巨木の根元に小さな供え物が置かれている山の社
注連縄を巻いた巨木の根元に小さな供え物が置かれている山の社

山から返る声

山で大声を出すと、同じ言葉が向こうの峰から戻ってくる。現在は音の反射と分かっているが、かつては山や木にいるものが返事をすると考えられた。この反響も「こだま」と呼ばれ、木霊と山彦の名は重なることがある。

木霊の声は、姿を見せずに木の中から聞こえる。呼びかけをそのまま返すだけなら害はない。しかし、返事に誘われて道を外れれば、山深くへ迷い込む。木を切る時と同じように、山で聞こえる声にも相手がいるつもりで接した。

向かい合う二つの尾根で、旅人の呼び声が谷を渡って返る場面
向かい合う二つの尾根で、旅人の呼び声が谷を渡って返る場面
切り株の年輪へ手を置き、村人が伐った木の太さを確かめる場面
切り株の年輪へ手を置き、村人が伐った木の太さを確かめる場面
月明かりの林で、木の幹と人影の境目が重なって見える場面
月明かりの林で、木の幹と人影の境目が重なって見える場面
SOURCES

主な参考資料