古典怪異図鑑CLASSICAL YOKAI ARCHIVE
奇怪千万古典怪異図鑑ぬりかべ
FILE 51 / 道・障り

ぬりかべ

ぬりかべ

見えない壁が夜道を塞ぐ

月のない夜、一本道を歩いていると、突然足が止まる。目の前には何もないのに、押しても進めず、左右へ回ろうとしても壁がどこまでも続く。福岡県遠賀郡で語られたぬりかべは、本来、石や土でできた大きな体を見せる妖怪ではなかった。道をふさぐ見えない何かである。棒で壁の足元を払うと消えるとも、しばらく休めば通れるともいわれた。

昭和初期の筑前の夜道で旅人の前を霧のような見えない壁が塞ぐぬりかべ
昭和初期の筑前の夜道で旅人の前を霧のような見えない壁が塞ぐぬりかべ

何もないのに前へ進めない

民俗学者・柳田國男が集めた「妖怪名彙」には、筑前国遠賀郡のぬりかべが載る。夜道で突然、前方が壁に突き当たったようになり、先へ進めなくなる。目には何も見えず、手を伸ばしても固い壁があるわけではない。それでも体だけが押し戻される。

脇へそれればよさそうだが、見えない壁は左右へ長く続く。闇の中で方向を変えるうち、来た道さえ分からなくなる。山道や海辺の道で疲れ、暗さのため距離感を失った時の感覚が、立ちはだかる壁として語られたのだろう。

昭和初期の旅人が夜道を塞ぐ見えない圧力の上側を枝で探っても闇だけが動かないぬりかべの場面
昭和初期の旅人が夜道を塞ぐ見えない圧力の上側を枝で探っても闇だけが動かないぬりかべの場面

語りの移り変わり

  1. 近代以前福岡県遠賀郡で、夜道をふさぐ見えない壁の怪異が語られる。
  2. 1930年代柳田國男が「妖怪名彙」にぬりかべの伝承を記録する。
  3. 1956年『妖怪談義』に収められ、活字を通じて広く読まれる。
  4. 昭和後期水木しげるの作品で、目と手足のある壁の姿が定着する。

足元を払うと道が開く

ぬりかべに遭った時は、慌てて上の方をたたいてはいけない。棒を持って壁の下、足元に当たる場所を横へ払うと消えるという。別の土地に伝わる似た怪異では、煙草を一服する、腰を下ろして待つ、杖で地面を突くと道が開く。

どの方法も、闇の中で無理に進むのをやめ、足元と方向を確かめる動きになる。見えない壁と争っても出口は見つからない。落ち着いて低い場所を探すと、さっきまでの圧迫感が消え、元の道へ戻れる。

旅人が枝で道の下側を払うと霧の壁が左右へ開いていくぬりかべの場面
棒で足元を払うと、道を塞いでいた霧が開く

見えない怪異が板壁の姿を得る

柳田の記録には、ぬりかべの顔や手足は書かれていない。昭和期、水木しげるはこの怪異を大きな長方形の壁として描き、二つの目、短い手足を与えた。漫画『ゲゲゲの鬼太郎』では、味方を守るため自ら壁となる頼もしい妖怪になった。

姿を得たぬりかべは、石像、着ぐるみ、アニメを通じて全国へ知られた。古い伝承で人の道をふさいだものが、現代の物語では敵の攻撃をふさぐ。福岡の夜道にだけあった感覚は、一目で分かる壁の妖怪へ変わった。

別地域の夜道で獣とも影とも判別できない輪郭が行く手を遮るぬりかべ類話の場面
獣とも影とも判別できない、別地域の類話
夜明けの山道に折れた枝と土を払った跡だけが残るぬりかべの余韻
夜明けの道に残る、折れた枝と土を払った跡
昭和初期の旅人が夜明けの茶店で、道を塞いだ見えない壁の体験を土地の人へ話す場面
姿のない障りが、旅人の体験談として土地に残る
SOURCES

主な参考資料