古典怪異図鑑CLASSICAL YOKAI ARCHIVE
奇怪千万古典怪異図鑑白うねり
FILE 77 / 器物・古布

白うねり

しろうねり

古い布巾を長い体へ変えた石燕の戯れ

台所の隅へ捨てられた古い布巾が、夜になると床を這い出す。白い布は細長く伸び、しわの寄った顔と爪のある足を持ち、龍のように宙へ身をくねらせる。鳥山石燕はこの妖怪を白溶裔と書き、古布が化けたものだと明記した。人を襲って悪臭で気絶させるという話は、後の図鑑で加えられた。

江戸の板敷きを、顔のある長い白布が折れ曲がりながら進む場面
江戸の板敷きを、顔のある長い白布が折れ曲がりながら進む場面

古布が龍のようにうねる

白溶裔は白い布の端に獣の顔が生え、細長い胴を波打たせている。前後には爪のある足も見える。畳んで置けば一枚の布巾だったものが、広げた長さをそのまま妖怪の体にしたような姿である。

「容裔」は水の波や衣がゆるやかになびく様子を表す漢語で、「うねり」という読みと動きを重ねている。表記には白容裔、白溶裔などがあり、現代では「しろうねり」と平仮名で書かれることも多い。

台所の隅で、使い込まれた白い布巾が桶のそばに掛かる場面
台所の隅で、使い込まれた白い布巾が桶のそばに掛かる場面

語りの移り変わり

  1. 中世~近世古い道具が変化する付喪神が絵巻や説話に描かれる。
  2. 1784年鳥山石燕『百器徒然袋』に古い布巾の妖怪として白溶裔が登場する。
  3. 近代石燕画集の復刻と妖怪事典によって名と姿が広まる。
  4. 現代悪臭で人を襲う古雑巾という設定が創作や児童書で加わる。

『百器徒然袋』の付喪神

鳥山石燕は天明四年(一七八四)の『百器徒然袋』に白溶裔を収めた。この画集には、袋、琴、釜、鏡など古い道具が姿を変えた妖怪が並ぶ。

詞書は「古き布巾の化けたるもの」とはっきり記す。一方、そのほかにも同じような例があるだろうかと、夢の中で思ったという調子で結ばれる。石燕が昔話を記録したというより、古い布と古典の言葉を組み合わせて作った妖怪とみられる。

江戸の台所で古い白布が床から持ち上がり、顔のある長い白うねりへ変わる
江戸の台所で古い白布が床から持ち上がり、顔のある長い白うねりへ変わる

汚れた雑巾という後世の姿

古い布巾と聞けば、汚れや臭いを想像しやすい。後の児童向け図鑑では、白溶裔が悪臭を放ち、顔へ巻きついて人を気絶させると説明されるようになった。

石燕の絵に描かれた布は白く、詞書にも臭いや攻撃はない。長く使われた道具が夜に動き出すという部分と、後から加えられた怪談らしい性質は分けておく必要がある。

顔のある長い白うねりが、桶や竈の間を折れ曲がりながら進
顔のある長い白うねりが、桶や竈の間を折れ曲がりながら進
白うねりが暗い板敷きの廊下を長い体で滑るように進
白うねりが暗い板敷きの廊下を長い体で滑るように進
夜明けの台所で白うねりが古布のようにとぐろを巻き、その顔だけがこちらを見る
夜明けの台所で白うねりが古布のようにとぐろを巻き、その顔だけがこちらを見る
SOURCES

主な参考資料