古典怪異図鑑CLASSICAL YOKAI ARCHIVE
奇怪千万古典怪異図鑑土蜘蛛
FILE 15 / 山野・異族

土蜘蛛

つちぐも

蜘蛛の怪と討伐物語の交差点

源頼光と渡辺綱が京都の蓮台野を歩いていると、空を飛ぶ髑髏が現れた。二人が後を追うと、髑髏は古びた屋敷の中へ消える。そこでは女が大勢の死体をあさり、巨大な化け物が次々に襲いかかってきた。夜が明け、血の跡をたどった二人は、山の洞窟で恐ろしく大きな蜘蛛を見つける。

古い山城の洞窟から糸を張る巨大な土蜘蛛
古い山城の洞窟から糸を張る巨大な土蜘蛛

髑髏が飛び込んだ荒れ屋敷

絵巻『土蜘蛛草紙』で、頼光と綱は髑髏を追って門をくぐる。最初の部屋には美しい女がいた。女は頼光へ近づくと、たちまち異形に変わる。奥では無数の化け物が宴を開き、牛頭や馬頭に似た鬼、器物の姿を残す妖怪まで現れた。

頼光が太刀を抜くと、化け物は傷を負って逃げる。二人は床に残った血を追い、山中の洞穴へ入った。中にいたのは、長さが六十尺もある土蜘蛛である。激しい戦いの末に首を落とすと、腹の中から人の髑髏が千九百九十個、小さな蜘蛛が無数に出てきたと詞書は記す。

洞窟いっぱいに張られた白い糸と古い塚、糸の奥で巨大な土蜘蛛の脚が動く場面
洞窟いっぱいに張られた白い糸と古い塚、糸の奥で巨大な土蜘蛛の脚が動く場面

語りの移り変わり

  1. 古代記紀と風土記が、朝廷に従わない土地の人々を土蜘蛛と記す。
  2. 鎌倉末~南北朝期『土蜘蛛草紙』が頼光と綱の荒れ屋敷探索、巨大蜘蛛退治を描く。
  3. 中世『平家物語』剣巻などに、病床の頼光と蜘蛛切の話が整う。
  4. 室町以降能『土蜘蛛』が白い蜘蛛糸を投げる舞台演出を定着させる。

病床へ投げられる蜘蛛の糸

『平家物語』剣巻や能『土蜘蛛』では、話の始まりが違う。頼光は病に伏しており、夜になると背の高い僧が見舞いに現れる。僧が白い糸を投げかけたため、頼光は枕元の太刀で斬りつけた。僧は血を流して逃げ、四天王が跡を追う。

古塚を崩すと大きな蜘蛛が現れ、武者たちは糸を浴びながら退治する。頼光が使った太刀「膝丸」は、この戦いの後に「蜘蛛切」と呼ばれたという。能の舞台では、土蜘蛛の精が細く切った紙の糸を何度も投げ、武者の周囲を白く覆う場面が見せ場になった。

病に伏す源頼光の座敷へ怪しい僧が現れ、袖から白い糸を放つ場面
病に伏す源頼光の座敷へ怪しい僧が現れ、袖から白い糸を放つ場面

人の呼び名から蜘蛛の妖怪へ

『古事記』『日本書紀』や各地の風土記に出る「土蜘蛛」は、洞窟や土の穴に住み、朝廷へ従わなかった土地の人々を指す蔑称として使われた。手足が長い、尾があるなど人間離れした書き方もされるが、八本脚の大蜘蛛ではない。

中世の頼光物では、その名が地中の塚に潜む蜘蛛の怪物へ移った。朝廷の武将が異形を退治する筋は共通しても、古代の抵抗者と絵巻の巨大蜘蛛を同じ生き物として扱うことはできない。『土蜘蛛草紙』は、髑髏、荒れ屋敷、器物の妖怪、洞窟という場面を重ね、最後にすべての怪異を蜘蛛の腹へ集めた。

武者たちが血痕と蜘蛛の糸を追い、古い塚の入口へたどり着く場面
武者たちが血痕と蜘蛛の糸を追い、古い塚の入口へたどり着く場面
洞窟の奥で巨大な土蜘蛛が糸を張り、刀を抜いた武者たちを迎える場面
洞窟の奥で巨大な土蜘蛛が糸を張り、刀を抜いた武者たちを迎える場面
能舞台で蜘蛛の精が白い糸を大きく投げ、観客の前に怪物像が立ち上がる場面
能舞台で蜘蛛の精が白い糸を大きく投げ、観客の前に怪物像が立ち上がる場面
SOURCES

主な参考資料