古典怪異図鑑CLASSICAL YOKAI ARCHIVE
奇怪千万古典怪異図鑑八岐大蛇
FILE 16 / 神話・水

八岐大蛇

やまたのおろち

八つの谷を覆う巨大な蛇神

高天原を追われた須佐之男命が出雲の肥河上へ降りると、川に箸が流れてきた。上流に人がいると考えて進むと、老夫婦と若い娘が泣いている。夫婦には八人の娘がいたが、巨大な八岐大蛇が毎年現れ、一人ずつ食べた。残るのは末娘の櫛名田比売だけ。今年も大蛇が来る時期になっていた。

八つの頭を持ち山河を覆う八岐大蛇と酒甕
八つの頭を持ち山河を覆う八岐大蛇と酒甕

八つの頭で酒を飲む

大蛇は、目が赤い実のように輝き、胴には苔や檜、杉が生え、腹はいつも血でただれていた。体は八つの谷と八つの峰に届く。須佐之男命は櫛名田比売との結婚を条件に救出を引き受け、娘を櫛へ変えて髪へ差した。

老夫婦には、何度も醸した強い酒を造らせた。垣根を巡らし、八つの門を開け、各門に台を置いて酒槽を載せる。やって来た大蛇は、八つの頭をそれぞれ槽へ入れて酒を飲み、酔いつぶれて眠った。須佐之男命が十拳剣で斬ると、肥河は血で赤く流れた。

八つの酒甕へ首を垂れる大蛇と、尾の中で光る剣を遠景から描いた八岐大蛇の場面
八つの酒甕へ首を垂れる大蛇と、尾の中で光る剣を遠景から描いた八岐大蛇の場面

語りの移り変わり

  1. 神代(物語)須佐之男命が肥河上で八岐大蛇を退治し、櫛名田比売と結婚する。
  2. 712年『古事記』が八俣遠呂智退治と天叢雲剣の由来を記す。
  3. 720年『日本書紀』本文と異伝が八岐大蛇の筋を複数の形で収録する。
  4. 近世以降神楽、絵巻、錦絵が八頭の大蛇と酒槽の場面を大きく描く。

尾の中にあった剣

大蛇の尾を切ったとき、須佐之男命の剣の刃が欠けた。不思議に思って尾を割くと、中から一振りの太刀が出る。須佐之男命は並の剣ではないと考え、天照大御神へ献上した。これが天叢雲剣である。

『日本書紀』の異伝には、名の表記や酒の造り方、剣を見つける場面に違いがある。天叢雲剣は後に日本武尊の東征で草を薙ぎ払い、「草薙剣」と呼ばれる。熱田神宮にまつられる剣へ、大蛇退治の由来がつながった。

出雲の家で老夫婦と最後の娘が、毎年現れる大蛇を前に嘆く場面
出雲の家で老夫婦と最後の娘が、毎年現れる大蛇を前に嘆く場面

肥河上の神話

『古事記』では舞台を出雲国の肥河上、鳥髪の地とする。『日本書紀』では簸之川上と記され、現在の斐伊川流域に重ねられてきた。奥出雲から平野へ流れる斐伊川は、たびたび流路を変え、洪水を起こした。枝分かれする川と赤い濁流を大蛇の姿に見立てたという説がある。

山地では古くから砂鉄を使う製鉄が行われ、剣が尾から出る筋を製鉄文化と結び付ける見方もある。ただし、記紀本文は大蛇が洪水や製鉄そのものだとは書いていない。確かに読めるのは、八人の娘を奪う大蛇、酒を用意する家族、娘を櫛に変えて身につける須佐之男命、尾から得た剣という一連の出来事である。退治後、須佐之男命は櫛名田比売と暮らす宮を須賀に建て、「八雲立つ」の歌を詠んだ。

素戔嗚尊が八つの酒甕を柵の内側へ並べ、大蛇を待ち受ける場面
素戔嗚尊が八つの酒甕を柵の内側へ並べ、大蛇を待ち受ける場面
八岐大蛇の頭々が酒甕へ垂れ、山谷を覆う巨体が酔い伏す場面
八岐大蛇の頭々が酒甕へ垂れ、山谷を覆う巨体が酔い伏す場面
切り分けられた大蛇の尾から光る剣が現れ、素戔嗚尊が手に取る場面
切り分けられた大蛇の尾から光る剣が現れ、素戔嗚尊が手に取る場面
SOURCES

主な参考資料