返事をしてはいけない七つの話
橋の下から名前を呼ばれても、返事をしてはいけない。
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連載状態: 完結済 / ジャンル: ホラー / 収録話数: 7話
概要
県北の廃村近くにある、古いコンクリート橋。
補修調査に向かった作業員たちは、橋の下から自分の名前を呼ぶ子どもの声を聞く。
沢に沈んだ名札。
廃分校の黒板。
水の上に浮いた、乾いた体操着。
そして、返事をしてしまった若い社員は、橋の上から姿を消した。
これは、名前を呼ぶ声にまつわる七つの怪談である。
目次
- 第1話 沢の名札
- 第2話 切り株の席
- 第3話 山笑い
- 第4話 乾いた傘
- 第5話 足りない回覧板
- 第6話 蔵の鏡
- 最終話 呼び返し
第1話 沢の名札
これは、県北部の道路維持課に勤めていた井口さんから聞いた話である。
話してくれたのは三年ほど前だが、本人は最初から最後まで、あれを怪談だとは言わなかった。
ただ、作業記録としてはおかしい、と何度も口にしていた。
井口さんは、市役所の職員ではない。市の委託を受ける土木会社の社員で、道路の補修や落石防止柵の点検、古い橋の調査などを担当していた。
県北の山間部には、車が一台通れるかどうかという道が多い。集落が廃れてからも、林業の関係者や猟師が使うため、完全には閉鎖されていない道が残っている。
その年の五月末、井口さんの会社に、そうした道の橋を調べてほしいという依頼が来た。
場所は、梨倉という地区だった。
梨倉は、地図上ではまだ地名が残っている。だが、実際にはほとんど人が住んでいない。麓のバス停から山道を三十分ほど上がったところに、数軒の空き家と、使われなくなった分校と、小さな社があるだけだ。
調査対象の橋は、その分校へ入る手前に架かっていた。
橋といっても、たいそうなものではない。沢をまたぐ、幅三メートルほどの古いコンクリート橋である。欄干は低く、片側だけに錆びたガードレールが残っていた。もう片側には、木の杭とトラロープが張られている。
古い地図には、返り橋と書かれていた。
今の地図には、ただの市道番号しか出ない。
井口さんが現地へ向かったのは、火曜日の朝だった。
同行したのは、同じ会社の佐伯さんと、入社二年目の西谷君である。三人とも作業着にヘルメットをかぶり、軽トラックに測量道具とカメラ、簡単な保安材を積んで山へ入った。
その日は曇っていた。
雨は降っていなかったが、杉の枝から前夜の水が落ちて、フロントガラスにときどき粒が当たった。山道は狭く、アスファルトの端には青い苔が残っていた。ガードレールのない曲がり角では、下の沢が白く見えたという。
助手席の佐伯さんが、窓を少し開けた。
「ここ、まだ道として扱うんですかね」
「扱うから、俺らが来てるんだろ」
井口さんはそう答えた。
すると後ろの座席で、西谷君…
