嫁入り峠に、君を返しに行く
花嫁として山へ返される運命の少女を、俺は救うつもりだった。
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連載状態: 連載中 / ジャンル: ホラー / 収録話数: 12話
概要
失踪した妹の足取りを追って山奥の久々戸村へ入った相馬恒一は、村に残る“山嫁”の伝承と、次の花嫁役に選ばれた少女・斎賀志乃の存在を知る。
村の因習はただの昔話ではなく、長い年月をかけて本物の怪異へ変わっていた。
妹を連れて帰りたい。志乃も助けたい。
そう願うほど、恒一は村と山の境目へ引き寄せられていく。
目次
- 第1話 久々戸村
- 第2話 山に近い娘
- 第3話 普通だった夜
- 第4話 消えた妹のノート
- 第5話 花嫁の家系
- 第6話 花嫁としてではなく
- 第7話 終電に乗りたかった
- 第8話 山の中の妹
- 第9話 逃げきれない道
- 第10話 返される夜
- 第11話 峠の向こう
- 最終話 霧の向こうの二人
第1話 久々戸村
妹のスマホが最後に拾った位置情報は、地図の上ではほとんど何も語っていなかった。
山の中腹。県境に近い、細い林道の先。地名は久々戸村。検索しても観光情報はろくに出てこない。宿も店も、まともな施設の記載はない。代わりに出てくるのは、閉鎖された個人ブログ、民俗系掲示板の古い断片、そして誰が書いたのかわからない噂話ばかりだった。
《久々戸の嫁入り峠には、夜に白無垢が歩く》
馬鹿らしい話だと思った。
だが、その村の名前の横に、美緒がいなくなった日付と同じ数字が並んでいるのを見た瞬間、笑えなくなった。
だから俺は、山へ入った。
妹を連れて帰るために。
そのときはまだ、ひとり連れて帰るだけでは終わらないと知らなかった。
山道に入ってから、急に世界の色が鈍くなった気がした。
三月の終わりだというのに、日陰にはまだ冬の気配が残っている。杉林の間を縫うような道は狭く、ガードレールの錆びた支柱が等間隔に並んでいる。カーナビはとっくに役に立たなくなり、スマホの電波も切れたり入ったりを繰り返していた。
運転席の隣には、美緒のリュックが置いてある。
見つかったのは部屋の隅だった。財布も身分証も持っていったくせに、よく使うノートだけが机の上に残っていた。ページをめくると、久々戸村という名が何度かメモされていた。山嫁。嫁入り峠。返す。返される。意味のわからない単語が、走り書きみたいにいくつも並んでいた。
美緒は昔からそうだ。
気になったものはすぐ追う。こっちが心配して止めても、笑って「大丈夫だから」と言って先に行く。
子どもの頃、川に落ちかけた犬を見つけて、躊躇なく護岸を乗り越えたのも美緒だった。俺は怒った。怒りながら引き上げた。あいつは服を泥だらけにしたまま、犬の頭を撫でて泣いていた。
だから、たぶん今回もそういう感じだったのだと思う。
好奇心に火がついた。誰かが助けを求めているように見えた。危ないと思いながら、足が向いた。
問題は、その先が久々戸村だったことだ。
山道の最後のカーブを抜けると、小さな集落が見えた。
谷あいにへばりつくみたいに建つ家々。屋根瓦は古…
