夜泣石

静岡県

1. 導入

皆さんこんにちは、奇怪千万です。
今回は静岡県掛川市、夜泣石へ行ってきました。
旧東海道の小夜の中山という峠にある、ひとつの石です。
ただの石じゃありません。
夜になると赤子の、あるいは女の泣き声がする、と語り継がれてきた石。
静岡でいちばん有名な怪異伝説のひとつ、と言ってもいいと思います。
しかもこの石、御利益のある祀られた石でもある。
怖さと祈りが同居している、不思議な場所なんです。
というわけで、いつものようにカブで峠を登ってきました。

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2. 伝説を読む

まずは伝説から。
昔、小夜の中山の峠道で、身重の女が山賊に襲われました。
名前はお石、と伝わります。
お金を持っていることを知った男に、斬り殺されてしまった。
ところがその傷口から、赤ん坊が生まれた。
亡くなった母の魂は、そばにあった丸い石に乗り移り、夜ごと泣いたといいます。
里の人はその石を恐れて、夜泣き石と呼びました。
泣き声に気づいたのは、近くの久延寺のお坊さん。
赤ん坊は無事に拾われ、音八と名づけられ、乳の代わりに水飴で育てられました。
その子はやがて立派な刀研師になり、母の仇を討ったと伝わります。
この物語は、江戸時代に曲亭馬琴が書き、広重も東海道の絵に描いた。
そうやって全国に知られていきました。

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3. 石が二つある謎

ここで面白い事実を。
夜泣石は、今なんと二つあります。
一つは、小夜の中山トンネルの近く、小泉山の裏手の高台に祀られた石。
こちらが伝説の舞台になった本物とされ、安産や子育ての御利益があるとして大切にされています。
もう一つは、峠の上にある久延寺の境内。
こちらは伝説の妊婦、小石姫の供養塔として祀られた、よく似た丸石です。
なぜ二つあるのか。
どうやら本物のほうは、明治のころ東京の博覧会に出されたり、昭和には銀座松坂屋の物産展に運ばれたりと、各地を旅した過去があるらしい。
石灯籠に「奉納 銀座松坂屋」と刻まれているのが、その名残です。
石が出張している間に、もう一つが立てられた。
そんな経緯のようです。
怪異の石が、いつのまにか観光と信仰の都合で増えていた。
これはこれで、なかなか味のある話です。

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4. 現地調査

というわけで現地です。
旧東海道の小夜の中山は、箱根や鈴鹿と並ぶ東海道三大難所のひとつ。
カブで登っても、なかなかの急坂でした。
昼間に行くと、トンネル脇のドライブイン小泉屋がいい目印になります。
ここの名物が、伝説生まれの子育て飴。
もち米と麦芽から作る昔ながらの水飴で、これがやさしい甘さでうまい。
石へは、店の横の階段を上っていきます。
高台に、屋根をかけられた丸い石が静かに据えられていました。
本番は夜です。
私はいつもの機材を担いで再訪しました。
サーモグラフィー、REM-POD、フルスペクトラムカメラ、バイノーラルマイク。
峠の夜は、本当に深い。
車の音も人の声も消えて、風と木の音だけになります。
石の前にマイクを立てて、しばらく待ちました。
赤子の声は、もちろん入っていません。
ただ、風が石のくぼみを抜けるとき、すすり泣きのような細い音が確かにしました。
泣き声に聞こえてしまう理由が、少しわかった気がします。

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https://youtube.com/shorts/MsX4h-JN2QI?si=7Dj-fAuYzyMs6BYi
https://youtu.be/rR50f5Z4wok?si=35gwGS6fnAk28DVX

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5. 語られている怪異

語られている怪異を整理します。
中心はもちろん、夜に石から聞こえる泣き声。
赤子の声とも、女のすすり泣きとも言われます。
石に耳を当てると泣き声がする、という話も定番です。
ただ、この石が面白いのは、怖がられるだけの存在じゃないところ。
母が子を思って泣いた石、ということで、安産や子育ての御利益があるとされ、手を合わせに来る人もいる。
怪異と信仰が、きれいに表裏一体になっています。
ここまで母性の物語に寄った心霊スポットは、なかなか珍しいです。

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6. 噂の出どころを追う

出どころを考えます。
土台にあるのは、峠そのものの過酷さでしょう。
東海道三大難所と呼ばれた険しい山道です。
昔はここで行き倒れたり、盗賊に襲われたりする人が、現実にいたはずです。
そういう土地に、もともと日本人が持っている石への信仰が重なる。
丸い石を依り代と見る感覚は、各地の磐座信仰と地続きです。
さらに、子育て飴という名物が伝説を支えました。
飴を売るために物語が語られ、物語があるから飴が売れる。
商売と怪談がお互いを強め合った。
そこへ馬琴の小説と広重の絵が乗って、一気に全国区になった。
峠の現実、石信仰、名物商売、そして有名作家。
この合わせ技で、ただの丸石が日本一有名な泣く石になったわけです。

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7. 総合分析

まとめます。
夜泣石は、怖い石というより、悲しい石でした。
怪異の中身が、母が子を思う気持ちなんです。
恐怖で人を遠ざけるタイプの心霊スポットとは、まるで成り立ちが違う。
だからこそ、安産や子育ての祈りの場にもなっている。
心霊スポットというより、生きた民話の現場、と呼ぶほうがしっくりきます。
霊がいるかどうかは、例によって分かりません。
ただ、夜の峠でこの石の前に立つと、不思議と泣き声を聞きたくなる。
怖いからではなく、その物語を確かめたくなるんです。
そういう引力のある石でした。

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8. 注意とアクセス

現実的な注意です。
夜泣石は、御利益のある祀られた石として大切にされています。
石や祠、供物には触れず、敬意をもって手を合わせること。
場所は小夜の中山トンネル脇、小泉屋の高台と、峠上の久延寺の二か所。
旧東海道の峠道で、県道やトンネルは車の通行があります。
歩く場合は交通に十分注意してください。
峠の夜道は街灯が少なく、急坂で危険です。
深夜の長居や騒音は、近隣やお店の迷惑になるので控えめに。
場所は静岡県掛川市佐夜鹿。
車も電車も使わない私は、もちろんカブで峠を越えました。

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9. 引用・参考

夜泣石 掛川市 公式 city.kakegawa.shizuoka.jp
夜泣石 掛川観光情報 kakegawa-kankou.com
夜泣き石(小夜の中山) ウィキペディア ja.wikipedia.org/wiki/夜泣き石_(小夜の中山)
夜泣き石はなぜ二つあるか 国土交通省 浜松河川国道事務所 ほか

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