1. 導入
皆さんこんにちは、奇怪千万です。
今回向かったのは神奈川県中郡大磯町の神揃山(かみそろいやま)。
名前からして只者じゃありません。神が揃う山、と書くんです。
実際ここは千年以上続く由緒正しい神事の舞台で、毎年たくさんの神輿と神職が集まる場所。
ところがネットを覗くと、まったく逆の顔が出てきます。
曰く、自殺の名所。曰く、黒い人影が出る。曰く、山中に人体実験をしていた科学者の廃屋がある。
聖なる山と、忌まれる山。
この振れ幅がどこから来たのか、いつものようにカブを走らせて確かめてきました。

2. 史料が語る神揃山
まずは真面目な話から。
神揃山は相模国府祭(さがみこうのまち)という祭りの中心地です。
これは神奈川県の無形民俗文化財で、起源は千三百年ほど前ともいわれます。
当時の相模国の長官にあたる国司が、国の平和と豊作を神々に祈ったのが始まりだとか。
祭りの日になると、寒川神社や川勾(かわわ)神社など相模国を代表する複数の社の神輿が、この山に集まります。
神が揃うから神揃山。名前のまんまですね。
ここで行われる「座問答(ざもんどう)」という神事がまた面白い。
一之宮の寒川神社と二之宮の川勾神社が、どっちが格上かを虎の皮を敷いて主張し合うんです。
三度くり返したところで三之宮の比々多(ひびた)神社が「決着は来年まで」と仲裁に入って終わる。
要するに、千年以上ずっと結論を先送りにしている。
山の上には六社それぞれの神体石も祀られていて、普段から地元の人が手を合わせに来る場所でもあります。

3. 噂が生まれた土壌
さて、ここから空気が変わります。
心霊スポットとしての神揃山は、まったく別の文脈で語られています。
よく出てくるのが「明治から昭和の初めにかけて首吊りが相次いだ」という話。
それで自殺の名所と呼ばれ、亡くなった人の霊が留まっている、という筋立てです。
もう一つの主役が山中にあるとされる廃屋。
通称「科学者の家」。
動物実験をしていた、いや人を監禁して人体実験をしていた、なんて噂までついて回ります。
敷地には有刺鉄線が張り巡らされていて物理的に危ない、という証言もある。
神事の山と、自殺と廃墟。
同じ神揃山という名前の下に、明らかに毛色の違う話が同居しているわけです。

4. 現地調査
というわけで現地です。
麓に着いてまず思ったのは「普通に里山だな」ということ。
関東ふれあいの道の一部になっていて、昼間はハイカーが弁当を広げていそうな、のどかな丘陵でした。
山頂付近には神体石とベンチ。眺めも悪くない。
ここだけ見れば心霊もへったくれもありません。
問題は陽が落ちてから。
私はいつものように機材を担いで再訪しました。
サーモグラフィー、REM-POD、フルスペクトラムのカメラ、それとバイノーラルマイク。
日中ののどかさが嘘みたいに、夜の里山は本当に暗い。
街灯が途切れた途端、自分の足音だけが妙に大きく聞こえます。
神体石の前でしばらく計測しましたが、温度の異常は出ませんでした。
REM-PODも沈黙。
ただ録った音を後で聞き返すと、風でも虫でもない、木を等間隔で叩くような音が数回入っていた。
正体は分かりません。
科学者の家については、後で触れる理由から私有地と判断し、近づいていません。


5. 語られている怪異
ここでネットや体験談で語られている怪異を整理しておきます。
まず一番多いのが黒い人影の目撃。
夜にこの山を訪れた人が、人の形をした黒い影を見た、という話です。
次に多いのが白い光の球、いわゆるオーブが横切るというもの。
それから何もない場所から聞こえる叩く音や足音、いわゆるラップ音。
背後から黒い影が追ってきた、という生々しい体験談もあります。
そして廃屋がらみの不気味な噂の数々。
こうして並べると、定番が綺麗に揃っています。
影、光、音、追跡、そして曰くつきの廃墟。

6. 噂の出どころを追う
では、この噂たちはどこから来たのか。
私の見立てを言います。
鍵は神揃山という名前が、二つの別々の場所を巻き込んでいる点です。
本来の神揃山は神事の山そのもの。
一方で心霊話の主役は、その周辺の林道や、私有地にある廃屋の方です。
この二つが同じ山の名前でくくられた結果、神聖な山に廃墟と自殺のイメージが上書きされた。
科学者の家の人体実験という話も、よく見るとテンプレ通りなんです。
全国の廃墟に貼り付けられる定番ラベルで、神揃山に固有の根拠はなかなか出てきません。
自殺の名所という肩書きも、出どころをたどると一次資料に行き当たらない。
誰かが言い出した話が、まとめサイトや投稿型の心霊マップを経由して定着していった気配が濃いです。

7. 総合分析
整理します。
神揃山には確かに二つの顔があります。
ただしそれは「聖なる山が実は呪われていた」みたいな話ではない。
千年続く神事の山という事実は、ほぼ揺るぎません。
心霊スポットとしての顔は、周辺の廃墟や林道のイメージが有名な山の名前に引き寄せられて出来上がったもの、というのが私の結論です。
とはいえ夜の里山が怖いのは本当です。
あの暗さと静けさの中では、木の軋みも誰かの足音に聞こえる。
録音に入っていた叩く音だって、説明はつくはずなのに、つけたくなくなる雰囲気がありました。
霊がいるかどうかは分かりません。
ただ、人が勝手に怖い物語を足したくなる条件は、この山にしっかり揃っている。
神が揃う山は、噂も揃いやすい山でした。

8. 注意とアクセス
最後に現実的な話を。
神揃山は相模国府祭の神事が行われる神聖な祭祀地で、神体石も祀られています。
訪れるなら敬意をもって、石や祭具には触れないこと。
山中にあるとされる廃屋「科学者の家」は私有地で、有刺鉄線もあり物理的に危険です。
不法侵入にもあたるので、絶対に立ち入らないでください。
周辺は住宅地と里山の散策路です。
深夜の訪問や大声、ゴミの放置は近隣の大迷惑になります。
アクセスはJR東海道線の平塚駅や二宮駅からバスと徒歩が現実的。
関東ふれあいの道として整備された区間を歩けば、昼間なら気持ちのいい里山歩きができます。
車も電車も使わない私は、もちろんカブで麓まで行きました。

9. 引用・参考
相模国府祭について 大磯町ホームページ www.town.oiso.kanagawa.jp/isotabi/meguru/pagedate/14414.html
国府祭 県無形文化財 六所神社ホームページ rokusho.jp/index.php/kounomachi/
国府祭 ウィキペディア ja.wikipedia.org/wiki/国府祭
國府祭 寒川神社 samukawajinjya.jp/festival/kokuhusai.html
神揃山にまつわる噂や体験談(投稿型・出典精度に注意) 全国心霊マップ ghostmap.net ほか



