【心霊体験談】第6話 隣の窓

カクヨム掲載「心霊体験談短編集」の導入記事です。実話・体験談・聞き書きをもとに、読み物として脚色を加えた怪談として扱い、全文転載はせず冒頭のみ掲載しています。

この話について

昨年の春から、約半年間だけ地方の支社に転勤になった。 独身だったし、家賃補助も出る。 不動産屋で紹介されたのは、駅から歩いて十五分の古い一軒家で、月三万五千円だった。 「安すぎませんか」と聞いたら、「隣が空き家なので」と言われた。それだけで納得した。 引っ越し前日、大家の婆さんが挨拶に来た。 小柄で白髪の、感じのいい人…

冒頭抜粋

昨年の春から、約半年間だけ地方の支社に転勤になった。
独身だったし、家賃補助も出る。
不動産屋で紹介されたのは、駅から歩いて十五分の古い一軒家で、月三万五千円だった。
「安すぎませんか」と聞いたら、「隣が空き家なので」と言われた。それだけで納得した。
引っ越し前日、大家の婆さんが挨拶に来た。

小柄で白髪の、感じのいい人だった。お菓子を持ってきて、鍵を渡してくれながらこう言った。

「一つだけ、お願いがあります」

夜、隣の家の2階の窓を見ないでほしい、と。
意味がわからなくて、笑ってしまいそうになった。でも婆さんの目が真剣だったから、俺も「はあ」と答えた。
俺は思わず聞いた。「見てしまった場合は?」
「今まで見た方は、皆さん引っ越されました」と婆さんは言った。

「一人だけ残った方がいましたが、今は施設にいます」
それ以上は教えてもらえなかった。

隣の廃屋は築五十年以上に見えた。庭の草が膝の高さまで伸びて、窓ガラスは汚れて白っぽくなっている。2階に窓が一つ。北側を向いていたから、昼間でも日が当たらない。
気にはなった。

でも見ないようにするのは、思ったより難しくなかった。視野に入れなければいいだけだ。玄関を出る時は足元を見る、夜帰ってくる時も視線を地面に落とす。それだけのことだった。
五月、六月と普通に過ごした。
問題が起きたのは、七月の半ばだった。
金曜の夜、同僚と飲んで帰ってきた。終電の一本前、駅からふらふら歩いて家に戻った。
玄関の鍵を開けながら、ふと顔を上げた。
特に理由はない。
ただ顔を上げた、それだけだ。
隣の廃屋の2階の窓に、人がいた。
一瞬のことだった。で…

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