ありがた山

東京都

1. 導入

東京都稲城市矢野口。
京王よみうりランド駅から歩いてすぐの丘に、ありがた山って呼ばれてる場所がある。

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正式な山名じゃない。
昔から地元でそう呼ばれてきた通称なんだよね。

で、この斜面に何があるかというと、墓石と石仏がびっしり並んでる。
数にして四千基超。
一列や二列じゃなくて、谷戸の斜面が石で埋まってるレベルだ。

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初見だとまず言葉が出ないと思う。
観光地でもないし、放置された廃墟でもない。
今も手が入ってる、現役の供養の場所なんだ。

それでもネット上では、わりと長いこと心霊スポット扱いされてきた。
まあ気持ちは分かる。
夜にあの斜面を見たら、たいていの人はビビる。

というわけで今回は、この山がどうやってできたのかと、後から貼られた噂を分けて整理していく。
事実と噂を混ぜたら調査じゃなくなるからね。
そこはきっちりやる。

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2. 基本情報

場所は東京都稲城市矢野口。
南山って呼ばれてる丘陵地の一角だ。
標高はだいたい百メートルくらい。
山というより高台に近い。

呼び名は「ありがた山」、あるいは「ありがた山石仏群」。
桜井正信の『滅びゆく武蔵野』第二集には「有難山の無縁仏群」として載ってる。
つまり心霊スポットって言われる前から、ちゃんと記録に残ってる場所なんだよ。

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墓石の数は四千基以上とよく紹介される。
公式に総数を出した資料は見つからなかった。
ただ現地を見れば、盛ってる数字じゃないのは一発で分かる。

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管理者がいないわけでもない。
石仏群の奥には仏舎利塔があって、その先に日徳海って団体の施設がある。
斜面の墓地部分は、臨済宗建長寺派の妙覚寺の墓地の一部として使われてきた経緯もある。

要するに、持ち主も管理者もはっきりしてる場所だ。
廃寺でも無主地でもない。
ここは最初に押さえといてほしい。

3. 歴史と成り立ち

この墓石群ができたのは、一九四〇年から一九四三年にかけてとされてる。
運ばれてきたのは、東京の駒込地区に野積みのまま放置されてた無縁仏だ。

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当時、都市部の寺は墓地の整理を進めてた。
引き取り手のいない墓石は、行き場がなくなる。
それを道義的、宗教的な理由から集めて供養したのが、この山の始まりって記録されてる。

やったのは「日徳海」って団体。
しかも資料によると、石は人の手で山の上まで担ぎ上げたらしい。
重機の話じゃないよ。
戦時中に、あの斜面を石背負って登った人たちがいたってことだ。

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正直、ここが一番ゾッとする部分だと思ってる。

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そんで妙覚寺の先々代と先代の住職の厚意で、墓地の一部に無縁仏の墓石と納骨施設を置くことが認められた。
日徳海の施設は、自分たちの持ってる隣接地に建ってる。
両者は無関係じゃなくて、協力してこの山を守ってきた関係なんだ。

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運ばれた石の中には、けっこうな有名どころも混ざってる。
最後の福江藩主だった五島盛徳の墓石は、文京区の吉祥寺から移されたって記録がある。
新発田藩の分家の横田溝口家、松前藩の分家である旗本松前家の墓石も同じ寺から。

さらに大坂の陣で討死した丸岡藩主本多成重の家来の供養碑もある。
幕府医官の野間氏、歌舞伎の囃子方だった住田彦太郎、海軍少将の四元賢助の名前も挙がってる。

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つまりこの斜面、江戸から昭和までの東京の墓が層になって集まってるんだよ。
山としての歴史は浅い。
でも石そのものは古い。
古刹の墓地みたいな雰囲気になるのは、そういう理由だ。

あと、もうひとつ面白い顔がある。
特撮のロケ地としての顔だ。

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京王よみうりランド駅のすぐ近くで、当時の東映生田スタジオ、東宝ビルト、円谷プロダクションからも近かった。
だから一九七〇年代を中心に、怪奇もの、夏の怪談もの、時代劇の撮影でよく使われてる。

異界の入口として絵になる場所って評価は、心霊スポット化よりずっと先輩なわけだ。

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4. 語られてきた噂

先に言っとくと、ありがた山の怪談は、地元に伝わる古い伝承って形をしてない。
ほとんどネット以降に広まった話だ。
ここ大事なところ。

一番有名なのが、心霊写真の噂。
ここで写真を撮ると必ず何か写る、ってやつだね。
実際、それを検証する動画や記事は山ほど出てる。

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次に多いのが音。
うめき声を聞いた、少女の泣き声が聞こえた、みたいな報告が並ぶ。
配信中にリスナー側が異音を指摘した、って形の話もある。

見た系だと、写真に男性の姿が写り込んだって話が出てくる。
ただしどれも、特定の事件や人物と結び付いてない。
名前も年代も経緯も無い。

これ、けっこう決定的だと思ってる。
ありがた山の噂には、事故や事件みたいな「核」が存在しないんだ。
語られてるのは、ほぼ全部「この光景を見て感じたこと」の報告。

四千基の無縁仏って事実が先にあって、その上に体験談が後から積み上がった。
順番はそっちだよ。
逆じゃない。

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5. 現地の構造

行き方自体はシンプルだ。
駅側から住宅地を抜けると妙覚寺に出る。
そこから山道が上に伸びてる。

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登り始めてしばらくは、ごく普通の墓地の風景。
空気が変わるのはその先だ。
斜面に沿って、古い墓石と地蔵尊、塔婆が隙間なく並び始める。

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ただ、並び方は整然としてる。
雑に捨てられた石じゃないってことが、見れば分かる。
掃除も手入れも続いてるのが伝わってくる。

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坂の上のほう、急なところほど密度が高い。
石の列で視界が埋まって、抜けてるのは空だけ。
昼でもけっこう圧がある。

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石仏群の奥には仏舎利塔が建ってる。
その先は日徳海の施設で、散策路じゃない。
斜面の上のほうからは、稲城とか府中方面の眺めが開ける。

ただし、この景色は今まさに変わってる最中。
山の周りで大規模な造成が進んでて、地形自体が書き換わってきてる。
数年前の訪問記と今の風景が合わない可能性は高いから、そこは覚えといて。

6. 検証と考察

まず「必ず心霊写真が撮れる」から考えよう。

この手の噂って、前提がわりとズルい。
だって被写体が最初から墓石なんだよ。

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四千基の無縁仏が並ぶ斜面を撮れば、画面には縦に細長い石が大量に写る。
その隙間には必ず影ができる。
人型に見える余地なんて、構図の時点でいくらでも生まれてる。

しかも斜面は起伏が激しくて、木の影が複雑に落ちる。
夜ならライトの角度ひとつで石の反射が変わる。
条件だけ見たら、写り込みが起きやすい場所だと言っていい。

音も同じ話。
あの辺りは住宅地と丘に挟まれた谷戸地形だ。
音が回り込んだり反響したりしやすい。

おまけに今は近くで工事が進んでる。
重機の音も車の音も風で鳴る木の音もある。
静かだと思い込んでる場所ほど、小さい音は爆音に聞こえるんだよね。

とはいえ、だ。
それ全部踏まえたうえでも、あの場所に独特の圧があるのは事実。

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でも原因は霊じゃないと思ってる。
意味の密度だ。

四千基それぞれに、名前があって生活があった人がいた。
そして全員、引き取り手を失った。
それを一望できる場所なんて、そうそう無い。

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気圧されるのは、人間側のごく普通の反応だと思う。

心霊スポットとして扱うかどうかは好きにすればいい。
ただ、ここで起きてる現象の大半は、供養の場が持つ重さの反射だ。
そう考えたほうが、この山の実像に近いと俺は思ってる。

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7. アクセスと周辺環境

最寄りは京王相模原線の京王よみうりランド駅。
そこから妙覚寺方面へ歩いて向かうのが一般的なルート。
距離は徒歩で数分から十数分くらい。

周りは住宅地と梨畑と丘陵が混ざった地域だ。
道は狭いし、路上駐車できるような場所も無い。
車やバイクで近づくなら、置き場所は特に気をつけたほうがいい。

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で、今この南山地区では宅地開発が進んでる。
一帯は「稲城南山東部地区」土地区画整理事業の対象に入ってる。

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南側の斜面は、都市計画道路の読売ランド線とTOKYO GIANTS TOWNの用地として造成中だ。
一方で墓石群のある一帯は宗教施設用地として都市計画決定されてる。
隣接地は緑地と公園用地。

だから石仏群そのものが消えると決まったわけじゃない。
ただ周りの景色と動線は確実に変わる。
訪問記の情報がすぐ古くなる場所だってことは、頭に入れといて損はない。

8. 訪問時の注意

大前提から。
ここは私有地で、宗教施設だ。
無縁仏の供養のために維持されてきた墓地だよ。

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肝試しの舞台じゃない。
そこを間違えると、ただの迷惑行為になる。

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管理者の判断で一部立ち入りが制限されてる場合もある。
特に開発区域との境目は状況が変わりやすい。
案内や規制が出てたら、迷わずそっちに従うこと。

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安全面もけっこうシビアだ。
斜面は急だし、足元が不安定な区画もある。
石の倒壊や崩落の危険が指摘されてきた経緯もある。

夜は街灯がほぼ無い。
暗いし、道の判別も簡単じゃない。
造成が進んでる区域だと、前と地形が違う可能性もある。

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墓石に触る、動かす、乗る。
このへんは完全に論外なので言うまでもない。
撮影するにしても、供養の場だってことを忘れずに。
騒ぐのは近隣にも管理者にも普通に迷惑だ。

この山はさ、行き場を失った石を、人が担いで運び上げて作った場所なんだよ。
それ知ったうえで軽いノリで入る理由は、少なくとも俺には無い。

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9. 参考文献

ありがた山(ウィキペディア)
URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/ありがた山

多摩都市計画事業 稲城南山東部土地区画整理事業 計画図(稲城市役所)
URL:https://www.city.inagi.tokyo.jp/shisei/machi_zukuri/kukakuseiri/kumiaisekou/minamiyama.files/sekkeizu.pdf

名所・旧跡 無縁仏四千超『ありがた山』墓石群(弁天通り商店会)
URL:http://www.bentendori.info/list1032.html

南山 ありがた山(稲城 LocalWiki)
URL:https://ja.localwiki.org/ing/南山_ありがた山

桜井正信『滅びゆく武蔵野』第二集、有峰書店、一九七七年、一七〇頁から一七三頁

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