2026-07

怪談

「陸側水位」

記録的な渇水だった。 鏡伏ダムの貯水率は一割を切り、五十年あまり湖底に沈んでいた集落の跡が水の上へ出ていた。旧県道の白いガードレール。屋敷の石垣。風呂場のタイル。湯呑みのかけらが乾いた泥の中で日を照り返している。 山あいの九月の空気は乾き切...
怪談

三人で帰った

実家の玄関は昔から建て付けが悪い。引き戸を開けるとき、必ず一度つかえてから動く。 八月の終わりの金曜日、私は五年ぶりにその引っかかりを手の中に感じた。奇怪千万 母の容体が良くないと姉から連絡が来たのは三日前だった。末期の癌で、もう病院での治...
怪談

無音区間

金曜日の午後だった。榊真帆はヘッドホンを着け直し、モニターの波形へ目を戻した。東央音響解析の作業ブースは半地下にある。空調の低い唸りのほかに音のない部屋で、真帆は十五年前の音を聞いていた。奇怪千万音声技師という仕事は、声そのものより雑音を扱...
怪談

降車ボタン

カブのヘッドライトが切れたのは、撮影帰りの夜だった。七月の終わり、千葉の内陸の田園地帯で夜景の素材を撮った帰り道になる。月のない晩で、田に映る星を狙って三脚を立てていた。奇怪千万素材の出来は悪くない。機材を仕舞い、いつも通りの帰路につくはず...
怪談

千葉県の北部に印旛沼という大きな沼がある。成田市と印西市の境あたり、沼が細くくびれた場所に甚兵衛大橋という橋が架かる。奇怪千万橋の名前は人の名前だ。甚兵衛。江戸の初めにこの水面で渡し守をしていたと伝わる男の名で、橋ができる前はここに甚兵衛渡...
怪談

行列

茨城県常総市の鬼怒川沿いに、白い塔が立っている。高さはおよそ四十八メートル。田と畑の平らな土地に、そこだけ縦の線が伸びている。鬼怒砂丘慰霊塔。奇怪千万ビルマの仏塔を模した形で、遠目にも工場の煙突とも給水塔とも違う輪郭がすぐ分かる。鬼怒川がこ...
怪談

手招き

千葉県勝浦市の海沿いに、おせんころがしと呼ばれる場所がある。大沢の集落から西へ続く断崖で、高さは数十メートル。太平洋へ向かって切れ落ちた壁が四キロにわたって連なる。奇怪千万昔はこの崖の中腹を旧国道が通り、陸の難所として知られていた。今は新し...
怪談

茨城県笠間市に佐白山という山がある。標高はおよそ二百メートルで、山頂に笠間城の跡が残る。麓の公園は桜と紅葉の名所として知られ、昼は散策の人が絶えない。陶芸の街の穏やかな裏山という顔だ。日が落ちると別の名前で呼ばれる。北関東で指折りの心霊スポ...
怪談

怪談ドライブ

花火大会の帰り、大学生四人が車内で怪談を話し始めた。高速道路まで一時間の道で、運転席の先輩が「今ので九十九話目だ」と告げる。
怪談

多良崎城跡

城巡りが趣味の友人Sから、また連絡が来た。以前、茨城の別の城跡で妙な目に遭って以来、堀底を歩く城には一人で入らないと決めている男だ。「多良崎城、行ってるよな」電話の第一声がそれだった。行っている。ひたちなか市の多良崎城跡。深夜に一人で三度入...
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