怪談
実話怪談・心霊体験談・怪談小説をまとめています。
怪談・小説
カクヨム掲載作品の紹介ページです。脚色を含む実話・モデルのある作品として、概要と第1話冒頭で入口をまとめています。
一人で心霊スポットへ
名を呼べば、湖の下の暮らしが返る
花嫁として山へ返される運命の少女を、俺は救うつもりだった。
youtubeに投稿する動画を撮りに一人で心霊スポットへ
見せた瞬間に順番がついた。消えていくのはコメント欄の向こう側からだった
野宿の夜、戸を閉めるなと言われた。閉めれば、返事をされる。
橋の下から名前を呼ばれても、返事をしてはいけない。
旧峠道で、二時十三分に終点行きが増える。
怪談・体験談
実話怪談、怖い話、心霊体験談をまとめています。
庭に椅子を出す場所を、大家さんに訊いた。石灯籠へ明かりが入ると、平らな敷石で俺だ…
辞めた店へ返す仕事着を洗い直した。乾燥機からこぼれた熱い砂に、小さな透明の殻が交…
初めての体験稽古で、何もせず相手を見ているよう言われた。彼女には、私が違う場所か…
片方だけ白くなった靴を、両方きれいにしてほしかった。磨かれる右足を台に載せたまま…
妻の眼鏡を受け取った帰り、知らない女の人の遺影を見て泣いた。なぜ懐かしいのか考え…
退職した高瀬は、旧友を昼に訪ねた。幼い頃に一度会った娘が、何度も来たはずだと言っ…
焼き鳥の皮を待っていた。柱の横で丸くなった煙は、扇風機を止めても崩れなかった。
妹と出掛けた小さな美術館で、ポスターの女が顔を背けていた。近づくと、女は椅子を降…
運転を再開した友人の駐車練習に付き合った。向こうの列に、同じ傷のある車が停まって…
一人で梨の摘み取りへ来た恵は、ようやく気に入った実を見つけた。割ってもらうと、そ…
日曜に二局打ち、勝った方が蕎麦を奢る。そんな付き合いの相手と盤を挟んでいた時、白…
敷布団を試した妻が、家具店の売場で眠ってしまった。起こさずに待つ夫は、その足元の…
買物帰りに立ち寄った餅まきで、隣の女性と袋を分け合った。餅へ伸びた手は下がったの…
半年ぶりに仲間の練習へ戻った榊は、三人の声がよく合うことにほっとした。歌い終えて…
久しぶりに入った市営プールで、男が楽な泳ぎ方を教えてくれた。手本を見ようとした時…
借りていた資材置場を返す日、刈り取った草から白い穂が開いた。地主の文代が撤去を求…
旅先の宿で、客の鞄が床を噛み始めた。持ち主の男は、自分の工具よりも、三つの預かり…
資料展の片づけ中、展示ケースのガラス戸が枠を離れた。誰も持っていない一枚の板が、…
敷物を洗うつもりだった日曜の昼、腰をかがめた私は妻に背中を押してもらった。痛くは…
祖父との墓参りで、まだほどいていない花の包みがごみ袋に入っていた。火をつける前に…
同窓会の幹事を断るつもりで、久しぶりに美和と会った。公園の砂利道で、一歩ぶんの足…
閉店前の美容室。客の髪を洗う千種の目に、自分を下から仰ぐ顔が映る。客を起こしても…
人物を描く会で、モデルの椅子が白い壁から離れなくなった。描き直している高井さんは…
二十球を打ち終え、仕事仲間と屋上の打席を出た。床へ落ちたネットの影に、靴が引っか…
甥を預かりに姉の家へ行った。居間には、どちらから見ても背中しか見えない男がいた。…
夜の港で、相良は船から降りる女の荷物を受け取った。腕は重さで下がったのに、そこに…
六月、叔母の庭で葡萄に袋を掛けていた。新しい袋から落ちたのは、まだ実ってもいない…
閉じたスキー場へ、昔の友人と登った。車は下に見えていた。足が引かれるのは、別のほ…
二人暮らしを終える日、最後の皿を洗っていた。水は流れているのに、音がしない。受け…
プラネタリウムの投影を止めても、天井は青空のままだった。九人の客が見上げる先に窓…
会社の先輩と献血へ行った。先輩が奥へ入っている間、窓際で待つ女の人が、私の目の前…
弟の事故の謝罪へ、桐子は付き添うことになった。相手の手首はもう治っているという。…
婚約を解消した二人は、取り消し損ねた予約を使って最後の食事に出かける。食べたこと…
囲碁会に初めて来た男と、芳乃は小さな盤を挟んでいた。焦げた砂糖の匂いがして、男の…
虫を大事にする人だと思っていた。標本箱を運ぶ手伝いに行き、こぼれた虫が歩くのを見…
祭りの翌朝、町内会の幟を片づけていた三浦は、新しく越してきた根岸の手際に驚く。濡…
介護の合間に、旧友の麻衣を誘って出かけた二泊の旅。山の展望広場で眠った麻衣へ話し…
実家へ行く娘の袋に、タオルが増えていた。母には昔から、死んだふりをして子供を泣か…
夜間の防災訓練で、私は中西さんに帰宅を希望する人の役を頼んだ。遅れて来た班のため…
返品された鉢を調べ直す午後。食器卸で二十三年働く信岡のもとへ、いつもの引き取りの…
転職を機に借りた古い下宿で、共同洗面台の半分だけが使えなかった。入院する大家から…
模型飛行場を返す最後の日、篠田は作り上げた飛行機を長年の仲間へ譲る。敷物を剥がし…
久しぶりに引き受けた友人の散髪。長い髪を持ち上げると、襟足にもう一つ、よく知る口…
初めて草野球に来た同僚が、草むらへ入った球を追った。拾ったらしい誰かへ返球を頼ん…
閉めた店の灰皿を売るため、昔作った怪談を商品説明へ加えた。見てから買いたいという…
三年暮らした友人の家を出て、一人の部屋を借りた奈央。家具を置かずに残した床で夕飯…
事務所の引越を手伝った日、床に水がこぼれていた。何も持っていなかった社長が、いつ…
田淵の遺体が見つかったのは翌朝だった。その前の晩、本人はずっと、人のいない場所へ…
夜回りの後ろには、家がきしむような音がついてきた。いつも同じ空き家の前で止んでい…
戸棚の後ろに溜まっていた白いものは、爪に似ていた。その裏を見てから、見覚えのない…
父の箪笥から、子供のころに買ってもらったバスが出てきた。遊んだ感触は覚えている。…
長話が迷惑な山崎さんと同室になった。けれど、その晩は彼が喋り始めるたび、窓や廊下…
閉館する旅館で、池の魚を移す手伝いをした。死んだ鯉に貼りついていた花柄の紙を、三…
閉める音楽教室で、最後の調律を頼まれた。合わせたばかりの鍵盤が狂う。手を止めても…
きれいなままの菊を、引き取ってほしいと男が来た。常連客の夫だと言う。花屋の佐恵が…
恒川の家に、年齢も誕生日も分からない人が暮らしていた。祝いのケーキを頼まれて訪ね…
用具のテントに向かって、子供たちがじゃんけんをしていた。相手は白い顔の男だという…
街で見かける父は、死んだときの姿のままではなかった。八年かけてその暮らしを追った…
割られた窓を直して回るガラス屋に、客が言った。小さな子を現場へ連れてこないでほし…
長く勤めていた若者が辞めてから、共同浴場の脱衣場に臭いがするようになった。鼠の片…
釣りへ行く夫の袋に、私の好きな菓子が入っていた。別の女へ渡す物だと思って後を追う…
休憩施設の喫煙所で、ガラスの赤い跡が泡になって離れた。高速道路へ戻ると、その泡が…
合併後の会社研修で、年長の契約社員は若い社員たちと背中を合わせる。四人で立てたは…
救命講習の片づけで、人形から抜いた袋が呼吸を始めた。捨てようとすると、講師は「せ…
夜の採集を手伝いに行った。先生は人の気配のない安全な場所だと言ったが、白布の裏か…
海辺の催しが終わり、火も消したはずだった。事務所の窓から見えた赤さを確かめに行く…
境の塀を壊す日、内藤は石まで半分に分けると言い出した。昼になると、空の袋を広げた…
二泊三日の釣りから帰り、友人に靴の話をすると、俺は釣りをしないと言われた。宿では…
帰国便で、隣の男に頼まれて白い包みを持ち上げた。眠っている間に窓際の席は空き、そ…
祖母は入院中、鯉をよそへ移したら池へ水を戻さないでほしいと頼んでいた。家族へ伝え…
稽古場所を失った若い落語家は、河原の林へ通い始めた。人の姿は見えないのに、笑い声…
紅葉を撮りに行く途中、事故に出くわした。同行した森田は救急車が去っても三脚を畳ま…
八歳の息子と泊まったキャンプ場で、右隣の男と雨の話をした。こちらではまだ降ってい…
迎えに来るのが好きな祖父は、毎週木曜日にも車を使った。私が代わりに運転すると、峠…
夜明け前の山道を自転車で上っていた。谷から広がる朝焼けの中に、同じように自転車を…
自分で稼いだ金で栗山を買った岡部さんは、白い顔の連中に睨まれながら、毎年、栗を拾…
出張帰りに寄った温泉で、眼鏡を外した先輩と風呂へ入った。先客の背中から、もう一組…
港へ向かう道を間違えた姉弟は、杉林の脇で水色の帽子を持つ女に会う。帽子の中から、…
釣れたのは、魚より濡れた布に似ていた。網に入れた途端、それは男の声で、水へ戻さな…
父は昔、峠で白い車が落ちるのを見たという。地元紙の取材でその記憶を確かめ始めると…
甥が学校で作った凧を海辺で揚げた。凧の上に薄い服を着た人が引っ掛かり、こちらへ降…
風呂上がりに顔を拭こうとすると、タオルの裏に髭と唇が触れた。床へ落とせば、いつも…
売りに出した家の庭に、知らない人が座っていた。内見の客だと思ったが、帰る途中にい…
二年前に死んだ父の布団を、母に頼まれて干しに行った。掛布団を剥ぐと、薄くなった父…
叔母が親しくなった男の顔を、一緒に見に行くことになった。干潮の岩場で男が帽子を取…
得意先へ早く着きすぎた朝、近くの喫茶店へ入った。階段で息を切らした私に、店員はマ…
引っ越し用の箱に、一枚だけ内側へ壁紙を貼ったものが混じっていた。箱へカーテンを入…
押入れへ伸ばした指の爪を、誰かに切られた。部屋を出ても手入れは続き、やがて自分の…
幽霊が見えるという昔の嘘を信じ、清水は私を買ったばかりの部屋へ呼んだ。壁の人型を…
八歳の時に飼った文鳥は、何度死んでも戻ってきた。母は元気な一羽だけを籠に残し、弱…
停電の晩、黒川はもらい物のろうそくに火をつけた。炎は明るいのに、その下だけが暗い…
小宮には、子供のころから何かがついていた。五十二歳になったある夜、その小宮が着替…
七十一歳になって踊りを始めた母は、金色の靴を買った。迎えに行った午後、母の相手は…
夫が私を描くようになったのは、結婚して二十三年目のことだった。寝ているところを描…
昔の仲間と飲むために借りた家で、飯塚は蛙を見つけた。その目が閉じるより先に、自分…
早朝に車を出してもらうため、友人の美佳の部屋へ泊まった。夜明け前に水を飲んで戻る…
閉店間際、花嫁が裸足で貸衣裳店へ戻ってきた。脱ぐのを手伝ってほしいという。背中の…
古本屋の飼い猫は、いつも濡れた忘れ物を運んできた。やがて忘れ物より先に、持ち主が…
友人の家で食べた薄い焦げ皮が忘れられなかった。もう一度分けてほしいと訪ねた台所に…
別れを告げるため訪れた部屋で、修平はいつもの麻婆豆腐を作っていた。食べ始めると、…
十五万円を借りるため、四か月ぶりに実家へ帰った。父はいつも通り私の言い方を直し、…
水曜の成人水泳教室で競う沢村さん。水の上ではいつも通りなのに、潜ると身体が小さく…
日当を目当てに参加した群衆撮影。声を出さずに怒る顔を演じるうち、衣装に付いていな…
予定にない避難訓練の放送が流れた朝、階段で知らない男が社員を待たせていた。外へ出…
合唱団へ入った多恵子は、自分の声を隠して歌っていた。見学の男が来るようになってか…
四か月ぶりの面接で、履歴書に書かなかった仕事の話を訊かれた。廊下には、長く勤めた…
建築模型の工場へ来た少年は、見せた作業よりも、働く人の動きをよく見ていた。駅まで…
古い自主映画の同じ場面で、元部員たちは一斉に笑った。ところが、何がおかしかったの…
三年ぶりにレースへ戻る旧友と走った。折り返して来る若い走者の中に、高校の時のその…
退職してからも集まる三人には、いつもの席と、いつもの話があった。ある夜、仕切りの…
初めて人物画のモデルを務めた春菜は、受講者全員が閉じた目を描いていることに気づく…
店先の老人は白い花束を抱えていた。先輩がそれを受け取ったように見えたが、本人は「…
布店を手伝っていた夏、雨の降っていない日に傘を畳む客が来た。別の客は、店の前にあ…
いつも球を右へ落とす大原が、三度続けてストライクを出した。喜ぶ私たちに、彼は靴の…
五日前に渡された台本の謝罪を、初日の観客が先に知っていた。代役の俳優は、舞台から…
礼装用の手袋を探す客は、試着した自分の指を見て「これ誰の手ですか」と訊いた。店員…
二十年ぶりの同窓会へ来た男を、友人たちはそれぞれ違う名前で呼んだ。写真を撮る係だ…
男を降ろした岸は、帰りに振り返ると、もう水の下だった。 崖も木も沈んでいたのでは…
荷物を載せていない籠が、重そうに下りてきた。 山田は柱の横へ立ち、吊られた籠の底…
褒めてくれる先生が欲しくて、二人で黒板に知らない顔を描いた。文化祭の日、その先生…
村瀬さんの机の下に草が生えていた。彼女はまだ座って働いていたのに、細い踵の泥の跡…
まだ洗っていない匙が、下流の石に載っていた。 柄の赤い塗りが剥げた、私の匙だった…
木を見に行く途中で、福原は自分の車の音が消えたことに気づいた。 エンジンは動いて…
担架を持つ手を替えると、顔が変わった。 猪の顔だったはずなのに、右から覗くと人の…
雪を噛んでいるはずの前輪が、宙に浮いていた。 倉本は作業灯を下げて確かめた。車の…
海へ抜けられますか、と軽自動車の女に聞かれた。 私は反射的に、抜けられますと答え…
売った花が、翌朝、畑へ戻っていた。 同じ種類が咲いただけだと考えた。白い小さな花…
根の裏に、誰かが腰を下ろしていた跡があった。 二つの丸い窪みがあり、その前だけ土…
早苗の干場では、網を裏返して使わなかった。 油の付き方が違うので、魚がくっついて…
犬は私を見て吠えているのだと、最初は思った。 玄関の戸を開けた私の足元で、リクは…
口笛のうまい人だった、と宮地は聞いていた。 借りた梨畑を以前に作っていた人のこと…
真鍋さんは、魚をすくうときだけ煙草を口から外した。火をつけない煙草を、いつも唇の…
「杭だけ見といてください。向こうの山は、いいです」 助手の小関にそう言ったのは私…
猿は檻の中から、私に椅子を勧めた。 小屋の隅にあった丸椅子を指し、それから自分の…
昼を食べに屋上へ行くと、客はみんな背中を向けていた。こちらへ歩いてくる人にも背中…
街頭相談の受付で男の話を聞いていた。返事をする前に空席から私の声がした。その相槌…
柳田に誘われた立ち飲み屋は、ひどく狭かった。客を通そうと身を引くと、隣の男の背中…
荷台の雨は、トンネルへ入っても止まなかった。 高田はラジオの音量を下げた。後ろの…
夜勤明けの交差点で、男が口笛を吹いていた。信号は赤だった。私は歩いていないのに、…
乾燥機が止まっても、女の人は起きなかった。やがて彼女が椅子を離れたあとにも、眠っ…
歯科の待合室で、口を開けると目の前が暗くなった。隣の患者が返事をすると、その口の…
夜勤の代行で入ったマンション。誰もいないエレベーターから青い袖と手だけが出てきた…
毎朝、図書館で新聞を読む男がいた。その隣に座る人は、いつもこちらを見た。私の目も…
弓野の右の靴音なら、振り向かなくても分かった。その音が郷土博物館の奥から聞こえた…
顔だけ知る喫煙仲間が煙を吐いた。その煙は私の口から出た。硝子張りの小さな喫煙所で…
市の片づけ帰り、友人三人で歩道橋の下へ雨宿りした。濡れた人たちは私たちと同じよう…
倒れた自転車を起こす老女を手伝おうとした。前輪が地面に落ちたとき、誰もいないサド…
いつも通る駅の連絡通路で、人々が頭を下げて歩いていた。足首をつかんだ配送員は、床…
面接までの時間を公園で過ごす女に、池のまんなかを指さされた。水上のベンチには、彼…
上映前のスクリーンに、別の映画館の廊下が映った。そこで靴を脱いだ客が、こちらの客…
五年ぶりに飲んだ西尾は、改札を通って帰ったはずだった。柱にも券売機にも、別れ際の…
頭を撫でられて目を覚ますと、自分の左手が髪の中を動いていた。眠っている間の暮らし…
水曜日だけ、隣の女の人の電話が聞こえた。 ほかの日より帰りが二時間ほど遅くなる。…
修理中の小舟の船底に、自分の部屋の座布団が入っていた。床板の下には、船に収まるは…
夜行列車を模した宿で、切符を持たない姉妹に検札の声がする。眠りかけるたび、二人の…
引っ越しの日、祖母の朝顔をつまむと、片づけたはずの部屋で椅子が倒れた。花の向こう…
借りた畑の真ん中で、老人がいつも昼休みをしていた。その椅子へ座ると、苗が急に伸び…
母の薬袋の底に、輪のない銀色の鈴が入っていた。音がすると、母はまだ終えていない誰…
叔父にもらった煙草入れを開くと、煙が帰り道を示した。通った道は振り返ると消えてい…
沈む縁側の板へ入らせないため、古い赤い紐を渡した。親戚の集まりが終わっても、誰も…
移転を頼まれた墓の周りだけ、雨上がりの土に足跡が付かなかった。石を持ち上げると、…
娘が屋上で十二個目の星を数えると、向かいの窓が消えた。空からは、人の数を尋ねる声…
知らない少年が雪かきを手伝うと言い、どけた雪を玄関へ戻し始めた。怒って戸を閉めよ…
休園日の動物広場で、アヒルが人の声で返事をした。池の砂からは、何のものか分からな…
父の米屋で袋を受け取る客の足元に、四つん這いの人が見えた。倉庫の古い米櫃は、すく…
いつも弁当を二つ買う客の家から、茶碗やスリッパが店へ移ってきた。温め終えるたび、…
母の家の郵便受けから、別居する娘の寝息が聞こえた。母は毎晩それを開き、娘が帰った…
氷屋の最後の営業日、古い荷車へ載せた六本の氷に、知らない家が映った。氷を箱から出…
同僚に借りた眼鏡を掛けると、耳の手前に小さな横顔が見えた。十六年間、向かいの机に…
旅館の階段に滑り止めを貼り直すと、一本余った。夕食のあとに数えると、今度は段が増…
古い秤で砂糖を買った客は、必ずもう少しと頼んだ。店主が足すたびに客の声が幼くなり…
父の古いトランペットを吹くと、息を入れる前に音が出た。別れの曲を頼んだ父の友人は…
祖母の家を片づける孫娘を、老猫が糸を引いて助ける。事故を免れるたび、家の壁の輪郭…
父が借家の床下に階段を見つけた。段は横向きに続き、父は家の壁に足をつけたときだけ…
売却する古いバスの座席を洗うと、染みついた樟脳の匂いが消えた。その夜、開いた扉を…
閉園する幼稚園で、娘が作った砂の料理から湯気が立った。食べられないと分かっている…
母の介助に戻った実家で、引き戸の曇りガラスに膝が見えた。戸を開けるたび、向こうの…
商店街の止まった時計を直すと、住民が昼間から眠り始めた。夜には、姿の見えない誰か…
兄の家へ泊まると、毎朝、兄嫁の足の向きが変わっていた。兄へ相談しても、昔からそう…
父の青果店で売り始めた空の紙袋には、小さな青空が入っていた。口を広げるたび、店の…
温泉へ向かう途中、夫が吊り橋で眠ってしまった。橋の揺れが止まりかけるたび、谷の下…
十年ぶりに弟と酒を飲んだ。杯を合わせてから、向かいに座る弟の年齢と声が、私の知ら…
廃駅の百葉箱を開けると、八月なのに雪がこぼれた。亡父が使った鉛筆を返すと、中から…
祖父の自慢の魚拓を額から出すと、紙の上に川が流れ始めた。黒い鯉の腹へ、見知らぬ家…
父の石屋を片づけ、空白の革手帳を持ち帰った。ページをめくると指の感覚が抜け、触れ…
夜市の売上げに、指へ貼りつく五百円玉が混じっていた。増える釣り銭を使うたび、夫婦…
亡犬の遺骨を引き取った車内で、一本の脚が歩く音がした。母が犬の名を呼ぶたび、後部…
父の古い体温計を切ると、捨てたはずの青い手袋が戻った。熱のある寝床には、父のもの…
行きたくない道でだけ、自転車が動かなくなる。助けられていると思った早紀のまわりで…
借りた畑の一角だけ、雨が土へ落ちない。芋の根を引くと、地面の下で誰かが夕飯の食器…
父は玄関の外にいた。帰してはいけないと告げる男は、家の中にいた。八歳の悠介は、知…
料理教室に誰も注文していない葉が届いた。口にした人たちは皆、食べ損ねた夜のご飯の…
叔父が水門に留めていた洗濯ばさみを外した。水が逆に動き始め、向こう側がこちらの声…
祖母の針山から針を抜くと、母の皮膚に文字が浮いた。白い頭の一本を動かした途端、母…
向かいの老婦人の双眼鏡がこちらへ向くと、家の戸口が狭くなった。彼女が見ていたのは…
十歳の娘の誕生日。蝋燭を灯すと空席が沈み、煤の顔が増えた。火を消そうとした母親の…
預かった父の革靴は、右の靴底だけ減っていなかった。剥がすと青い糸が出てきて、棚の…
廃部の用具室に娘の上履きがあった。古い砂時計を動かすと、家に置いてきた物がグラウ…
弟が海から持ち帰った塩を使うと、食卓の水が消えた。父の家では、乾いた魚の皮が夕飯…
閉店後の浴槽で見つけた透明な爪は、翌日も同じ目地に生えていた。母も常連客も、指が…
引退する親方と山の集会所を直した。道具を持って出ようとすると、床も柱も同じ距離を…
亡き母の朗読を姉の結婚式で流すため、録音の沈黙を切り詰めた。作業を進めるたび、古…
公民館の座布団を捨てると聞いて、父はわざわざ車を出した。将棋会は三年前になくなっ…
母の耳たぶの小さな穴には、畳の部屋が見えた。そこにいる五歳の私が、今の私の声で話…
止まっている観覧車の影だけが回っていた。娘を探しに行くと、一人は柵の中に、もう一…
父の窯から出た壺には、生きた虫が入っていた。客に手を掴まれた父の影だけが、狐の形…
祖母の人形劇の最後の公演で、人形を笑わせるたびに観客が一人消えた。戻ってきた客に…
雨の降らない朝、マンションの雨樋から甘い液体が落ちていた。住人たちは洗面器でそれ…
終電を逃した町で、帰る夢を見られる枕を買った。翌朝、その布には自宅までの道が自分…
十五階の窓を拭いていた。ガラスの汚れだと思った白い筋は、空そのものに付いていた。
夫の昔の同僚だという客を居間へ通した。冷蔵庫の白い扉には、その客と楽しそうに話す…
砂の顔に本物の歯を並べる男へ、歯の向きが反対だと教えた。その夜、自分の奥歯の根が…
離婚の翌日、二人で持ち上げた箪笥を下ろせなくなった。空の引き出しの奥では、まだ夫…
白髪の中に生えた一束の黒髪を、祖父は喜んだ。翌朝には肩へ届いていた。
隣家の解体で、暗かった台所に光が入った。残った壁には、ないはずの階段の影が続いて…
対岸の誘導員をしていた夜、川に魚の影が現れた。観客は空ではなく、水面へ拍手をして…
閉店を控えた写真館で、店主は使われていない暗室に昼飯を食べに入る。
実家に戻った兄の靴には、左右とも親指の先に穴が開いていた。
開かない小箱の修理代は八万円。中から聞こえたのは、女が爪を切る音だった。
途中で乗ってきた女は、先客と同じ花束を持ち、同じ行先を告げた。
父の再婚相手は、家に現れる虫を一匹ずつ外へ出す人だった。玄関の明かりの下で、その…
出張中の部屋から漏水の連絡が来た。戻ると、乾いた天井の下に雨が降っていた。九階の…
港の似顔絵屋に来た男は、まだ見えない船を描いてほしいと言った。
夫婦が食卓を囲む水曜日。夫は一週間前から夕飯の匂いを嗅ぎ、妻は知らない台所で同じ…
閉店後の駐車場に、巨大な白鳥の輪郭が現れる。白い線を黒く塗り潰すたび、鳥の腹に停…
母は眠るとき、布団の上に土をかぶる。園芸を仕事にする娘が床下を覗くと、暗闇に緑の…
盆踊りの輪に、去年亡くなった祖母がいた。妹はその後ろで踊っている。けれど屋台のそ…
住みこみの果樹園から、弟が桃を送ってきた。箱を開けると、果物より先に弟の使ってい…
列車の来なくなった踏切の水溜まりに、人が歩いていた。水を埋めた翌朝、固定されてい…
四番の椅子に座る客だけは、叔父しか剃らなかった。留守の月曜、耳の下の髭へ刃を当て…
父と息子で切った影絵。紙の襟を切り落とした瞬間、息子が喉を押さえた。古い黒紙の上…
磨くと魚の影が見える白い石。叔父が少しずつ削っていた面を、居候の甥は勝手に磨いた…
友人の婚礼で化粧を頼まれた。門を開けてくれた老女の影は、小さな犬の形をしていた。…
閉じる陶芸教室で、古いバケツの土を捨てようとした。取りに来た女性は、それだけは自…
借りた傘は、紺色だったと思う。妻にそう言うと、黒だったよ、と返された。暗いところ…
本当に受けたときは、何を喋ったかあまり覚えていない。次の台詞を言いたいのに、客の…
遥が靴を脱いだので、私は少し驚いた。舗装していない道ならともかく、そこは住宅の間…
先生が返してくれたのは、木を削って作った小さな船だった。船底に、俺の名前が鉛筆で…
古い白線を削ると、下から敷居が出てきた。木の敷居だった。両端を切ったように道の途…
兄が送ってきた蜂蜜は、蓋を開けると煙の匂いがした。失敗したのかと電話で聞いたら、…
除雪車から見ると、その家の前だけ、春のようだった。屋根にも庭にも雪がない。両隣に…
火を迎える晩には、家の中で喧嘩をしない。小さいころ、祖母にそう言われた。弟と叩き…
池の底で、伯父が帽子を脱いだ。首の汗を拭いているのだろうと思ったら、帽子を逆さに…
森さんは、その日、休みだった。朝礼で班長がそう言ったし、更衣室の靴もなかった。そ…
三枝は、古い服の直しを受けるとき、まず持ち主に着てもらった。服だけ預かっても、ど…
あの図書館の返却口は、妙に低いところについていた。子供でも届くようにしたのだろう…
船で荷物を運んでいたころ、宛名を声に出して読む癖があった。耳でも確かめておけば間…
宮内さんは風の強い日に、外で網を繕った。晴れて凪いだ日は家にいて、テレビを大きな…
「その子、うちでは吠えないんです」飼い主にそう言われると、里奈はたいてい笑って受…
「最後の人ですか」その女の人に聞かれて、私ははいと答えた。答えたときには、まだ列…
母は、洗濯物に名前を書く人だった。靴下にも肌着にも、油性ペンで大きく書いた。介護…
娘の部屋の電球を替えに行ったとき、俺はもう、そこに住んでいなかった。離婚して半年…
売り家の写真に、人が写ってはいけない。赤井は撮影に行くたび、それを最初に説明した…
余った給食を子供に渡していいかと聞かれて、芳江は駄目だと答えた。勝手に渡せば、食…
畳屋を閉める父を手伝い、古い家から六枚の畳を運び出した。裏側には足の跡がついてい…
記録的な渇水だった。 鏡伏ダムの貯水率は一割を切り、五十年あまり湖底に沈んで…
実家の玄関は昔から建て付けが悪い。引き戸を開けるとき、必ず一度つかえてから動く…
金曜日の午後だった。 榊真帆はヘッドホンを着け直し、モニターの波形へ目を戻した。…
カブのヘッドライトが切れたのは、撮影帰りの夜だった。 七月の終わり、千葉の内陸の…
千葉県の北部に印旛沼という大きな沼がある。 成田市と印西市の境あたり、沼が細くく…
茨城県常総市の鬼怒川沿いに、白い塔が立っている。 高さはおよそ四十八メートル。 …
千葉県勝浦市の海沿いに、おせんころがしと呼ばれる場所がある。 大沢の集落から西へ…
茨城県笠間市に佐白山という山がある。 標高はおよそ二百メートルで、山頂に笠間城の…
花火大会の帰り、大学生四人が車内で怪談を話し始めた。高速道路まで一時間の道で、運…
城巡りが趣味の友人Sから、また連絡が来た。 以前、茨城の別の城跡で妙な目に遭って…
写真を撮る友人がいる。以下Yと呼ぶ。 風景専門で、月の出と日の出のためなら平気で…
釣具店で知り合って十年になる友人がいる。以下Nと呼ぶ。 バス釣り一筋の男で、房総…
田を作っている友人がいる。 数年前に千葉の内陸の集落へ移り、空いていた田を借りて…
城巡りを趣味にしている友人がいる。 月に一度ほど喫茶店で会う仲で、以下Sと呼ぶ。…
夕方に友人が庭へ入ってきた。 カブを見せろというのが口実で、用件が別にあるのは顔…
測量士をしている友人から、夜の十一時すぎに電話があった。 うちの固定電話はふだん…
三沢から電話が来たのは、盆を過ぎた蒸し暑い晩だった。 固定電話の受話器を取ると、…
友人の話から始める。 そいつの育った町に、古い農業用のため池があった。 田んぼに…
三沢とは十年来の付き合いになる。ふだんは釣りと車の話しかしない男だ。その三沢から…
三沢から電話が来たのは、盆が過ぎてしばらくした晩だった。 固定電話の受話器を取る…
友人の話から始める。 そいつは千葉県房総半島のある内陸の町で育った。 田んぼと雑…
友人の話から始める。 そいつが子供のころ、近所に取り壊しの決まった空き家があった…
知人から相談を受けたのは、梅雨が明けるか明けないかの頃だった。 勤め先が変わって…
取り壊しの決まった古い公団があると聞いて、撮りに行った。 現場は千葉市内の郊外で…
この話は、友人から聞いたものだ。 そいつは夜の長距離ドライブが好きで、用がなくて…
眠れない夜には、近所を少しだけ歩くことにしている。 頭の芯が妙に冴えて寝つけない…
眠れない夜には、近所をあてもなく歩くことにしている。 撮影で見聞きしたものを家へ…
私の家には固定電話がある。 契約まわりや役所からの連絡くらいにしか使わない代物で…
心霊スポットの撮影から戻る深夜、私はよく住宅街の小さな児童公園を通り抜ける。 カ…
心霊スポットの撮影から戻る深夜、私はカブを庭に止めると、頭を冷やしにそのまま近所…
心霊スポットの撮影から戻る深夜、私はカブを庭に止めると、頭を冷やしにそのまま近所…
深夜のコンビニには、決まった静けさがある。 心霊スポットを巡った帰り道、私はよく…
眠れない夜には、近所を少しだけ歩くことにしている。 心霊スポットを巡って深夜に帰…
第1話「滴」 引っ越してきて三日目の夜のことだ。 家賃の安さだけで決めた部屋だっ…
団地の差し入れ、十四階のエレベーター、つながらない番号、墓地の言い伝え、存在しな…
連作実話怪談「折り返せない道 第2話 地元の人間は笑わない」。翌日は昼前に家を出…
連作実話怪談「折り返せない道 第3話 増えた時刻」。翌週は昼前に峠の麓に着いた。…
連作実話怪談「折り返せない道 第4話 裏手の足音」。写真に人の形が写っていた。 …
連作実話怪談「折り返せない道 第5話 撮っていない一枚」。帰宅したのは日が暮れた…
連作実話怪談「折り返せない道 第1話 前を行く者」。その夜は、特に目的があって走…
実話怪談・心霊体験談「第19話 友人G」。僕の幼なじみ友人Gの話 生配信でもお馴…
実話怪談・心霊体験談「第20話 変なおじさん」。どこの地元でもよくある話 大きい…
実話怪談・心霊体験談「第17話 電話ボックス」。僕が高校2年生の時の話だ 僕は1…
実話怪談・心霊体験談「第18話 スマホ」。これは最近の話だ 今の小学生はiPho…
実話怪談・心霊体験談「第15話 やる気がない」。この話は結構最近の話だ 突然何も…
実話怪談・心霊体験談「第16話 手相」。これは僕が21歳の時だ まだ幼い長女を連…
実話怪談・心霊体験談「第14話 水道」。夜、僕は喉が渇いて目が覚めた。 冷蔵庫に…
実話怪談・心霊体験談「第11話 『しまこ』」。『しまこ』 これは怪談ではない。 …
実話怪談・心霊体験談「第12話 入院中の話」。入院中の怖い体験 これは二〇二五年…
実話怪談・心霊体験談「第13話 四〇六は、下にある」。東京都練馬区にある団地の四…
実話怪談・心霊体験談「第8話 ただいま」。扉を、開けなくてよかった。 今でもそう…
実話怪談・心霊体験談「第9話 誰も予約していない古民家」。誰も予約していない古民…
実話怪談・心霊体験談「第10話 僕の後ろにいる女性」。後ろの女 この話は、すべて…
実話怪談・心霊体験談「第4話 隣の部屋」。これは中野区で一人暮らしをしていた時の…
実話怪談・心霊体験談「第5話 2:44」。2:44 第1章 深夜のルーティン こ…
実話怪談・心霊体験談「第6話 隣の窓」。昨年の春から、約半年間だけ地方の支社に転…
実話怪談・心霊体験談「第7話 神奈川県の心霊スポットでの体験談」。XX稲荷の話を…
実話怪談・心霊体験談「第1話 東京都心霊スポット 『八王子城』」。僕の愛車スーパ…
実話怪談・心霊体験談「第2話 入院中の怖い体験」。これは2025年の暮れの話だ。…
実話怪談・心霊体験談「第3話 エレベーター」。これは15年以上前、僕と当時付き合…
心霊スポット怪談「第4話 網は“落ちる人”を守らない。落ちた“声”を逃がさない」…
心霊スポット怪談「第5話 橋を渡るな。数を渡せ」。僕らは、逃げるように慰霊碑へ向…
心霊スポット怪談「第1話 赤い橋に、網が張られている」。YouTube撮影の依頼…
心霊スポット怪談「第2話 慰霊碑の花は、必ず八本」。翌日、僕は昼の神流湖へ戻った…
心霊スポット怪談「第3話 門ヶ谷トンネルの出口で、車が空っぽになる」。Tと合流し…
