怪談
実話怪談・心霊体験談・怪談小説をまとめています。
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怪異の型で探す
姿が見える(31)物の移動・増減(21)見えない圧・接触(20)時間・記憶のずれ(17)呪物(14)音・声だけ(13)人の入れ替わり(11)ネット発(10)土地・家系の因習(9)
怪談・小説
カクヨム掲載作品の紹介ページです。実話やモデルのある話に脚色を加えた作品を、概要と第1話の冒頭で紹介しています。
一人で心霊スポットへ
名を呼べば、湖の下の暮らしが返る
花嫁として山へ返される運命の少女を、俺は救うつもりだった。
youtubeに投稿する動画を撮りに一人で心霊スポットへ
見せた瞬間に順番がついた。消えていくのはコメント欄の向こう側からだった
野宿の夜、戸を閉めるなと言われた。閉めれば、返事をされる。
橋の下から名前を呼ばれても、返事をしてはいけない。
旧峠道で、二時十三分に終点行きが増える。
怪談・体験談
実話怪談、怖い話、心霊体験談をまとめています。
毎朝、家の前の桜を数えてから仕事に出る。川沿いの道に一列に植わった、十二本だ。古…
わしは今年で七十四になる。菰野の小さいタクシー会社で、夕方の番をしとる。四日市の…
十月の半ばの、金曜の夜だった。拓海の仕事が長引いて、名古屋を出たのは九時半を回っ…
六月の終わりは、工場の中まで湿っている。床のコンクリートが汗をかいて、長靴の底が…
ばあちゃんは、人の話を右の耳で聞いた。誰かに話しかけられると、首を少し右にかしげ…
私が働いているのは、光市の立野にある小さな直売所だ。立野橋の西で、県道八号から二…
親父の家の廊下には、鳴る板がある。玄関から数えて、三枚目だ。踏むと、ぎい、と低く…
律子の朝は、夜中の三時に始まる。港のほうのパン工場で、早番をしている。五時には白…
新潟ロシア村で買ったマトリョーシカの話を、三人から聞いた。小学校の同級生で、今も…
夜八時から朝の六時まで、逗子の営業所で配車の無線を取っている。駅から歩いて五分の…
翁島駅で降りたのは、沢井ひとりだった。郡山で新幹線から、磐越西線の普通列車に乗り…
子どもの頃、秋祭りの日にだけ守る決まりが、うちにはあった。近所のどの家にもない、…
毎年、十月の三日に稲武へ行く。佳代の母親の命日で、墓が稲武の寺にある。豊田の家か…
木曜の夜は、日付が変わってから寝る。由紀の勤め先はホームセンターで、土日に出るか…
長尾から連絡が来たのは、十月の初めだ。「久保が札幌から戻ってきた、金曜に飲もう」…
土曜の夜、九時を過ぎると、大島港の前は暗くなる。渡船ターミナルも、もう明かりを落…
四時二十分に、最後の二十袋を下ろし終えた。戸部は荷台のあおりを上げて、伝票の数字…
十月の日曜、朝の九時前に神様池へ歩いていった。母の代わりだ。膝を悪くしてから、保…
十二月十五日の夜、金沢から羽咋へ車を走らせた。後ろの席で、娘の美緒が窓に額をつけ…
木曜の夜は、研究所に最後まで残るのが私の番だ。松ヶ崎の、北山通から少し南へ入った…
高校の同級生三人が、十月の終わりに対馬へ行った。三人とも四十二で、今も福岡に住ん…
十二月の最初の月曜、朝の六時十分。俺は小津町のバス停に着いた。家を出たのは五時四…
夜の十一時を過ぎると、早苗はミシンの電源を落とす。大阪の古いマンションの四階で、…
十月の終わりの木曜、慎吾は妻の真由と甲州へ向かった。結婚して十二年になる。旅の段…
子どものころ、うちの車の時計には黒いテープが貼ってあった。白いライトバンの、古い…
週に何度か、夜食を買いに行く。一時ちょうどに部屋を出るから、日付でいえば、もう次…
十月の半ばの火曜日、印西の現場に着いたのは三時四十分だった。前の現場の生け垣が長…
踏切の板に前輪が乗った時、後ろが重くなった。荷台が沈んで、ハンドルが浮きかける。…
「昼飯のあとは、橋を渡るな」。義兄は低い声でそう言って、卓を指の節で二度、こつこ…
座面に、紙コップが二つ並んでいる。今度は口を上にして、きちんと立っている。一つで…
おすすめの一番上に、見慣れた景色が出てきた。「伊与久沼公園 昼 何も起きません」…
名前は二回しか呼ばれていない。三回目が来ない。ばあさんの声が、頭の後ろで言う。人…
陸は、門の外に立っていた。砂利道の上で、右手を横に伸ばしている。誰かと手をつない…
隣に並ぶ市道の跨線橋の欄干に、銀色の風船が引っかかっている。紐が街灯の柱に絡んで…
三叉路の角に地蔵が立っていた。赤い前掛けをしている。足元に缶コーヒーが並ぶ。エン…
雨の夕方、新三郷駅からタクシーで采女ガードをくぐった。短いはずの穴の中で水を四つ…
門は閉まっていた。門の横に、木の案内板が立っている。神田山延命院、と読めた。瀬川…
配信者は歩道に立ったまま、広場には入らなかった。歩道の奥から、スーツの男が歩いて…
奥の作業場から、シャッ、と音がした。鉄を擦る音。父だ、と思った。現場が早く終わっ…
外に出ると、また墓石の列。里奈が助手席で身をよじった。隙間に指を差し込んで、何か…
音が、手をかけた板のちょうど裏側から鳴っている。風なら、板全体が鳴る。一か所から…
トンネルの入口が見えてくる。口の形の暗がりの中に、白っぽい照明が並んでいる。美月…
深夜一時の無線で、天理市滝本町の桃尾の滝へ上がった。駐車場には白い軽が一台。道の…
袋田側に信号機だけが残る廃隧道。鎖の外に立っていただけで、膝の裏を押される。誰も…
芦花公園の墓地。四時半の放送のあと、もう一回放送が流れるんだって。それが鳴ってる…
木下さんが家を出るのは四時と決まっているのに、三時五十八分、立石児童遊園の写真が…
納戸の鴨居に、麻紐で吊るしてある。蜜柑ほどの大きさで、色は黒い。下から覗くと、中…
砂利を踏む音がした。坂の下から、ゆっくり上がってくる。一人分の足音だ。重い靴で、…
椿台の停留所で十分待って乗った、下りの最終便。扉が閉まって携帯を見ると、十六時五…
雨の昼、戸の外から「いいですか」と女の声がした。隣の奥さんだと思って、はい、と返…
部屋の中で、女の声がする。低く、平らで、名前を読み上げるような調子。一つ呼んでは…
手の甲に、重さが乗った。手のひら一つ分の、冷たい重さだ。濡れている。賢吾の手を、…
写真が貼ってある。夜の砂利の駐車場だ。反射材のベストを着た男たちが、横に並んでい…
地下道に入ったら電話をかけて、五分で帰ると言う。ばあちゃんはそう教わった。画面の…
通路の向こうの、明るい四角。そこに、人が立っていた。小さい。背中が丸い。逆光で、…
三ケ木のバスターミナルで乗せた客は、荷札の付いた紺の風呂敷包みを膝に置いて言った…
宿の二階の窓から見下ろすと、外灯の光が水を通り抜けて、底の石まで届いている。鯉が…
柵の反対側の端に、こちらへ背を向けて立っていた。広場の幅は、十歩ほどある。さっき…
十日市の昼、工場の後輩と武蔵一宮氷川神社の蛇の池まで下りた。柵の向こうの木立で、…
明け方の廊下の突き当たりで黒電話が鳴り、受話器を取ると声の代わりに乾いたものの擦…
画面の黒い部分、橋の向こう側から、声がした。長く伸びた、間の抜けた呼び方だった。…
後部座席に、ビニール傘が一本、横になっていた。さっきの客のだ。いや、客は開いて帰…
ファインダーの中、鳥居の右の柱のわきに、人が立っていた。顔を上げると、岩の上には…
祠の前で、美結と並んだ。二礼、二拍手、一礼。手を打つと、乾いた音が木立に跳ね返っ…
目の前に、秩父湖の吊り橋があった。青い主塔が、夜明け前の空に黒く立っている。二百…
二時の巡回から戻って、日誌を開いた。「二時 構内 異常なし」。もう書いてある。わ…
地下道の口から、浜辺の歌が流れてきた。父の節だ。私は体を起こして入口を見た。誰も…
チャイムが終わった。いつもならそこで切れる。今日は、女の人の声が続いた。亡くなっ…
荷受け口の向こうは、すぐ林だ。風が吹くたび、木がこすれて低い音を出す。チャイムが…
孫からの顔の見える電話が、下飯田のコンコン神社からかかってきた。画面にだけ、黒い…
匝瑳の落書きマンションの三文字を、高校の裏掲示板で見た。今も、私の字で付箋に出る…
憾満ヶ淵の並び地蔵を見に行った夜、宿の障子に影が並んだ。拾った小石は、乾かなかっ…
宮内春日神社の宵宮。拝殿裏の石の囲いを、町会の人は「裏」としか呼ばない。人の引け…
矢口の家に嫁いだ者だけが、彼岸の昼に御塚の柵の前へ握り飯を供える。金物は身に着け…
市川市役所へ書類を出す十分ほど、後輩を八幡の藪知らずの前に待たせた。戻ると、鞄の…
明け方の宇都宮、第二今泉踏切で警報が鳴った。列車は来ない。タクシーの後ろの席が、…
娘と行った川崎の夢見ヶ崎動物公園。慰霊塔の前で娘が言った。おじさん、飲んでた。靴…
牛久沼の東岸から、渡れないはずの島を見に行った。友人は小さいころボートで渡ったと…
盆踊りの終わった公園で、落とした団扇が拾えない。誰もいないはずの場所が、満員の人…
面会に来る父を待つ中庭で、娘が自分の影を「夜」と呼んだ。足元には、まだ灯りをつけ…
久しぶりに会った友人と、河原で弁当を食べた。昼寝をしている彼の頭の向こうへ回ると…
退職を控えた先輩と働く木工所。声の出なくなった本人の傍らで、長い板が同じ声で話し…
父と受け取りに来た手作りの鉢。底のひびが浮き上がり、別の器へ移っていく。
閉店前の写真館で店主の顔写真を撮る。白い背景紙に色が滲むたび、道具や肌から同じ色…
祝宴のあと、冷めた弁当を食べる友人の足元へ、温かい米が落ちてきた。
最後の観望会。空を向く望遠鏡には、昼の土の道が見えていた。
姉が泳ぐプールの見学席で、私の耳元に誰とも合わない呼吸が届いた。
町に知り合いを作ろうと、共同花壇の植え替えに参加した美津子。奥に残された赤紫の花…
山歩きの宿で、使わない上段の毛布が肩へ掛け直された。四つに畳まれたまま、誰かが寝…
娘の働く洗車場で、車の窓に拭き取れない筋が残った。窓を下げると、それだけが縁の上…
転居する友人の手紙を広げているうちに、普通の言葉が別の意味でしか理解できなくなる…
初めて講師を任された料理教室で、他人が噛んだ漬物の音が綾乃の奥歯からした。自分の…
二十年ぶりの卓球で、借りたラケットが手を離れた。相手も打っていない球だけが、二人…
閉業の日、運び出された検品台の跡に、刷り直した表紙だけが浮いていた。吉野は引取業…
止まった研磨機を直すため、中古のボール盤からモーターだけを買うことにした。外した…
庭で薪を割ると、橙色の粒が二つ、頭上に残った。斧を置いても木の割れる音はやまず、…
庭に椅子を出す場所を、大家さんに訊いた。石灯籠へ明かりが入ると、平らな敷石で俺だ…
辞めた店へ返す仕事着を洗い直した。乾燥機からこぼれた熱い砂に、小さな透明の殻が交…
初めての体験稽古で、何もせず相手を見ているよう言われた。彼女には、私が違う場所か…
片方だけ白くなった靴を、両方きれいにしてほしかった。磨かれる右足を台に載せたまま…
妻の眼鏡を受け取った帰り、知らない女の人の遺影を見て泣いた。なぜ懐かしいのか考え…
退職した高瀬は、旧友を昼に訪ねた。幼い頃に一度会った娘が、何度も来たはずだと言っ…
焼き鳥の皮を待っていた。柱の横で丸くなった煙は、扇風機を止めても崩れなかった。
妹と出掛けた小さな美術館で、ポスターの女が顔を背けていた。近づくと、女は椅子を降…
運転を再開した友人の駐車練習に付き合った。向こうの列に、同じ傷のある車が停まって…
一人で梨の摘み取りへ来た恵は、ようやく気に入った実を見つけた。割ってもらうと、そ…
日曜に二局打ち、勝った方が蕎麦を奢る。そんな付き合いの相手と盤を挟んでいた時、白…
敷布団を試した妻が、家具店の売場で眠ってしまった。起こさずに待つ夫は、その足元の…
買物帰りに立ち寄った餅まきで、隣の女性と袋を分け合った。餅へ伸びた手は下がったの…
半年ぶりに仲間の練習へ戻った榊は、三人の声がよく合うことにほっとした。歌い終えて…
久しぶりに入った市営プールで、男が楽な泳ぎ方を教えてくれた。手本を見ようとした時…
借りていた資材置場を返す日、刈り取った草から白い穂が開いた。地主の文代が撤去を求…
旅先の宿で、客の鞄が床を噛み始めた。持ち主の男は、自分の工具よりも、三つの預かり…
資料展の片づけ中、展示ケースのガラス戸が枠を離れた。誰も持っていない一枚の板が、…
敷物を洗うつもりだった日曜の昼、腰をかがめた私は妻に背中を押してもらった。痛くは…
祖父との墓参りで、まだほどいていない花の包みがごみ袋に入っていた。火をつける前に…
同窓会の幹事を断るつもりで、久しぶりに美和と会った。公園の砂利道で、一歩ぶんの足…
閉店前の美容室。客の髪を洗う千種の目に、自分を下から仰ぐ顔が映る。客を起こしても…
人物を描く会で、モデルの椅子が白い壁から離れなくなった。描き直している高井さんは…
二十球を打ち終え、仕事仲間と屋上の打席を出た。床へ落ちたネットの影に、靴が引っか…
甥を預かりに姉の家へ行った。居間には、どちらから見ても背中しか見えない男がいた。…
夜の港で、相良は船から降りる女の荷物を受け取った。腕は重さで下がったのに、そこに…
六月、叔母の庭で葡萄に袋を掛けていた。新しい袋から落ちたのは、まだ実ってもいない…
閉じたスキー場へ、昔の友人と登った。車は下に見えていた。足が引かれるのは、別のほ…
二人暮らしを終える日、最後の皿を洗っていた。水は流れているのに、音がしない。受け…
プラネタリウムの投影を止めても、天井は青空のままだった。九人の客が見上げる先に窓…
会社の先輩と献血へ行った。先輩が奥へ入っている間、窓際で待つ女の人が、私の目の前…
弟の事故の謝罪へ、桐子は付き添うことになった。相手の手首はもう治っているという。…
婚約を解消した二人は、取り消し損ねた予約を使って最後の食事に出かける。食べたこと…
囲碁会に初めて来た男と、芳乃は小さな盤を挟んでいた。焦げた砂糖の匂いがして、男の…
虫を大事にする人だと思っていた。標本箱を運ぶ手伝いに行き、こぼれた虫が歩くのを見…
祭りの翌朝、町内会の幟を片づけていた三浦は、新しく越してきた根岸の手際に驚く。濡…
介護の合間に、旧友の麻衣を誘って出かけた二泊の旅。山の展望広場で眠った麻衣へ話し…
実家へ行く娘の袋に、タオルが増えていた。母には昔から、死んだふりをして子供を泣か…
夜間の防災訓練で、私は中西さんに帰宅を希望する人の役を頼んだ。遅れて来た班のため…
返品された鉢を調べ直す午後。食器卸で二十三年働く信岡のもとへ、いつもの引き取りの…
転職を機に借りた古い下宿で、共同洗面台の半分だけが使えなかった。入院する大家から…
模型飛行場を返す最後の日、篠田は作り上げた飛行機を長年の仲間へ譲る。敷物を剥がし…
久しぶりに引き受けた友人の散髪。長い髪を持ち上げると、襟足にもう一つ、よく知る口…
初めて草野球に来た同僚が、草むらへ入った球を追った。拾ったらしい誰かへ返球を頼ん…
閉めた店の灰皿を売るため、昔作った怪談を商品説明へ加えた。見てから買いたいという…
三年暮らした友人の家を出て、一人の部屋を借りた奈央。家具を置かずに残した床で夕飯…
事務所の引越を手伝った日、床に水がこぼれていた。何も持っていなかった社長が、いつ…
田淵の遺体が見つかったのは翌朝だった。その前の晩、本人はずっと、人のいない場所へ…
夜回りの後ろには、家がきしむような音がついてきた。いつも同じ空き家の前で止んでい…
戸棚の後ろに溜まっていた白いものは、爪に似ていた。その裏を見てから、見覚えのない…
父の箪笥から、子供のころに買ってもらったバスが出てきた。遊んだ感触は覚えている。…
長話が迷惑な山崎さんと同室になった。けれど、その晩は彼が喋り始めるたび、窓や廊下…
閉館する旅館で、池の魚を移す手伝いをした。死んだ鯉に貼りついていた花柄の紙を、三…
閉める音楽教室で、最後の調律を頼まれた。合わせたばかりの鍵盤が狂う。手を止めても…
きれいなままの菊を、引き取ってほしいと男が来た。常連客の夫だと言う。花屋の佐恵が…
恒川の家に、年齢も誕生日も分からない人が暮らしていた。祝いのケーキを頼まれて訪ね…
用具のテントに向かって、子供たちがじゃんけんをしていた。相手は白い顔の男だという…
街で見かける父は、死んだときの姿のままではなかった。八年かけてその暮らしを追った…
割られた窓を直して回るガラス屋に、客が言った。小さな子を現場へ連れてこないでほし…
長く勤めていた若者が辞めてから、共同浴場の脱衣場に臭いがするようになった。鼠の片…
釣りへ行く夫の袋に、私の好きな菓子が入っていた。別の女へ渡す物だと思って後を追う…
休憩施設の喫煙所で、ガラスの赤い跡が泡になって離れた。高速道路へ戻ると、その泡が…
合併後の会社研修で、年長の契約社員は若い社員たちと背中を合わせる。四人で立てたは…
救命講習の片づけで、人形から抜いた袋が呼吸を始めた。捨てようとすると、講師は「せ…
夜の採集を手伝いに行った。先生は人の気配のない安全な場所だと言ったが、白布の裏か…
海辺の催しが終わり、火も消したはずだった。事務所の窓から見えた赤さを確かめに行く…
境の塀を壊す日、内藤は石まで半分に分けると言い出した。昼になると、空の袋を広げた…
二泊三日の釣りから帰り、友人に靴の話をすると、俺は釣りをしないと言われた。宿では…
帰国便で、隣の男に頼まれて白い包みを持ち上げた。眠っている間に窓際の席は空き、そ…
祖母は入院中、鯉をよそへ移したら池へ水を戻さないでほしいと頼んでいた。家族へ伝え…
稽古場所を失った若い落語家は、河原の林へ通い始めた。人の姿は見えないのに、笑い声…
紅葉を撮りに行く途中、事故に出くわした。同行した森田は救急車が去っても三脚を畳ま…
八歳の息子と泊まったキャンプ場で、右隣の男と雨の話をした。こちらではまだ降ってい…
迎えに来るのが好きな祖父は、毎週木曜日にも車を使った。私が代わりに運転すると、峠…
夜明け前の山道を自転車で上っていた。谷から広がる朝焼けの中に、同じように自転車を…
自分で稼いだ金で栗山を買った岡部さんは、白い顔の連中に睨まれながら、毎年、栗を拾…
出張帰りに寄った温泉で、眼鏡を外した先輩と風呂へ入った。先客の背中から、もう一組…
港へ向かう道を間違えた姉弟は、杉林の脇で水色の帽子を持つ女に会う。帽子の中から、…
釣れたのは、魚より濡れた布に似ていた。網に入れた途端、それは男の声で、水へ戻さな…
父は昔、峠で白い車が落ちるのを見たという。地元紙の取材でその記憶を確かめ始めると…
甥が学校で作った凧を海辺で揚げた。凧の上に薄い服を着た人が引っ掛かり、こちらへ降…
風呂上がりに顔を拭こうとすると、タオルの裏に髭と唇が触れた。床へ落とせば、いつも…
売りに出した家の庭に、知らない人が座っていた。内見の客だと思ったが、帰る途中にい…
二年前に死んだ父の布団を、母に頼まれて干しに行った。掛布団を剥ぐと、薄くなった父…
叔母が親しくなった男の顔を、一緒に見に行くことになった。干潮の岩場で男が帽子を取…
得意先へ早く着きすぎた朝、近くの喫茶店へ入った。階段で息を切らした私に、店員はマ…
引っ越し用の箱に、一枚だけ内側へ壁紙を貼ったものが混じっていた。箱へカーテンを入…
押入れへ伸ばした指の爪を、誰かに切られた。部屋を出ても手入れは続き、やがて自分の…
幽霊が見えるという昔の嘘を信じ、清水は私を買ったばかりの部屋へ呼んだ。壁の人型を…
八歳の時に飼った文鳥は、何度死んでも戻ってきた。母は元気な一羽だけを籠に残し、弱…
停電の晩、黒川はもらい物のろうそくに火をつけた。炎は明るいのに、その下だけが暗い…
小宮には、子供のころから何かがついていた。五十二歳になったある夜、その小宮が着替…
七十一歳になって踊りを始めた母は、金色の靴を買った。迎えに行った午後、母の相手は…
夫が私を描くようになったのは、結婚して二十三年目のことだった。寝ているところを描…
昔の仲間と飲むために借りた家で、飯塚は蛙を見つけた。その目が閉じるより先に、自分…
早朝に車を出してもらうため、友人の美佳の部屋へ泊まった。夜明け前に水を飲んで戻る…
閉店間際、花嫁が裸足で貸衣裳店へ戻ってきた。脱ぐのを手伝ってほしいという。背中の…
古本屋の飼い猫は、いつも濡れた忘れ物を運んできた。やがて忘れ物より先に、持ち主が…
友人の家で食べた薄い焦げ皮が忘れられなかった。もう一度分けてほしいと訪ねた台所に…
別れを告げるため訪れた部屋で、修平はいつもの麻婆豆腐を作っていた。食べ始めると、…
十五万円を借りるため、四か月ぶりに実家へ帰った。父はいつも通り私の言い方を直し、…
水曜の成人水泳教室で競う沢村さん。水の上ではいつも通りなのに、潜ると身体が小さく…
日当を目当てに参加した群衆撮影。声を出さずに怒る顔を演じるうち、衣装に付いていな…
予定にない避難訓練の放送が流れた朝、階段で知らない男が社員を待たせていた。外へ出…
合唱団へ入った多恵子は、自分の声を隠して歌っていた。見学の男が来るようになってか…
四か月ぶりの面接で、履歴書に書かなかった仕事の話を訊かれた。廊下には、長く勤めた…
建築模型の工場へ来た少年は、見せた作業よりも、働く人の動きをよく見ていた。駅まで…
古い自主映画の同じ場面で、元部員たちは一斉に笑った。ところが、何がおかしかったの…
三年ぶりにレースへ戻る旧友と走った。折り返して来る若い走者の中に、高校の時のその…
退職してからも集まる三人には、いつもの席と、いつもの話があった。ある夜、仕切りの…
初めて人物画のモデルを務めた春菜は、受講者全員が閉じた目を描いていることに気づく…
店先の老人は白い花束を抱えていた。先輩がそれを受け取ったように見えたが、本人は「…
布店を手伝っていた夏、雨の降っていない日に傘を畳む客が来た。別の客は、店の前にあ…
いつも球を右へ落とす大原が、三度続けてストライクを出した。喜ぶ私たちに、彼は靴の…
五日前に渡された台本の謝罪を、初日の観客が先に知っていた。代役の俳優は、舞台から…
礼装用の手袋を探す客は、試着した自分の指を見て「これ誰の手ですか」と訊いた。店員…
二十年ぶりの同窓会へ来た男を、友人たちはそれぞれ違う名前で呼んだ。写真を撮る係だ…
男を降ろした岸は、帰りに振り返ると、もう水の下だった。 崖も木も沈んでいたのでは…
荷物を載せていない籠が、重そうに下りてきた。 山田は柱の横へ立ち、吊られた籠の底…
褒めてくれる先生が欲しくて、二人で黒板に知らない顔を描いた。文化祭の日、その先生…
村瀬さんの机の下に草が生えていた。彼女はまだ座って働いていたのに、細い踵の泥の跡…
まだ洗っていない匙が、下流の石に載っていた。 柄の赤い塗りが剥げた、私の匙だった…
木を見に行く途中で、福原は自分の車の音が消えたことに気づいた。 エンジンは動いて…
担架を持つ手を替えると、顔が変わった。 猪の顔だったはずなのに、右から覗くと人の…
雪を噛んでいるはずの前輪が、宙に浮いていた。 倉本は作業灯を下げて確かめた。車の…
海へ抜けられますか、と軽自動車の女に聞かれた。 私は反射的に、抜けられますと答え…
売った花が、翌朝、畑へ戻っていた。 同じ種類が咲いただけだと考えた。白い小さな花…
根の裏に、誰かが腰を下ろしていた跡があった。 二つの丸い窪みがあり、その前だけ土…
早苗の干場では、網を裏返して使わなかった。 油の付き方が違うので、魚がくっついて…
犬は私を見て吠えているのだと、最初は思った。 玄関の戸を開けた私の足元で、リクは…
口笛のうまい人だった、と宮地は聞いていた。 借りた梨畑を以前に作っていた人のこと…
真鍋さんは、魚をすくうときだけ煙草を口から外した。火をつけない煙草を、いつも唇の…
「杭だけ見といてください。向こうの山は、いいです」 助手の小関にそう言ったのは私…
猿は檻の中から、私に椅子を勧めた。 小屋の隅にあった丸椅子を指し、それから自分の…
昼を食べに屋上へ行くと、客はみんな背中を向けていた。こちらへ歩いてくる人にも背中…
街頭相談の受付で男の話を聞いていた。返事をする前に空席から私の声がした。その相槌…
柳田に誘われた立ち飲み屋は、ひどく狭かった。客を通そうと身を引くと、隣の男の背中…
荷台の雨は、トンネルへ入っても止まなかった。 高田はラジオの音量を下げた。後ろの…
夜勤明けの交差点で、男が口笛を吹いていた。信号は赤だった。私は歩いていないのに、…
乾燥機が止まっても、女の人は起きなかった。やがて彼女が椅子を離れたあとにも、眠っ…
歯科の待合室で、口を開けると目の前が暗くなった。隣の患者が返事をすると、その口の…
夜勤の代行で入ったマンション。誰もいないエレベーターから青い袖と手だけが出てきた…
毎朝、図書館で新聞を読む男がいた。その隣に座る人は、いつもこちらを見た。私の目も…
弓野の右の靴音なら、振り向かなくても分かった。その音が郷土博物館の奥から聞こえた…
顔だけ知る喫煙仲間が煙を吐いた。その煙は私の口から出た。硝子張りの小さな喫煙所で…
市の片づけ帰り、友人三人で歩道橋の下へ雨宿りした。濡れた人たちは私たちと同じよう…
倒れた自転車を起こす老女を手伝おうとした。前輪が地面に落ちたとき、誰もいないサド…
いつも通る駅の連絡通路で、人々が頭を下げて歩いていた。足首をつかんだ配送員は、床…
面接までの時間を公園で過ごす女に、池のまんなかを指さされた。水上のベンチには、彼…
上映前のスクリーンに、別の映画館の廊下が映った。そこで靴を脱いだ客が、こちらの客…
五年ぶりに飲んだ西尾は、改札を通って帰ったはずだった。柱にも券売機にも、別れ際の…
頭を撫でられて目を覚ますと、自分の左手が髪の中を動いていた。眠っている間の暮らし…
水曜日だけ、隣の女の人の電話が聞こえた。 ほかの日より帰りが二時間ほど遅くなる。…
修理中の小舟の船底に、自分の部屋の座布団が入っていた。床板の下には、船に収まるは…
夜行列車を模した宿で、切符を持たない姉妹に検札の声がする。眠りかけるたび、二人の…
引っ越しの日、祖母の朝顔をつまむと、片づけたはずの部屋で椅子が倒れた。花の向こう…
借りた畑の真ん中で、老人がいつも昼休みをしていた。その椅子へ座ると、苗が急に伸び…
母の薬袋の底に、輪のない銀色の鈴が入っていた。音がすると、母はまだ終えていない誰…
叔父にもらった煙草入れを開くと、煙が帰り道を示した。通った道は振り返ると消えてい…
沈む縁側の板へ入らせないため、古い赤い紐を渡した。親戚の集まりが終わっても、誰も…
移転を頼まれた墓の周りだけ、雨上がりの土に足跡が付かなかった。石を持ち上げると、…
娘が屋上で十二個目の星を数えると、向かいの窓が消えた。空からは、人の数を尋ねる声…
知らない少年が雪かきを手伝うと言い、どけた雪を玄関へ戻し始めた。怒って戸を閉めよ…
休園日の動物広場で、アヒルが人の声で返事をした。池の砂からは、何のものか分からな…
父の米屋で袋を受け取る客の足元に、四つん這いの人が見えた。倉庫の古い米櫃は、すく…
いつも弁当を二つ買う客の家から、茶碗やスリッパが店へ移ってきた。温め終えるたび、…
母の家の郵便受けから、別居する娘の寝息が聞こえた。母は毎晩それを開き、娘が帰った…
氷屋の最後の営業日、古い荷車へ載せた六本の氷に、知らない家が映った。氷を箱から出…
同僚に借りた眼鏡を掛けると、耳の手前に小さな横顔が見えた。十六年間、向かいの机に…
旅館の階段に滑り止めを貼り直すと、一本余った。夕食のあとに数えると、今度は段が増…
古い秤で砂糖を買った客は、必ずもう少しと頼んだ。店主が足すたびに客の声が幼くなり…
父の古いトランペットを吹くと、息を入れる前に音が出た。別れの曲を頼んだ父の友人は…
祖母の家を片づける孫娘を、老猫が糸を引いて助ける。事故を免れるたび、家の壁の輪郭…
父が借家の床下に階段を見つけた。段は横向きに続き、父は家の壁に足をつけたときだけ…
売却する古いバスの座席を洗うと、染みついた樟脳の匂いが消えた。その夜、開いた扉を…
閉園する幼稚園で、娘が作った砂の料理から湯気が立った。食べられないと分かっている…
母の介助に戻った実家で、引き戸の曇りガラスに膝が見えた。戸を開けるたび、向こうの…
商店街の止まった時計を直すと、住民が昼間から眠り始めた。夜には、姿の見えない誰か…
兄の家へ泊まると、毎朝、兄嫁の足の向きが変わっていた。兄へ相談しても、昔からそう…
父の青果店で売り始めた空の紙袋には、小さな青空が入っていた。口を広げるたび、店の…
温泉へ向かう途中、夫が吊り橋で眠ってしまった。橋の揺れが止まりかけるたび、谷の下…
十年ぶりに弟と酒を飲んだ。杯を合わせてから、向かいに座る弟の年齢と声が、私の知ら…
廃駅の百葉箱を開けると、八月なのに雪がこぼれた。亡父が使った鉛筆を返すと、中から…
祖父の自慢の魚拓を額から出すと、紙の上に川が流れ始めた。黒い鯉の腹へ、見知らぬ家…
父の石屋を片づけ、空白の革手帳を持ち帰った。ページをめくると指の感覚が抜け、触れ…
夜市の売上げに、指へ貼りつく五百円玉が混じっていた。増える釣り銭を使うたび、夫婦…
亡犬の遺骨を引き取った車内で、一本の脚が歩く音がした。母が犬の名を呼ぶたび、後部…
父の古い体温計を切ると、捨てたはずの青い手袋が戻った。熱のある寝床には、父のもの…
行きたくない道でだけ、自転車が動かなくなる。助けられていると思った早紀のまわりで…
借りた畑の一角だけ、雨が土へ落ちない。芋の根を引くと、地面の下で誰かが夕飯の食器…
父は玄関の外にいた。帰してはいけないと告げる男は、家の中にいた。八歳の悠介は、知…
料理教室に誰も注文していない葉が届いた。口にした人たちは皆、食べ損ねた夜のご飯の…
叔父が水門に留めていた洗濯ばさみを外した。水が逆に動き始め、向こう側がこちらの声…
祖母の針山から針を抜くと、母の皮膚に文字が浮いた。白い頭の一本を動かした途端、母…
向かいの老婦人の双眼鏡がこちらへ向くと、家の戸口が狭くなった。彼女が見ていたのは…
十歳の娘の誕生日。蝋燭を灯すと空席が沈み、煤の顔が増えた。火を消そうとした母親の…
預かった父の革靴は、右の靴底だけ減っていなかった。剥がすと青い糸が出てきて、棚の…
廃部の用具室に娘の上履きがあった。古い砂時計を動かすと、家に置いてきた物がグラウ…
弟が海から持ち帰った塩を使うと、食卓の水が消えた。父の家では、乾いた魚の皮が夕飯…
閉店後の浴槽で見つけた透明な爪は、翌日も同じ目地に生えていた。母も常連客も、指が…
引退する親方と山の集会所を直した。道具を持って出ようとすると、床も柱も同じ距離を…
亡き母の朗読を姉の結婚式で流すため、録音の沈黙を切り詰めた。作業を進めるたび、古…
公民館の座布団を捨てると聞いて、父はわざわざ車を出した。将棋会は三年前になくなっ…
母の耳たぶの小さな穴には、畳の部屋が見えた。そこにいる五歳の私が、今の私の声で話…
止まっている観覧車の影だけが回っていた。娘を探しに行くと、一人は柵の中に、もう一…
父の窯から出た壺には、生きた虫が入っていた。客に手を掴まれた父の影だけが、狐の形…
祖母の人形劇の最後の公演で、人形を笑わせるたびに観客が一人消えた。戻ってきた客に…
雨の降らない朝、マンションの雨樋から甘い液体が落ちていた。住人たちは洗面器でそれ…
終電を逃した町で、帰る夢を見られる枕を買った。翌朝、その布には自宅までの道が自分…
十五階の窓を拭いていた。ガラスの汚れだと思った白い筋は、空そのものに付いていた。
夫の昔の同僚だという客を居間へ通した。冷蔵庫の白い扉には、その客と楽しそうに話す…
砂の顔に本物の歯を並べる男へ、歯の向きが反対だと教えた。その夜、自分の奥歯の根が…
離婚の翌日、二人で持ち上げた箪笥を下ろせなくなった。空の引き出しの奥では、まだ夫…
白髪の中に生えた一束の黒髪を、祖父は喜んだ。翌朝には肩へ届いていた。
隣家の解体で、暗かった台所に光が入った。残った壁には、ないはずの階段の影が続いて…
対岸の誘導員をしていた夜、川に魚の影が現れた。観客は空ではなく、水面へ拍手をして…
閉店を控えた写真館で、店主は使われていない暗室に昼飯を食べに入る。
実家に戻った兄の靴には、左右とも親指の先に穴が開いていた。
開かない小箱の修理代は八万円。中から聞こえたのは、女が爪を切る音だった。
途中で乗ってきた女は、先客と同じ花束を持ち、同じ行先を告げた。
父の再婚相手は、家に現れる虫を一匹ずつ外へ出す人だった。玄関の明かりの下で、その…
出張中の部屋から漏水の連絡が来た。戻ると、乾いた天井の下に雨が降っていた。九階の…
港の似顔絵屋に来た男は、まだ見えない船を描いてほしいと言った。
夫婦が食卓を囲む水曜日。夫は一週間前から夕飯の匂いを嗅ぎ、妻は知らない台所で同じ…
閉店後の駐車場に、巨大な白鳥の輪郭が現れる。白い線を黒く塗り潰すたび、鳥の腹に停…
母は眠るとき、布団の上に土をかぶる。園芸を仕事にする娘が床下を覗くと、暗闇に緑の…
盆踊りの輪に、去年亡くなった祖母がいた。妹はその後ろで踊っている。けれど屋台のそ…
住みこみの果樹園から、弟が桃を送ってきた。箱を開けると、果物より先に弟の使ってい…
列車の来なくなった踏切の水溜まりに、人が歩いていた。水を埋めた翌朝、固定されてい…
四番の椅子に座る客だけは、叔父しか剃らなかった。留守の月曜、耳の下の髭へ刃を当て…
父と息子で切った影絵。紙の襟を切り落とした瞬間、息子が喉を押さえた。古い黒紙の上…
磨くと魚の影が見える白い石。叔父が少しずつ削っていた面を、居候の甥は勝手に磨いた…
友人の婚礼で化粧を頼まれた。門を開けてくれた老女の影は、小さな犬の形をしていた。…
閉じる陶芸教室で、古いバケツの土を捨てようとした。取りに来た女性は、それだけは自…
借りた傘は、紺色だったと思う。妻にそう言うと、黒だったよ、と返された。暗いところ…
本当に受けたときは、何を喋ったかあまり覚えていない。次の台詞を言いたいのに、客の…
遥が靴を脱いだので、私は少し驚いた。舗装していない道ならともかく、そこは住宅の間…
先生が返してくれたのは、木を削って作った小さな船だった。船底に、俺の名前が鉛筆で…
古い白線を削ると、下から敷居が出てきた。木の敷居だった。両端を切ったように道の途…
兄が送ってきた蜂蜜は、蓋を開けると煙の匂いがした。失敗したのかと電話で聞いたら、…
除雪車から見ると、その家の前だけ、春のようだった。屋根にも庭にも雪がない。両隣に…
火を迎える晩には、家の中で喧嘩をしない。小さいころ、祖母にそう言われた。弟と叩き…
池の底で、伯父が帽子を脱いだ。首の汗を拭いているのだろうと思ったら、帽子を逆さに…
森さんは、その日、休みだった。朝礼で班長がそう言ったし、更衣室の靴もなかった。そ…
三枝は、古い服の直しを受けるとき、まず持ち主に着てもらった。服だけ預かっても、ど…
あの図書館の返却口は、妙に低いところについていた。子供でも届くようにしたのだろう…
船で荷物を運んでいたころ、宛名を声に出して読む癖があった。耳でも確かめておけば間…
宮内さんは風の強い日に、外で網を繕った。晴れて凪いだ日は家にいて、テレビを大きな…
「その子、うちでは吠えないんです」飼い主にそう言われると、里奈はたいてい笑って受…
「最後の人ですか」その女の人に聞かれて、私ははいと答えた。答えたときには、まだ列…
母は、洗濯物に名前を書く人だった。靴下にも肌着にも、油性ペンで大きく書いた。介護…
娘の部屋の電球を替えに行ったとき、俺はもう、そこに住んでいなかった。離婚して半年…
売り家の写真に、人が写ってはいけない。赤井は撮影に行くたび、それを最初に説明した…
余った給食を子供に渡していいかと聞かれて、芳江は駄目だと答えた。勝手に渡せば、食…
畳屋を閉める父を手伝い、古い家から六枚の畳を運び出した。裏側には足の跡がついてい…
記録的な渇水だった。 鏡伏ダムの貯水率は一割を切り、五十年あまり湖底に沈んで…
実家の玄関は昔から建て付けが悪い。引き戸を開けるとき、必ず一度つかえてから動く…
金曜日の午後だった。 榊真帆はヘッドホンを着け直し、モニターの波形へ目を戻した。…
カブのヘッドライトが切れたのは、撮影帰りの夜だった。 七月の終わり、千葉の内陸の…
千葉県の北部に印旛沼という大きな沼がある。 成田市と印西市の境あたり、沼が細くく…
茨城県常総市の鬼怒川沿いに、白い塔が立っている。 高さはおよそ四十八メートル。 …
千葉県勝浦市の海沿いに、おせんころがしと呼ばれる場所がある。 大沢の集落から西へ…
茨城県笠間市に佐白山という山がある。 標高はおよそ二百メートルで、山頂に笠間城の…
花火大会の帰り、大学生四人が車内で怪談を話し始めた。高速道路まで一時間の道で、運…
城巡りが趣味の友人Sから、また連絡が来た。 以前、茨城の別の城跡で妙な目に遭って…
写真を撮る友人がいる。以下Yと呼ぶ。 風景専門で、月の出と日の出のためなら平気で…
釣具店で知り合って十年になる友人がいる。以下Nと呼ぶ。 バス釣り一筋の男で、房総…
田を作っている友人がいる。 数年前に千葉の内陸の集落へ移り、空いていた田を借りて…
城巡りを趣味にしている友人がいる。 月に一度ほど喫茶店で会う仲で、以下Sと呼ぶ。…
夕方に友人が庭へ入ってきた。 カブを見せろというのが口実で、用件が別にあるのは顔…
測量士をしている友人から、夜の十一時すぎに電話があった。 うちの固定電話はふだん…
三沢から電話が来たのは、盆を過ぎた蒸し暑い晩だった。 固定電話の受話器を取ると、…
友人の話から始める。 そいつの育った町に、古い農業用のため池があった。 田んぼに…
三沢とは十年来の付き合いになる。ふだんは釣りと車の話しかしない男だ。その三沢から…
三沢から電話が来たのは、盆が過ぎてしばらくした晩だった。 固定電話の受話器を取る…
友人の話から始める。 そいつは千葉県房総半島のある内陸の町で育った。 田んぼと雑…
友人の話から始める。 そいつが子供のころ、近所に取り壊しの決まった空き家があった…
知人から相談を受けたのは、梅雨が明けるか明けないかの頃だった。 勤め先が変わって…
取り壊しの決まった古い公団があると聞いて、撮りに行った。 現場は千葉市内の郊外で…
この話は、友人から聞いたものだ。 そいつは夜の長距離ドライブが好きで、用がなくて…
眠れない夜には、近所を少しだけ歩くことにしている。 頭の芯が妙に冴えて寝つけない…
眠れない夜には、近所をあてもなく歩くことにしている。 撮影で見聞きしたものを家へ…
私の家には固定電話がある。 契約まわりや役所からの連絡くらいにしか使わない代物で…
心霊スポットの撮影から戻る深夜、私はよく住宅街の小さな児童公園を通り抜ける。 カ…
心霊スポットの撮影から戻る深夜、私はカブを庭に止めると、頭を冷やしにそのまま近所…
心霊スポットの撮影から戻る深夜、私はカブを庭に止めると、頭を冷やしにそのまま近所…
深夜のコンビニには、決まった静けさがある。 心霊スポットを巡った帰り道、私はよく…
眠れない夜には、近所を少しだけ歩くことにしている。 心霊スポットを巡って深夜に帰…
第1話「滴」 引っ越してきて三日目の夜のことだ。 家賃の安さだけで決めた部屋だっ…
団地の差し入れ、十四階のエレベーター、つながらない番号、墓地の言い伝え、存在しな…
連作実話怪談「折り返せない道 第2話 地元の人間は笑わない」。翌日は昼前に家を出…
連作実話怪談「折り返せない道 第3話 増えた時刻」。翌週は昼前に峠の麓に着いた。…
連作実話怪談「折り返せない道 第4話 裏手の足音」。写真に人の形が写っていた。 …
連作実話怪談「折り返せない道 第5話 撮っていない一枚」。帰宅したのは日が暮れた…
連作実話怪談「折り返せない道 第1話 前を行く者」。その夜は、特に目的があって走…
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