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折り目のある水

八月の終わりの日曜日、俺は市営の屋外プールへ行った。三十八になってから水着を買い直した。海水浴のつもりで買ったのだが、出かける約束が流れ、袋に入れたまま夏が終わりそうだった。

受付で帽子も必要だと言われ、売店のいちばん安いのを買った。鏡を見ずにかぶると、端が耳を半分塞いだ。指で直しているうちに、後ろにいた女の人が先へ行った。慣れていないのは俺だけらしかった。

流れるプールも滑り台もない。長方形の大きなプールが一つと、柵の向こうに子供用の浅い池があるだけだった。大きい方は半分がコースで区切られ、残りは歩いても遊んでもよかった。俺はロープのない方へ入った。水は胸より少し下だった。泳げなくはないが、人の後ろを続けて泳ぐのは気が進まなかった。

端から端まで泳いで、しばらく立って休む。それを二度やったところで、隣にいた男に話しかけられた。
「忙しい泳ぎ方だね」
悪口だと思って顔を上げたが、男は自分の肩を回していた。俺よりいくらか年上で、日に焼けていなかった。耳の下にかかった帽子の端を、俺と同じように引っ張った。

「久しぶりなんです」
「うん。見てれば分かる」
男は笑わなかった。もう片方の肩を回そうとした時、足を滑らせ、慌てて縁へつかまった。咳きこんでから、目に入った水を拭った。その姿を見て腹が立たなくなった。人のことを言える泳ぎ方ではなさそうだった。

ところが泳ぎ始めると、まるで違った。
男は手を前へ出し、ゆっくり開いただけで、俺が何度も腕を回した距離を進んだ。脚を大きく動かしている様子もない。向こうへ着くと、こちらへ身体を返した。水が跳ねなかった。速いのではなく、進むことに手間がかかっていない感じがした。

俺のところへ戻ってきて、男は縁に肘を載せた。
「こっちの方が楽だよ」
「それ、何泳ぎですか」
「何でもない。浮いてるだけ」
そう言われて、俺も身体を伸ばしてみた。鼻へ水が入った。すぐに立つと、男は目の前にいた。こちらを見てはいたが、指図はしなかった。それで俺は、もう一度やってみようと思った。

学校の授業で、泳ぎ方を人前で直されるのが嫌だった。大人になってからも、その気分だけが残っていた。ここでは誰も俺を待っていないし、できなくても困らない。隣の男は、俺が立ち上がるたび、自分も立っていた。

三度目に顔を上げると、男が水面へ指をかけていた。
引っかかる物など何もなかった。親指と人差し指を閉じたところに、小さな盛り上がりができていた。水滴が落ちそうで落ちない。俺が手で水を送ると、周りには波ができたが、その盛り上がりだけは形を変えなかった。

「何か持ってるんですか」
「何も」
男は反対の手を見せた。そっちではなく、と言う前に、つまんだ指を離した。盛り上がりは消えた。浮かんでいた細い髪の毛が、ゆっくり俺の方へ流れてきた。

時計を見ると、三時に近かった。監視台の若い係員が笛を持ち、間もなく休憩になると声をかけていた。俺はそろそろ出ようかと思ったが、向こう岸まで一度は楽に泳いでみたかった。
「手を出し過ぎるのかな」
自分の前へ両手を揃えると、男は、そこじゃない、と言った。
「上だけ動かしても、駄目だよ」

意味が分からなかった。聞き返す代わりに、男の手を見た。
彼は水の中へ指を入れ、今度は両手で何かをつまんだ。両手の間に、横長の皺ができた。水面の皺だった。胸の前で少し持ち上げると、向こうの白い壁が、その細い部分だけ下へずれた。縁へ張った透明な板を曲げた時のようだった。

太った人が俺たちの間を通り、梯子へ向かった。歩くたびに大きな波が来た。俺は目を閉じて顔を拭いた。もう一度見た時、男はいなかった。
さっきまで彼の帽子があった場所には、さざ波が残っていた。俺は周囲を見た。潜ったのかと思ったが、明るい底に身体は見えなかった。

「こっち」
声は背中側からだった。
男は岸に腰を掛けていた。両足を水に下ろし、俺のすぐ後ろにいた。水から上がるところを見なかった。濡れた尻の下から、水がぽたぽたと落ちていた。
「そこに立ってないで、こっちへおいでよ」
子供へ言うような調子だった。俺は一歩、後ろへ下がった。

男の膝の間から、まっすぐな筋が伸びていた。
光の線ではなかった。細い山折りの形に水が盛り上がり、プールの真ん中まで続いていた。俺の腹に触れた部分だけが平らになり、脇へ抜けるとまた同じ高さになった。冷たい線が、身体の両側を擦っていった。

俺はそこで初めて、向こうへ離れた。
男は目だけで俺を追った。指は水の中に入れたままだった。波が来るたび、つまむ位置を少し変えた。しわくちゃの布を真っすぐにするように。
「見てるだけじゃ、できないよ」
俺が返事をしないと、男は岸から降りた。膝を曲げず、そのまま水へ沈んだ。

休憩の笛が鳴った。コースの人たちが壁へ着き、順に上がり始めた。俺も梯子へ向かった。水の筋を跨ぐのが嫌で、いったん向こうへ回った。
そこで、プールの真ん中が持ち上がった。

大きな波だと思った。だが、持ち上がった水は崩れなかった。胸の高さまであった水面が、斜めのまま立ち上がっていた。上の縁から細かい水滴が垂れ、その下で泳ぐコースの青いロープが曲がって見えた。腕一本分ほどの高さの、透明な折り返しができていた。

監視台から、係員が立ち上がった。
「止まってください」
誰に向けた声なのかは分からなかった。梯子のところにいた人たちも振り返った。一人が笑いかけ、その口を開けたまま黙った。
男はその少し向こうにいた。左右の手を寄せ、下へ押していた。

ロープの外で歩いていた年配の女の人が、尻もちをついた。
膝が曲がったのではない。水の折り返しが、膝の裏へ回ったように見えた。女の人は両手を前へ出した。指が水面を叩いたが、飛沫が立たず、その形に小さくへこんだ。
それから身体が横倒しになり、持ち上がった水の下へ入った。

俺は係員を呼んだ。自分でも驚くほど大きな声が出た。
「あそこ、人が入ってます」
係員はもう監視台を下りていた。赤い浮き具を抱え、走ってきた。こちら側の岸にも、別の係員が来た。周りの人へ上がるよう声をかけながら、倒れた女の人へ手を伸ばした。

女の人の顔は、水の折り返しの向こうにあった。水面より高いところに横向きで浮き、口から出た泡が耳の方へ流れていた。係員は何度も腕を伸ばした。指先が近づくたびに女の人の顔が歪み、遠くなった。彼女の肩の後ろで、立ち上がった水がさらに厚くなっていた。

男が両手を重ねた。
持ち上がった水が、二つに折れた。女の人の顔が一度見えなくなり、その少し下にまた現れた。頭は岸の方へ、脚はプールの中央へ向けられていた。本人がもがく向きとは別に、水を折る手の動きで身体ごと運ばれていた。

俺は背中が岸に当たるまで下がっていた。踵も足の裏も底に着いていたが、膝が頼りなく、歩き直せなかった。
男がこっちを見た。
「分かった?」
俺は首を振った。男の手の甲には、太い血管が一本浮いていた。水の中にいるのに、そこだけは乾いて見えた。

「手を出して。ここです」
岸の係員が赤い浮き具を差し出した。女の人の腕が一度、水の外へ出た。係員は手首を掴み、もう一人が横から浮き具を彼女の脇へ押し込んだ。
俺はそばへ行こうとした。近いと思っていた彼女まで、まだ四、五歩あった。その途中で、底を踏んでいた両足が浮いた。

水が押してきた。
流れなら、身体の脇を通り抜けるはずだった。腹から胸を押すものは崩れず、前へ突き出した両腕も曲げられた。その向こうで、男が水の山を両手で寄せていた。彼の側だけ底が見えた。俺の方へ来るにつれ深くなり、最後は肩の高さに切り立っていた。

「やめろ」
大きく言ったつもりだった。水の端から落ちた飛沫を飲み、咳になった。男は俺を見ず、左右の高さを揃えていた。俺の背中が岸に当たった。まだ足は浮いていた。肘を縁へ掛けたが、腹を押されて身体を曲げられなかった。

係員の腕が上から伸びてきた。
「肘、そのまま」
俺は白い縁を抱き締めた。水の上端が顎に当たった。両脚が水と一緒に持ち上がり、頭だけ下へ向きそうになった。係員は俺の脇を掴み、後ろへ引いた。水が半分に折られたら、脚がどちらへ行くのか分からなかった。

右膝を岸に掛けることができた。腹が擦れたが、そのまま這った。肩を引かれ、タイルの上へ転がった。係員も尻もちをついた。俺たちがいたところへ、水がせり上がってきた。
それは縁から溢れなかった。タイルより高いところで、四角く角を作った。裏側の白い溝まで、水越しに見えた。排水口には水が一滴ずつ落ちている。その隣で、人の身長ほどに積まれた水が立っていた。

女の人は、もう岸に上がっていた。横向きに寝かされ、別の係員がそばに膝をついていた。口を押さえていた手を離し、何か話そうとしていた。言葉は聞き取れなかったが、胸は動いていた。俺を引いた係員は、彼女の方を見てから、小さく息を吐いた。

プールには男だけが残っていた。
底に立ち、ゆっくりと腕を広げていた。折り返された水が、手の動きに合わせて開いた。岸の上まで張り出していた角が丸まり、ゆっくり低くなった。底が見えていた場所へ水が戻った。コースのロープが一度大きく揺れ、縁へぶつかった。

係員が男に上がるよう叫んだ。
男は顔を向けたが、動かなかった。濡れた帽子の端を直した。指で引っ張ったところが、さっきの俺とよく似ていた。俺は自分の帽子へ触りかけ、手を下ろした。
「あなた、聞こえてますか」
係員の声は、もう案内をする時の声ではなかった。

男は片手を水へ差し入れた。
透明な端が持ち上がった。向こうの底の線も、腕も、胸も、一緒に曲がった。俺は今度こそ見ていようとした。だが、係員が前に立ち、俺の肩を掴んで奥へ下がらせた。
その人の背を避けてもう一度見た時、男はいなかった。水着も帽子も浮いていなかった。

水面には、細い折り目が一つ残っていた。
女の人が横たわっていたところから岸まで、真っすぐに続いていた。ほかの水は揺れているのに、そこだけは動かなかった。

俺たちは日陰のベンチへ移された。女の人は、足が、と繰り返していた。係員が痛いところを聞くと、彼女は自分の膝を指さした。
「ここで折られると思った」
膝には、何も巻かれていなかった。彼女は何度も脚を伸ばした。伸ばすたび、両手で膝を押さえた。

係員から名前を聞かれ、俺は答えた。住所も言えた。男のことを尋ねられると、同じようには話せなかった。知り合いではない。ここで初めて会った。泳ぎ方を教えてもらっていた。そこまで言うと、係員が顔を上げた。
「教えてたんですか、あの人が」
俺は頷いた。隣の女の人が、膝を押さえる手を止めた。

柵の向こうで、子供たちはまだ遊んでいた。子供たちを上がらせるために、別の人が走っていった。俺の目の前では、ベンチの脚に沿って小さな水溜まりが広がっていた。自分の水着から落ちた水だった。指を入れようとして、やめた。

帰る前に、靴を履く場所の窓からプールが見えた。水にはもう誰もいなかった。日除けの布が揺れ、その影が端から端まで渡った。
折り目はまだあった。その筋へ風の波が当たると、一度止まり、薄く折り重なった。

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