心霊スポットの撮影から戻る深夜、私はカブを庭に止めると、頭を冷やしにそのまま近所をひと回り歩くことにしている。

廃屋や山道で何時間も過ごしたあとは、体の芯に夜の冷たさが残ったまま、すぐには眠気がやってこない。ひと気のない住宅街をあてもなく歩くうちに、強ばっていた背中がようやくゆるんでくる。

撮影で見聞きしたものを、すぐには家へ持ち帰りたくなかったのだと思う。撮影のあとはきまって頭の芯がやけに冴えてしまうのだ。誰にも会わない夜の道は、昼間とはまるで違う匂いと静けさをまとっている。

その散歩のコースのちょうどなかほどに、小さな児童公園がひとつあった。

数:廃屋や山道で何時間も過ごしたあとは、体の芯に夜の冷たさが残ったまま、すぐには眠気がやってこない

すべり台とブランコと、塗りの剥げた古いベンチがいくつか置かれただけの、どこの町にもありそうな公園だ。私はいつもその園内を斜めに突っ切って、向こう側の細い路地へと抜けていく。

深夜の公園に人の影はなく、聞こえてくるのは自分のスニーカーが土を踏むくぐもった音だけだった。

その公園には、外灯が四基立っている。

オレンジ色の少し疲れたような光を落とす外灯で、夜どおし四つそろって園内をぼんやり照らしていた。虫の群がる笠の下を、私は毎晩あたりまえのように通り抜けていく。

数:深夜の公園に人の影はなく、聞こえてくるのは自分のスニーカーが土を踏むくぐもった音だけだった

四つの明かりがつくる光の輪をひとつずつ踏むようにして歩くのが、いつのまにか私の癖になっていた。明かりから明かりへ渡り歩いていれば、暗がりに足を踏み入れずにすんだからだ。それくらい深夜の公園の暗がりは底が知れず人を落ち着かなくさせた。

その晩、公園に入ったところで、私はふと足を止めた。

四基あるはずの外灯のうち、いちばん奥の一基だけが、明かりを落として黒く沈んでいる。球が切れたのだろうと、そのときは軽く考えた。

残る三基はいつもどおりオレンジ色の光を地面にこぼしている。私は消えた外灯の下をなんとなく避けて、明るいほうを選びながら公園を抜けた。

数:その晩、公園に入ったところで、私はふと足を止めた

暗くなった一角のことは、その晩のうちに頭から抜けてしまう。球の一つくらい切れるのは住宅街にありふれた話だった。

翌晩も、その奥の一基は消えたままだった。

それだけならよくある話だ。ところがその晩は、奥から二つめの外灯までが明かりを落としている。二基が消え、二基が灯っていた。

消えた外灯の真下には、暗くてよく見えないがたしかベンチがひとつ据えられていたはずだ。私はそのベンチのほうへは目を向けないようにして、足早に園内を横切っていった。

数:消えた外灯の真下には、暗くてよく見えないがたしかベンチがひとつ据えられていたはずだ

背中に、見られているような重さだけが残る。暗がりに沈んだベンチのあたりだけが妙にひんやりとして感じられた。振り返らずにそのまま路地へと足を速めた。

それからというもの、公園を通るたびに、消えた外灯の数は一つずつ増えていく。

三日目には、三基までが黒く沈んでいた。残った最後の一基の頼りない光だけが、園内のごく一部をかろうじて照らしている。

消えた外灯の下のベンチには、暗がりにまぎれて、何かが腰かけているような気配があった。目を凝らせば凝らすほど、その輪郭はかえって闇のなかへ溶けていく。

数:私は最後の明かりのきわだけを選んで、足の裏で地面を探るようにして歩いた

私は最後の明かりのきわだけを選んで、足の裏で地面を探るようにして歩いた。光の輪はもう人ひとりがやっと立てるほどの広さしかなかった。残った一つの明かりの輪から外へはどうしても踏み出せない。輪の外の闇のどこかでこちらをじっと見ているものがいる気がしてならなかった。

球が本当に切れたのなら、こんなに都合よく一つずつ消えていくはずがない。

そう思って、私は一度だけ消えた外灯のひとつに近づいてみたことがある。笠を見上げてみても、中の球が割れたり黒ずんだりしている様子はない。

手をかざしてみても、ともっていたときのほんのりした熱さえ残っていなかった。まるで何年も前から灯っていなかったかのように、その鉄の柱は芯まで冷えきっている。それなのについ数日前まで、たしかに同じ明るさで光っていたのだ。

数:手をかざしてみても、ともっていたときのほんのりした熱さえ残っていなかった

冷たい柱に触れた指先を、私はそっと服の裾でぬぐった。切れた球を取り替えた者がいるという話も近所では聞かない。市の人が点検に来た様子もまるでないままだった。外灯の数だけは夜ごときちんと一つずつ減っていったのだ。

ある晩、私は園内に立って、消えた外灯の数をあらためて数えてみた。

消えているのは三基。灯っているのは、もう一つきりだった。数えているうちに、私はあることに気づいてしまう。

これまで黒く沈んでいった外灯の数は、ちょうど私がこの公園を通り抜けてきた回数とぴたり同じだったのだ。一度通れば一つ、二度通れば二つと、外灯はきまって律儀に明かりを落としていった。

数:これまで黒く沈んでいった外灯の数は、ちょうど私がこの公園を通り抜けてきた回数とぴたり同じだったのだ

私が外灯の数を数えていたのではない。誰かが私の通った数を、外灯を一つずつ消すことでずっと数えていたのだ。数えられているのが自分だと悟ったとたん足の裏がすっと冷たくなった。あと一度この公園を通れば、最後の一つが消えてしまう計算になる。それからというもの私はその計算を頭から追い払えなくなった。

そう気づいてしまうと、もう光の輪を踏んで歩く気にはなれなかった。

最後の一基が消えれば、この公園はすっかり闇に沈んでしまう。そうしてベンチに腰かけているものが、ようやく明かりから解き放たれる。理屈ではなく、そんな確信だけが胸の底に居座っていた。明かりが一つ残るかぎりそれは闇の側にとどまっているのだろう。最後の光こそがそれを押しとどめている栓のようなものだった。

その晩から、私は遠回りになっても、公園を通らない別の道を選ぶようになった。あの最後の明かりが消える瞬間を、どうしても見たくはなかったのだ。

数:その晩から、私は遠回りになっても、公園を通らない別の道を選ぶようになった

暗くなったベンチに腰かけているものが、いったい何なのかを確かめる気にもなれない。公園のそばを通りかかるだけで、足の裏がすくむような心地がする。

明かりから明かりへ渡り歩いていた癖も、いつのまにか体から抜けていった。公園のほうから帰る夜はかならず別の路地へ大きく迂回した。あの暗いベンチの前を二度と通りたくはない。近道などもういらないと心の底から思った。

公園を避けるようになって、外灯のことは、しだいに頭から薄れていった。

夜の散歩そのものも、気がつけばやめてしまっている。眠れない夜は、ただ天井を見上げたまま、白んでくる朝をじっと待つ。

数:公園を避けるようになって、外灯のことは、しだいに頭から薄れていった

あの一つずつ消えていく明かりも、暗がりのベンチの気配も、もう私の前に現れることはない。家の中まで追ってくることだけは、最後までなかった。それきり外灯の夢を見ることもなくなり日々は静かに過ぎていった。

ただ、ひとつだけ、いまも腑に落ちないことが残っている。

しばらく経って、私は昼間に一度だけ、あの公園の前を通りかかった。明るい日ざしの下で見ると、外灯はやはり四基、何くわぬ顔で園内に立っている。

試しに数えてみても、四つともきちんとそろっていた。そのうちの一基だけ、笠のなかの球がついさっき替えられたばかりのように白く澄んで見える。誰がいつ替えたのかは、もちろん分からなかった。ほかの三基はどれも古びて笠が煤けているのに一つだけが真新しい。昼の公園はただのありふれた公園で何の気配もなかった。

数:試しに数えてみても、四つともきちんとそろっていた

四基のうち、一つだけが、ずっと新しい。

私が最後まで消えるのを見届けなかった、あの一基なのかもしれない。誰かが私のために、明かりを一つだけ残しておいてくれたのか。それとも、最後の一つが消える晩を、今もどこかでただ待たれているだけなのか。残された一つの明かりが消えるその晩を私はいまも待たずにいる。

夜になると、あの公園の外灯は、今もきっと一つずつ、誰かの通った数を数えている。

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