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洗ったもの

理沙が持っていく食器を、新聞紙に包んでいた。
箱に詰めるのは私のほうがうまい。彼女がやると、下に大きな皿を敷いて、その上へ何でも積んでしまう。皿は立てたほうが割れないんだよ、と言うと、じゃあお願いします、と両手を引っ込めた。そういうところは、六年一緒に住んでも変わらなかった。

二人で借りた部屋を出ることになった。理沙は地元へ戻り、私は駅の反対側の一人用の部屋に移る。喧嘩をしたわけではない。更新するかどうか話しているうち、もう別々でいいか、となった。いざ片づけ始めると、私の物だと思っていた洗濯籠は理沙の物で、理沙の物だと思っていた小鍋は私が買っていた。

「青い鉢、どうする?」
理沙が言った。
「そっちが使えば。私、一人であんなに煮ないし」
「私も煮ないと思うけど」
それでも彼女は嬉しそうだった。重くて洗いにくい鉢なのに、煮物でも焼きそばでも、できたものをまずあれに盛った。食卓の真ん中にあれば、どうにか夕飯らしく見えた。

窓の外が暗くなっていた。夕方からの雨が強まり、向かいの建物の非常階段へ、水が斜めに降り込んでいた。理沙は最後に使った皿を洗うと言った。私は床へ箱を寄せ、乾いた布巾を持って横に立った。

食器棚はもう空にしてある。湯呑みや、普段あまり使わない取り皿は箱へ詰めた。流しに残るのは昼の焼きそばを食べた皿で、調理台には青い鉢が一つあった。

「水、ちゃんと出てる?」
私は理沙の手元を見た。
「出てるよ」
蛇口から水は流れていた。皿の縁で跳ね、洗い桶へ落ちている。音だけがしなかった。彼女の声も、私が新聞紙を畳む音も聞こえた。窓の外の雨は、さっきよりうるさいくらいだった。

理沙は蛇口を閉めたり開いたりした。金具のきしむ音がして、水が細くなり、また太くなった。その水に掌を差し入れると、腕へしぶきが飛んだ。
「変なの」
彼女は言ったが、洗う手を止めなかった。

一枚目の皿を受け取った。白い平皿で、縁に細い緑の線が入っている。裏を拭こうとして、私は布巾を止めた。底の丸い足のところに、指で押したようなくぼみがあった。四つ並んでいた。土をこねて作った皿のように、そこだけ形が粗かった。

「これ、こんなだった?」
理沙は次の皿を差し出しながら、何が、と聞いた。私は二枚を重ねず、左右の手に一枚ずつ持った。新しく受け取ったほうにも同じくぼみがあった。指の跡の奥が黒く、爪で引っかいた細い筋までついている。

この皿は同じ柄を四枚、二人で百円の店から買った。手作りではない。何十回も洗っているし、指を置くところがこんなにでこぼこなら、もっと早く気づいたはずだった。

「汚れてるんじゃない?」
理沙がスポンジを寄こした。私は黒いところを擦った。泥に似たものが取れ、爪の筋がいっそう深くなった。白かった布巾にも、茶色い汚れが移った。油と、古くなった濡れ雑巾の匂いがした。

皿を返すと、理沙は黙って裏を見た。それから私を見ずに、もう一枚も、と手を出した。
「何か知ってる?」
「ううん」
言うまでに少し間があった。

彼女は洗い桶を持ち上げた。底にたまっていた水を、流しへ空けた。水がステンレスを走り、排水口に吸われていった。やはり何の音もしなかった。桶の底にはフォークが一本残っていた。

うちで使っているものと違った。持つところは銀色なのに、先の四本がひとつにくっついていた。よく見ると溝が刻んであるだけだった。理沙がつまみ上げると、その先がゆっくり下へ垂れた。

私は布巾を取り落とした。

「熱いの?」
「冷たい」
理沙は流しの縁へ置いた。フォークの腹が平らにつぶれ、銀色の薄いところに裂け目ができた。中は、濡れた灰色の土だった。

「これ、捨てて」
私が言うと、理沙は下の戸を開けて、ごみ袋を出した。フォークへ手を伸ばしかけ、引っ込めた。
「本当のは、どこだろう」
「本当のって」
「さっき入ってたやつ」

私たちは流しを見た。桶を動かし、排水口の籠も持ち上げた。菜箸、スポンジ、空になった洗剤の詰め替え袋。細い隙間にまで指を入れたが、銀色の普通のフォークは出てこなかった。

そのあいだ、青い鉢は調理台に載っていた。内側にソースの乾いた筋があり、底へ二本だけ麺が貼りついていた。私はそれを自分の後ろへ寄せた。洗ってしまう前に、離しておきたかった。

理沙が、水を止めた。
「小さい時にさ」
そう言って、彼女は流しの脇へ両手をついた。
「雨だと、よく遊んだんだよね。外へ出られないから。お皿とか作って」
私は返事をせずに待った。理沙の指の間から、水が床へ落ちた。その小さい音は聞こえた。

幼稚園に行く前、母親が洗濯物を干しているあいだ、台所の隅でままごとをしていたという。晴れた日には庭へ出された。雨の日だけ、小さい椅子と、使わなくなった洗面器を出してもらえた。
「泥で?」
「何で作ってたんだろ。お母さん、家で泥遊びなんかさせないと思う」

理沙は、潰れたフォークを見ていた。
「お皿の下が、いっつもこうなってたの。指でぐうっと押したまま。そこは見えないからいいって、私が言った」
「誰に」
彼女は頭を少し傾けた。
「作ってた子」

名前は言わなかった。聞くと、一緒にいたことは覚えてる、と答えた。顔を思い出そうとしているらしく、目を閉じたり開いたりした。
「それでいいって言うと、その子、何枚も作るの。お皿ばっかり。もういいよって言っても」
理沙はそこで話を切った。目の前に二枚並んだ皿の、水がたまったくぼみを親指でなぞった。

私は皿の裏を見たくなくなった。彼女が小さかった頃のことなど、私は知らない。母親はまだ地元にいるし、電話をすれば聞けるのだろう。けれど、昔の遊びがどうだったか分かっても、今ここにあるものを持ちたくはなかった。

「今日は、もういいよ」
私は理沙の肘へ触れた。「残りは洗わないで持っていこう。向こうで洗えばいい」
理沙は頷いた。乾いている新聞紙を一枚広げ、私が後ろへ寄せた青い鉢を取った。

その鉢には、麺がついていなかった。

理沙の手からひったくるように受け取った。内側は濡れて、きれいに光っていた。裏には指のくぼみがあった。白い皿より大きく、縁をつかんだ跡が一周していた。底の円が歪み、持つ手へざらざらした土がついた。

「こっちへ置いたよね」
私はさっき鉢のあったところを指した。
理沙は頷いた。
「水につけてないよね」
また頷いた。私の背後で、誰も立っていなかった調理台の上だった。

鉢を置くと、底が潰れた。重さをかけたわけではない。いつもと同じように置いただけなのに、青い縁が片方へ傾き、内側に溜まっていた水がこぼれた。

「これ、困るよ」
理沙が言った。

彼女は私を見ていなかった。空になった流しへ顔を向けていた。子供を叱るほどの強さもなく、同じ失敗をした人へ、もう一度頼むような声だった。
「中に物を入れるんだから。立たないと、使えないよ」

私は彼女の腕を引いた。
「言わないで」
「だって、これじゃ」
「作ってって言わないで」

理沙は唇を噛んだ。私がつかんでいるのは左の袖だった。彼女は右手を持ち上げ、青い鉢に触れようとして、途中で下ろした。

流しの中で、何かが回った。

何もないステンレスの底に、細長い濡れた跡ができた。指で拭いたような跡が、半円になり、向きを変えた。その真ん中へ、青い色が盛り上がってきた。少しずつ、という動きではなかった。低いところからひと息に、鉢の丸みが押し出された。

私たちは流しから離れた。私の踵が、包み終えた箱にぶつかった。二枚の白い皿を調理台へ残したままだった。振り返る余裕がなかった。

新しい鉢があった。

今度は真っ直ぐ立っていた。上に見える青い部分は、私たちの鉢と変わらない。けれど下には大きすぎる台がついていた。灰色の土を山にして、その上へ鉢を据えた形だった。土の側面に、掌を押しつけた跡がいくつも重なっていた。

理沙が私の袖をつかみ返した。
「こうやって直してくれたんだ。小さい時も」
流しの中の鉢を見ていた。
「ちょっと違うって言うと、すぐ作り直してくれて」

私は答えなかった。修繕された鉢の下で、土が横へ伸びていた。台の裾が広がり、洗い桶に届いた。桶がわずかに傾いた。見ているあいだにも、つぶれた指の跡が新しく増えていった。

理沙が、ありがとう、と口を動かしかけた。
私は彼女の前へ出た。
「それ、持っていかない」
自分の声が大きく響いた。
「要らない。どっちも」

理沙が私を見た。私は言い直すことができなかった。彼女が大事にしていた鉢だった。さっき、自分で持っていけばいいと言った。だけど流しの中のあれを、理沙の新聞紙の上へ載せたくなかった。

「本当の鉢は?」
理沙は私に聞いた。
「分かんないよ」
私は初めて怒ったような声を出した。理沙は顔を伏せた。すぐに悪いと思った。欲しがったのが悪いと言っているようだった。袖をつかんでいた理沙の手が離れ、私には話しかけるきっかけがなくなった。

やがて理沙は、自分で箱を開いた。私が詰めた新聞紙を一つずつ出した。皿を包んでいない、大きな塊が一つあった。私はこんなものを入れていない。理沙が紙を剥がすと、白く塗られた土の塊が出た。緑の線が、上だけに描いてあった。

理沙はそれを床へ置いた。
次の包みも開けた。湯呑み二つのはずの包みだった。中には、二つの湯呑みがくっついたまま入っていた。取っ手のないはずの側面に、指を通す穴が一つ開いていた。

私は、流しのほうを見た。
箱の中の物は、午後の早いうちに洗って乾かしてあった。雨が降り始めた時刻を、思い出せなかった。

「もう、開けないで」
私は言った。「触らなくていい」
理沙は両手を止めた。紙で切ったのか、人差し指の横に小さな赤い線があった。私が布巾を渡そうとすると、首を振り、自分のズボンで手を拭いた。

二人で食器の箱を残し、財布と携帯だけ持った。玄関まで、理沙が先に歩いた。私は台所の明かりを消そうとして、壁のスイッチへ手を上げた。

食器棚が開いていた。

何も入れていない棚のいちばん下に、皿が並んでいた。買った覚えのある柄だった。白い皿も、青い鉢もあった。今まで使ってきたものが、乾いたきれいな顔をこちらへ向けていた。

全部、下の棚板とつながっていた。

粗い土が足元を埋め、器と器のあいだまで盛り上がっていた。あれなら倒れない。理沙が望んだとおり、どれも真っ直ぐ立っている。持ち上げて使うことだけが、できそうになかった。

理沙が玄関から私を呼んだ。私は明かりを消さずに、彼女のところへ行った。出る時、流しから水音がした。蛇口は閉まっていた。小さな何かを、繰り返しすすいでいる音だった。

理沙は靴を履き終え、ドアを押さえてくれていた。台所のほうで、濡れた物を床へ置くような音がした。理沙が首を動かしかけたので、私は開いたドアに手を掛けた。

「先に出て。持ってるから」
理沙は外へ出た。私は彼女の手がドアから離れるまで押さえ、それから自分も出た。

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