カクヨム掲載「心霊体験談短編集」の導入記事です。実話・体験談・聞き書きをもとに、読み物として脚色を加えた怪談として扱い、全文転載はせず冒頭のみ掲載しています。
この話について
僕の愛車スーパーカブのエンジン音が、山道の静寂に溶けていく。 東京都八王子市。 都心から電車で一時間足らずの場所にそれはある。 北条氏照が築いた難攻不落の山城、八王子城跡。 天正十八年、豊臣秀吉の北条攻めの折に三万とも言われる軍勢によって城は陥落した。 城に残っていた女たちは辱めを受けるくらいならと、城山川へ身を投じた…
冒頭抜粋
僕の愛車スーパーカブのエンジン音が、山道の静寂に溶けていく。
東京都八王子市。
都心から電車で一時間足らずの場所にそれはある。
北条氏照が築いた難攻不落の山城、八王子城跡。
天正十八年、豊臣秀吉の北条攻めの折に三万とも言われる軍勢によって城は陥落した。
城に残っていた女たちは辱めを受けるくらいならと、城山川へ身を投じた。
以来、この地では水辺に女の霊が現れると語り継がれている。
僕の名前は奇怪千万。三十二歳。チャンネル登録者数は過疎だ。
深夜零時を回ったあたりでカブを停めた。
ヘルメットを外すと、十月の山の空気が顔を刺す。
息が白い。
駐車場には俺の愛車だけが、ぽつんと置き去りにされたように佇んでいた。
「さて」
独り言は動画でも普段の生活でも変わらない癖だ。
カメラを起動する。
ウエストポーチにはトリフィールドメーター、サーモグラフィー、スピリットボックス、ばけたんワラシ、バイノーラルマイク、フィールドレコーダー、予備ライト2本、モバイルバッテリー。
これが僕の心霊装備だ。
石段を上り始めた。懐中電灯の光の輪の中に、落ち葉と苔むした石畳が浮かびあがる。
静かだった。
虫の声すらしない。
十月にしては不自然なほどの、完全な無音。
それが最初の違和感だった。
御主殿跡に着いたのは、出発から二十分ほど経った頃だった。
かつて城主一族が暮らしていたとされる平場。
草に覆われた礎石が、懐中電灯の光の中に整然と並んでいる。
僕はここで一度カメラに向かって状況説明を録った。
喋りながら妙なことに気づいた。
自分の声が変だ。
こもっているというか反響が、おかし…


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