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雪かきの手伝い

あの子は、手伝ってやる、と言った。手伝いましょうかではなかった。私は玄関の戸を細く開け、頼んでないよと答えた。すると少年は、知ってる、と言って、軒下のスコップを勝手に取った。

雪は一晩で膝まで積もっていた。私のところでは珍しいことではない。ただ、七十四になると昨日までできたことが今朝もできるとは限らない。戸が開く幅だけ雪を押して、ひと息ついていたところだった。

町の人が寄越したのかと思った。前の冬、近所で手伝いの募集をしていたからだ。けれど少年は腕章も付けていないし、帽子もかぶっていない。薄い上着の襟を噛み、私の顔をろくに見ずに雪を掘り始めた。

中学生くらいに見えた。頭の横だけ寝癖で跳ねている。学校へ行かなくていいのかと聞くと、今じゃない、と答えた。もう八時に近かったが、こんな雪の日は休みなのかもしれない。私はそれ以上言わなかった。

まず玄関から道路へ細い道を作ってもらうことにした。宅配便が来る予定だった。息子から届く暖房器具で、いらないと何度も言ったのに送ったらしい。受け取れなければ、また一人暮らしは無理だと言われる。

少年は道を作らなかった。玄関の真ん前を少し掘り、どけた雪を私の足元へ戻した。これでは戸が閉まらなくなる。私は怒り、そこへ置かないでとスコップを指した。少年は雪を持ち上げ、そのまま私の長靴へ掛けた。

「何するの」
叱ると、少年は初めて笑った。歯が大きかった。顔の大きさに合わない大人の歯だった。
「出てくるから」
誰が、と聞いても、雪を踏んで固めるばかりだった。私は家へ入り、戸を閉めようとした。

戸がなくなっていた。正確には、戸の上半分はあった。下が途中から白い壁になっている。私は自分の手の位置を確かめた。取っ手を握っている。いつもと同じ高さなのに、足元まで続くはずの硝子がない。

少年がスコップの先で雪を押した。白い部分が少し崩れ、戸の下の溝が見えた。私は慌てて閉めた。内鍵を掛けようとすると、少年が外から戸を叩いた。
「まだ、閉めるな」
その声に、なぜか逆らえなかった。

戸を半分開けたまま、私は電話を取った。近所の千枝さんへ、知らない男の子が来ていると言った。千枝さんは、うちにも来てくれないかね、と明るく答えた。たちの悪い子だと言うと、ああ、そう、と声が変わった。

窓から見てもらうと、うちの前には誰もいないと言う。少年はちょうど戸のすぐ外にいた。千枝さんの家からなら見える場所だった。私は声を落とした。手伝いはいらないから、帰るところを見ていて、と頼んだ。

電話を切ると、廊下が長くなっていた。玄関の方から、少年が雪を投げる音がする。私の足元には、見覚えのない板の継ぎ目があった。うちを建て替える前の床に似ていた。板一枚だけ色の違う所が、昔と同じだった。

私は廊下を戻った。歩いているのに玄関が遠い。少年はそこから私を見ていた。いいかげんにしてくれと怒鳴ると、彼はスコップを床へ投げ入れた。先についた雪が板の上へ落ち、その周りだけ元の床へ戻った。

「それ、こっちへ持って」
少年に命令された。私は柄を拾った。手首が痺れるほど冷たかった。重い雪を少しずつ押し、玄関へ近づいた。畳を濡らしたら息子に何を言われるだろうと、場違いなことを考えていた。

雪の向こうに、古い玄関が見えた。亡くなった夫が修理した木の戸だった。今の硝子戸より狭く、縁に小さな傷がある。そこから誰かが首を出した。顔は夫に似ていた。けれど肩に、夫が一度も着たことのない白い服を掛けていた。

「よく、空けてくれた」
その人は言った。夫の声とは違った。古い録音を聞くような声でもない。すぐそこで人が喋っている、生々しい声だった。私は足を止めた。向こうは私を知らない顔で、にこにこしていた。

少年が私の袖を引いた。布をつまみ、下へ二度。小さいころ妹が、人前で何か言いたくなるとそうした。妹は生きていて、離れた町で暮らしている。この子を死んだ身内だと思うことはできなかった。

私は少年へ手を伸ばした。指が冷えきっていたので、せめて手袋を貸そうと思った。少年は手を隠した。
「持つと、駄目」
握るなという意味らしかった。私は袖だけをつかみ、言われるまま雪の上へ膝をついた。

古い玄関の男は、まだ笑っていた。その後ろにも人がいた。女が二人、襟を合わせながら外を見ている。みんな、玄関が狭いのを待っている顔だった。壁を外せば楽に出られるのに、と私のほうが思いかけた。

「掘るから、見えるんだよ」
少年が言った。私は、あんたが掘ったんでしょう、と返した。
「そっちが先」
昨夜、私は玄関の前だけ何度も雪をどけた。積もり切る前に済ませたほうが楽だと考え、寝る前にも一度外へ出た。

そのとき、玄関の敷石が妙に低くなっていた。雪が降っているのに、端の土が見えた。私はそこへスコップを入れ、凍った塊を何度も叩いた。邪魔な石に当たったと思っていた。あれは、古い家の戸の上だったのかもしれない。

私は自分で作った穴を見た。今の家の玄関の下に、もう一つ入口がある。雪をどけるたび、下の入口が広がり、上の玄関がなくなる。理屈は分からないが、目の前ではそうなっていた。

少年は私のスコップを持ち、掘った雪を戻した。雪の中に黒いものが混じっていた。手袋かと思ったが、布ではなかった。人の髪の束だった。雪の塊を置くと、髪が隙間へ入って見えなくなった。

私は少年に休むよう言った。自分の言葉が妙だった。こんな相手に、休むも何もない。それでも薄い上着の肩が震えていた。少年は首を振り、私の足元へ小さな雪の塊を押し寄せた。

二人で穴を塞いだ。私は膝をついたまま、両手で雪を寄せた。固く押すと男が怒り、緩いままだと手を差し入れて押し返してくる。綺麗な壁を作ろうとするより、形の違う塊をそのまま重ねたほうが、向こうの指が入りにくかった。

途中で電話が鳴った。家の奥からだった。玄関はまだ半分しか戻っていない。私が顔を向けると、少年が雪を投げた。肩へ当たり、私は痛いじゃないかと怒った。
「後で出ろ」
少年は泣きそうな顔で、またスコップを持ち上げた。

電話は止んだ。今度は玄関の下から、千枝さんの声がした。大丈夫、開けて、と言っていた。私は下の声に返事をせず、雪を重ねた。さっきまでの男が女の声を出しているのか、別の人が来たのか、それも分からなかった。

古い戸の上へ最後の塊を置くと、私の膝が板の上へ戻った。硝子戸が足元まである。少年は外へ座り込んだ。手首から先を脇に挟み、口を開けていた。息が白くなっていなかった。

私は膝をさすって立ち、居間へ行ってストーブをつけた。火が入ると、いつもの匂いがした。玄関へ戻っても戸は消えなかった。雪の下で、ときどき木を擦る音がする。少年はじっとその場所を見ていた。

「入りなさい」
私が言うと、少年は首を振った。腹が立って、さっきから勝手なことばっかりして、と叱った。
「手伝ったなら、最後に手を洗うんだよ」
何を言っているのか自分でもおかしかった。それでも、彼はゆっくり立った。

少年の靴は片方だけだった。もう片方の足には、薄い布が何枚も巻かれていた。凍って硬く、床へ置くと石のような音がした。私は古いタオルを出した。足を拭こうとすると、少年は自分でやる、と受け取った。

見ないようにしてやった。洗面所でお湯を出し、手を洗う音を聞いた。何度も蛇口を閉め、また開けている。水を使うのに慣れていないのかと思ったが、追い立てる気にはなれなかった。

二足分の履物を、ストーブから少し離して置いた。私の長靴と、少年の片靴と布だった。布をほどくのはやめた。温まると中が少し動き、指のようなものが先端へ寄った。少年は気づかないふりをしていた。

温かいお茶を出すと、少年は湯呑みを口へ付けず、両手で包んだ。手のひらは私のより大きかった。
「どこの子」
尋ねても返事はなかった。名前を聞くと、もう聞いた、と答えた。私はまだ聞いていなかった。

少年は大きなあくびをした。口の奥に、さっきと同じ大人の歯が二列見えた。私は茶をこぼした。彼は湯呑みを置き、雑巾は、と言った。私は指で棚を教え、顔を伏せた。

千枝さんが来たのは昼前だった。宅配便の人と一緒だった。玄関の道は一人通れるだけ残り、その両側へ雪が高く積まれていた。少年は台所にいた。千枝さんはそちらを見て、手伝いの子は帰ったの、と聞いた。

「ここにいる」
私は答えた。千枝さんは黙り、玄関の雪を見た。道路へ続く細い道が、家の方へ曲がる手前で二つに分かれていた。片方は勝手口へ、もう片方は雪の中へ入っていた。千枝さんは片側だけを踏んで帰った。

暖房器具の箱は居間へ置いてもらった。少年は箱を触り、新しいな、と言った。欲しければあげると言いかけたが、どこへ持っていくのか分からないのでやめた。代わりに、箱は開けるから手伝いなさいと言った。

彼は梱包の紐を爪で切った。私ははさみを持ってきたのに、と叱った。少年はまた笑った。今度は歯を見せなかった。二人で器具を出し、説明書をひっくり返した。外で雪が落ちる音がしたが、どちらも玄関へ行かなかった。

夕方、少年は眠った。椅子に座ったまま、顎を胸へ付けていた。私は上着を一枚掛け、ストーブのそばから乾いた履物を引いた。布の下にあった足の形は、まだ幼い子供の大きさだった。

夜に息子から電話が来た。器具は届いたか、玄関は開くかと続けて聞かれた。私は、開くよ、と答えた。よければ明日行こうか、と言われ、急に来たくなった理由を聞いた。息子は、何となく心配で、と言った。

私は明日はまだいいと答えた。椅子の少年が、眠ったまま首を振っていたからだ。電話を切ると、彼は目を開けずに、外、誰、と聞いた。雪を踏む音はしなかった。ただ玄関の下で、新しい暖房器具を使ったことがあるかと、知らない人たちが話していた。

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