夢見ヶ崎動物公園

神奈川県

1. 導入

川崎に、無料の動物園がある。

しかもその動物園、古墳の上に建ってる。

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さらに言うと、敷地の中に神社が三つと寺が一つある。

戦争の慰霊塔もある。

情報量がおかしい。

夢見ヶ崎動物公園という。

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幸区の南加瀬、加瀬山っていう丘の上だ。

昼に行けば、レッサーパンダがいて、幼稚園の遠足がいて、じいさんが日向ぼっこしてる。

完全に平和な場所だ。

なのに、心霊スポットとして名前が挙がる。

しかも川崎ではかなり上位に来るレベルで挙がってる。

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理由を並べていくと、まあ納得はする。

古墳、神社、慰霊塔、そして丘そのものの歴史。

要素が多すぎるんだ。

一個ずつ見ていく。

2. 加瀬山という丘

まず地形の話をさせてほしい。

ここが面白いんだ。

加瀬山は標高三十メートルちょっとの、細長い台地だ。

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低いと思うかもしれないけど、周りが完全な平地なんで、これがよく目立つ。

多摩丘陵から切り離された離れ丘なんだと。

昔は江戸湾を一望できる景勝地として知られてたらしい。

つまり、大昔から人が目をつけてた場所ってことだ。

もうひとつ地味に重い話がある。

この丘、土砂を持っていかれてる。

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まわりの低地を埋め立てるのに使われて、今の大きさは昔の三分の二くらいなんだそうだ。

丘が削られるって、なかなかの話だと思う。

その削られた過程で、いろんなものが出てきた。

3. 古墳の上の動物園

出てきたものの筆頭が古墳だ。

加瀬台古墳群という。

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もともと十一基あったとされてる。

そのうち何基かは開発で消えた。

今も園内に七基残ってると言われてる。

造られた時期は四世紀後半から七世紀後半あたり。

要するに、めちゃくちゃ古い。

中でも有名なのが白山古墳だ。

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全長八十七メートルの前方後円墳で、川崎市内では最大級だった。

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過去形なのは、もう現存しないからだ。

しかもここから三角縁神獣鏡が出てる。

同じ型で作られた鏡が京都の古墳からも出ていて、ヤマト政権とのつながりが指摘されてる。

要するに、ただの田舎の丘じゃなかったわけだ。

ついでに言うと、この古墳の近くからは国宝も出てる。

秋草文壺という骨壺だ。

宅地造成中にひょっこり出てきたらしい。

そういう場所の上に、今は動物園が乗っかってる。

散策路を歩いてると、普通に古墳の脇を通る。

案内板が立ってるから分かるんだけど、知らずに歩いたらただの盛り土だ。

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千数百年前の墓の横でヤギが草を食ってる。

この光景がもう、じゅうぶん変だと思う。

4. 神社が多すぎる

次に神社だ。

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この山、神仏の密度がおかしい。

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熊野神社。

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浅間神社。

天照皇大神。

そして了源寺という寺まである。

これが標高三十メートルの丘の上に全部入ってる。

中でも浅間神社は、古墳の上に乗っかってる。

一八〇四年の建立と伝わってる。

古墳の上に神社を建てるって、日本ではわりとよくある話ではあるんだけど。

実物を目の前にすると、やっぱり感じるものはある。

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塚があって、その上に社があって、そのまわりを動物園が囲んでる。

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層になってるんだ、時代が。

ここで太田道灌の話が出てくる。

夢見ヶ崎という地名の由来だ。

道灌がこの場所に城を築こうとした。

でも夢を見て、やめた。

これが一般に知られてるバージョン。

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不吉な夢だったから断念した、と紹介されてることが多い。

ところが行政側の資料を見ると、別の話が載ってる。

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道灌が東北の空に丹頂鶴が舞う夢を見て、それで江戸城を築いた、という言い伝えだ。

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つまり縁起のいい夢バージョンがある。

同じ丘の同じ人物の同じ夢で、話が二通りある。

こういうのを見つけると、こっちはテンションが上がる。

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5. 慰霊塔

園内には慰霊塔がある。

こっちは伝説でもなんでもない。

川崎は戦前から重化学工業の街として大きくなった。

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軍需生産の拠点でもあった。

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だから空襲を受けた。

しかも相当な規模で受けてる。

その犠牲者を悼むために建てられたのが、この塔だ。

木立に囲まれた場所に立ってる。

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正直、ここが園内でいちばん空気が違った。

動物のにおいも子供の声も届かない一角なんだ。

心霊がどうこうという以前の話として、静かに手を合わせる場所だと思う。

古墳と神社の話は、どこか物語として楽しめる部分がある。

でもここは違う。

つい八十年ちょっと前の、現実に起きたことの記録だ。

心霊スポットの噂の中に、この塔の名前が混ざってるのを見ると、ちょっと複雑な気分になる。

6. 語られてる噂

で、噂の話だ。

ネット上で見つかるものを整理すると、だいたい四種類ある。

ひとつ目は慰霊塔の周辺。

空襲で亡くなった人の霊が出るという話。

ふたつ目はトイレと、かつてあった電話ボックスのあたり。

このへんで見た、という証言がやたら多い。

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三つ目は落ち武者だ。

夜中に武者らしき影が追いかけてくる、という話が複数ある。

太田道灌の伝説とくっついたんだろうな、たぶん。

四つ目は、山で自殺があったという噂。

これはネットの掲示板で繰り返し語られてる系の話だ。

ここははっきり書いておく。

四つとも、裏付けは取れなかった。

体験談として書かれてるものはたくさんある。

ただ、資料や記録として確認できるものは見つからなかった。

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とくに自殺の話は、伝聞が伝聞を呼んでる感じが強い。

こういうのを事実として書く気はない。

一方で、慰霊塔の背景にある空襲は事実だ。

古墳が実在するのも事実だ。

事実の部分が濃いから、噂が乗りやすいんだと思う。

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7. 歩いてみた感想

昼に行った。

まず動物園としてちゃんと面白い。

無料なのに動物の種類がそこそこいる。

レッサーパンダは有名だし、シカもサルもいる。

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来園者は完全に地元の人だ。

散歩コースとして使われてる。

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この空気の中で古墳を探して歩くのが、なかなかシュールだった。

案内板を頼りに進むと、木の間に不自然な盛り上がりがある。

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これか、となる。

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柵もないし、注意書きも控えめだ。

千数百年ここにあるものが、日常の風景に溶けてる。

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で、日が傾くと変わる。

丘の上だから空は明るいのに、木の下だけ先に暗くなるんだ。

このタイムラグが妙に気持ち悪い。

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慰霊塔のあたりまで来ると、もう夕方の色じゃなかった。

何かを見たわけじゃない。

ただ、場所の性格が切り替わる瞬間はあった。

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そこだけは、はっきり書いておきたい。

8. 行く時の注意

まず、ここは肝試しの場所じゃない。

市が管理してる公園で、動物がいて、慰霊塔がある。

夜中に騒ぐような場所ではない。

動物の展示エリアには開園時間がある。

その時間内に行くのが大前提だ。

丘の上まで登る道は階段が多い。

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坂もきついので、足元はそれなりの靴がいい。

車で行くなら、駐車場の事情を先に調べたほうがいい。

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住宅地の中の丘なので、周辺は道が細い。

そして慰霊塔と神社、それから古墳。

どれも遊び道具じゃない。

古墳は文化財だし、慰霊塔は追悼のための場所だ。

登る、乗る、荒らす。

全部なしで。

これだけ守れば、あとは普通に楽しい公園だ。

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9. まとめ

夢見ヶ崎動物公園は、心霊スポットの中でもかなり異質だと思う。

怖がらせにくる要素が、ひとつもないんだ。

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廃墟もない。

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封鎖された場所もない。

昼は完全に地域の憩いの場だ。

それでも名前が挙がり続けてる理由は、たぶん積み重なった時代の厚みだ。

四世紀の古墳があって、江戸期の神社があって、戦争の慰霊塔がある。

その上に動物園が乗ってる。

普通、こんなに層が重なった丘はない。

噂の裏は取れなかった。

取れないまま書くつもりもない。

ただ、この丘に立って何も感じないという人は、たぶんあまりいない。

古墳の脇でヤギを見ながら、そんなことを考えてた。

ここは怖がりに行く場所じゃない。

見に行く場所だ。

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