2021年7月23日の東京オリンピック開幕を前に、開閉会式の関係者が次々と辞任・解任された。開幕前日にも解任が発表され、組織委員会の関係者が「本当にこの大会は呪われている」と漏らしたことが報じられた。
この一言だけを拾うと、異例の出来事が超自然的な力で続いたように聞こえる。だが、実際に並んでいたのは人選、過去の言動の確認、問題発覚後の対応という、かなり現実的な組織運営の失敗だった。
演出チームは途中で組み直された
開閉会式は、狂言師の野村萬斎氏を責任者とするチームが2017年から準備していた。ところが、このチームは2020年12月に解散し、音楽家の椎名林檎氏も離れた。その後、演出振付家のMIKIKO氏が外れ、佐々木宏氏が新たな責任者になった。
準備の途中で中心人物と方針が変われば、残された時間は短くなる。さらに東京大会は、新型コロナウイルスの影響で一年延期され、無観客開催へ向かうという前例の少ない状況にあった。変更の多さと時間のなさが、すでに不安定な土台を作っていた。
交代の経緯をめぐっては、MIKIKO氏が関係者へ送ったとされるメールの内容も報じられた。ただし、報道された個人の言葉と、組織として確認できる決定過程は分けて見る必要がある。
五か月で四人が現場を去った
2021年2月、大会組織委員会の森喜朗会長は、女性が多い理事会は時間がかかるという趣旨の発言への批判を受け、辞任した。3月には佐々木氏が、渡辺直美氏の容姿を侮辱するような演出案を提案していたことが明らかになり、辞任した。
開幕直前の7月19日には、楽曲を担当していた小山田圭吾氏が、過去のインタビューで語った学生時代のいじめをめぐって辞任。7月22日には、開閉会式の調整役だった小林賢太郎氏が、過去のコントでホロコーストを扱った表現を理由に解任された。
森氏、佐々木氏、小山田氏、小林氏では、問題になった言動も役割も同じではない。それでも短期間に四人が交代したため、一連の「辞任ドミノ」として受け止められた。橋本聖子会長は、対応が後手に回ったことを会見で認めている。
なぜ「呪い」がしっくり来たのか
東京大会は、感染症による一年延期、無観客開催、相次ぐ計画変更と、通常の大会では考えにくい出来事が重なった。そこへ開幕直前の辞任と解任が続き、「呪われている」という言葉が状況を短く表す見出しとして広がった。
オリンピックには以前から、開催後に巨額の負債を抱えたモントリオール大会や、施設の維持が問題になったアテネ大会などをもとに、「開催都市に不運をもたらす」というジンクスめいた語りがある。東京の出来事も、その古い型へ入れられた。
ただし、悪いことが続いたときに共通の原因を置きたくなる心理と、本当に呪いが存在することは別だ。関係者の発言は苦境を表す比喩としては理解できるが、超常現象を証明するものではない。
予防できた問題だった
辞任・解任の理由になった過去の言動は、就任後に初めてこの世に現れたものではなかった。起用前の確認が十分だったのか、問題が判明したあとに判断が遅れなかったか、演出チームの再編過程が適切だったか。検討すべきなのは、そうした組織の手順である。
もちろん、事前確認だけですべての問題を防げるとは限らない。だが、何度も同じように対応が後手へ回ったなら、偶然の不運だけでは説明しきれない。パンデミックという厳しい条件の中で、人選とガバナンスの弱さが続けて表に出た、と見るほうが確認された経緯に合っている。
「呪われた東京五輪」は、本当に呪いがあったという話ではない。説明しづらい混乱を一言でまとめるために選ばれた比喩が、SNSで都市伝説のように独り歩きしたものだ。言葉の面白さに引っぱられず、誰が、いつ、何を理由に現場を去ったのかを並べれば、怪異より組織の問題が見えてくる。
