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AI絵師の「呪われた絵」――生成AIアートが引き起こした現代の都市伝説

指が6本の絵は、なぜ呪いになったのか

2022年前後、画像生成AIが一気に広まった。名前を挙げるならMidjourneyやStable Diffusion。同じ頃から、SNSで妙な噂が語られるようになった。「AIが生成した絵には見てはいけない不気味なものが写り込む」「呪われた絵を見ると不幸になる」という話だ。

新しい現象に見えるよな。でも中身は、昔からある「呪いの写真」や「見てはいけない絵」の系譜に近い。そこへAIという新技術への畏怖と、クリエイターたちのAIに対する複雑な感情が重なった。そうして生まれた、いかにも現代的な都市伝説だと見るのが自然だ。

2022年には、誰でも簡単に高品質な画像を作れるAIサービスが相次いで公開され、AIアートがSNSで爆発的に拡散した。同じ時期、海外ではノイズから偶然生まれた不気味な人物像がネットミームとして広まった。「呪われたAI画像」として話題になった例まである。

日本語圏でも似た流れが起きた。AIが描いた人物の「指が6本ある」「顔が歪んでいる」「背景に説明のつかない人影が紛れ込む」。こうした生成上のエラーが、ただの技術的な不具合として片づけられなかったんだよな。「AIが何か良くないものを“視てしまった”」という、ホラーの文脈で語られるようになった。

見た人に何が起きるのか

噂の中身はだいたい三つに分かれる。ひとつは、特定のプロンプト(指示文)で作った画像に、同じ不気味な人影や表情が何度も現れるという噂。ふたつ目は、生成画像を見たあと体調不良や不運が続いたという体験談の投稿だ。三つ目は、「呪いの証拠」とされる画像がまとめサイトやショート動画で広まり、二次的な“検証”投稿を誘う流れ。

冷静に見れば、たまたま似た画像が出ただけ、あるいは後から不運を画像のせいに結びつけただけ、という話が多い。確証バイアスの典型例と見るのが妥当だ。面白いのはそこから先で、拡散がやたら速かった。「見た人に実害が及ぶ」「同じ図像が繰り返し現れる」という呪いの都市伝説の型を、あっという間に手に入れたんだよ。

人間に似すぎた顔が怖い理由

AI画像の独特の気味悪さを説明するとき、よく持ち出される言葉がある。ロボット工学から来た「不気味の谷(アンキャニー・バレー)」だ。人間に似ているのに完全には一致しない相手に、人は強い違和感や嫌悪感を抱きやすい。そういう理論なんだ。

AIが描く人物は写実的だ。なのに指の本数が微妙におかしい。表情は左右非対称で、背景には破綻したパーツが紛れ込む。人間の脳が「何かがおかしい」と感じ取りやすい特徴を、山ほど抱えているわけだ。

この感覚が、「AIアートは無意識のレベルで不気味だ」という印象に技術的な裏付けを与えている。違和感はそのまま“呪い”という物語に化けやすい。噂が育つ土壌は、ここでできあがっていた。

絵師たちの不安が噂を育てた

この噂が広まった理由は、怖さの演出だけじゃない。イラストレーターやアーティストたちは、AIによる仕事の代替や無断学習に不安を抱いてきた。その気持ちを外しては語れない。

「AIが人間の創造性をまねし、時に人間には理解できない形で“何か”を生み出してしまう」。そんな漠然とした恐れがあった。それが「呪われた絵」という具体的なイメージに固まった、と読むこともできる。

日本のSNSでも、AI生成物への感情はずっと複雑だ。技術への好奇心と創作者としての警戒心が同居していて、この話題は何度も議論の的になってきた。この都市伝説は、そうした社会の緊張を怪談の形に訳し直したもの、と見ることもできる。

心霊写真の血はちゃんと流れている

日本には昔から心霊写真の系譜がある。「集合写真に一人多い人影が写り込む」「見てはいけない写真」みたいな話だ。AI絵師の呪われた絵は、この“見てはいけない画像”という型を、生成AIに置き換えた変種だと言っていい。

写真は「現実を写し取る技術」だった。その不可解さへの畏怖が心霊写真を生んだ。AIは「無から画像を作り出す技術」で、こっちへの畏怖が新しい都市伝説の土壌になっている。構図はまるで同じなんだよな。

証拠はない、それでも噂は消えない

この都市伝説は、心霊写真から続く「新しい視覚技術への漠然とした不安」の最新形だ。実際の“呪い”を証明する客観的な根拠はない。多くは、生成AI特有の描画エラーとパレイドリア、確証バイアスの組み合わせで説明がつく。

それでも噂は語られ続けている。技術の急な進化に、人間の気持ちが追いつかない。創作という営みが機械に置き換わっていくことへの、複雑な感情もある。そういうものが今も社会の中で生きているから、噂も死なないんだろう。

ローブという名の顔

ここからが本番だ。この都市伝説の直接の起点として、世界中のオカルト愛好家やAIアーティストの間で語られてきた一枚がある。2022年4月、スウェーデン在住のAIアーティストがTwitter(現X)に投稿した顔写真だ。

投稿者は当時「Supercomposite」という名前で活動していた。やっていたのは、画像生成AIに「入力した言葉と正反対の意味の画像」を作らせる実験だ。負の重み付け(ネガティブプロンプト)を極端に使ったやり方で、それを何度も繰り返していた。

ある晩、彼女が「Brando::-1」という奇妙な呪文を打ち込むと、画面に摩天楼を思わせる抽象的な企業ロゴのようなものが浮かんだ。好奇心をくすぐられた彼女は、今度はそのロゴの「反対」を尋ねてみることにした。入力したのは「DIGITA PNTICS skyline logo::-1」という、ぱっと見では意味の取れない文字列だ。

数秒後、ローディングバーが消えた。同時に画面の中央へ、ゆっくりと一つの顔が浮かび上がってきた。頬に蝶の翅のような赤い発疹状の模様を持つ、老いた女性の顔。目はどこか虚ろで、こちらを正面からまっすぐ見据えている。

誰も注文していないはずの顔だ。投稿者は思わず息を呑んだという。彼女はこの女性に「Loab(ローブ)」という名前をつけた。名前がつくと、急に存在感が増す。

何と混ぜても、あの顔が滲み出る

ただの奇妙な一枚絵なら、ここまでの騒ぎにはならなかったはずだ。本当に震え上がらせたのは、その後の検証でわかった「粘着質さ」だった。ローブの画像を、まったく無関係な単語や画像と掛け合わせて新しい絵を作らせる。すると出来上がった絵に、ほぼ必ずローブの面影が滲み出てくる。

滲むのは赤い頬の染みと虚ろな目、それに老いた輪郭。ホラー映画のワンシーンを作らせようとしても、暴力的な描写を作らせようとしても同じだった。気づけばフレームの片隅に、あの顔が紛れ込んでいた。

投稿者自身も、Twitterのスレッドにコメントを残している。「この女には、AIが知る世界の内部に潜む、きわめてグロテスクで不気味なイメージそのものに近い何かがあるようだ」という趣旨だ。作った本人がこう言うんだ。背筋が冷える。

投稿はあっという間に大拡散した。リプライ欄には「デジタル貞子だ」「消えない呪いのアトラクターだ」という声が殺到した。もちろん懐疑的な意見もある。「人間の脳がパターンを探して、勝手に同一人物だと錯覚しているだけ」という声だ。「わざとホラーめいた画像ばかり抜き出して見せているのでは」という指摘も、繰り返されてきた。

それでも、「AIの潜在空間の奥底には、人間が呼び出してはいけない何かが眠っているのでは」という恐怖は残った。2022年から2023年にかけて、世界中のAIコミュニティに強い印象を刻んだんだ。日本のオカルトまとめサイトやSNSでも「AI版・八尺様」「呪われたAI」として紹介記事が量産された。その呼び水になったのが、このローブだった。

日本に上陸して、怪談の服を着た

ローブ騒動は、翻訳記事や紹介記事を通じて日本語圏に流れ込んだ。ほぼ同じ時期、国内では別の波が来ていた。2022年後半、Stable Diffusionが個人のPCでも無料かつ無制限に動かせる形で公開されたんだ。これをきっかけに、pixivやTwitterでAIイラストの投稿が爆発的に増えた。

絵師、つまり人間のイラストレーターの側からは強い反発が起きた。いわゆる「反AI」感情だ。無断学習への怒り、仕事を奪われる恐怖、積み重ねてきた実力への誇りを傷つけられる感覚。そういう声が、SNSで連日のように語られる状況が生まれた。

この緊張の中で広まったのが、「AIの絵には見てはいけない何かが紛れ込む」という噂だ。偶然ではなく必然だった、と見る向きは強い。技術的に見れば、ただの描画エラーにすぎないんだけどな。

指の本数がおかしい、輪郭が破綻している、背景に説明のつかない人影が出る。そういう類いの現象だ。それが「AIが何か良くないものを“視てしまった”証拠」として語り直された。心霊写真のような物語の型へ、するすると流し込まれていった。

自分の顔が出てきた男

この流れの中で、日本の怖い話投稿サイトに投稿されたのが「画像生成AI」という題の実話怪談だ。話者の間では、静かに語り継がれるようになった。こういう話だ。

ある男性は、若い頃からこっそり画像生成AIで遊んでいた。思いついた特徴を打ち込んで、見知らぬ人物の顔を作り出すのが趣味。ある夜、彼はふと悪戯心を起こした。

打ち込んだプロンプトはこうだ。「19××年の夜に○○小学校に忍び込み、5年2組で飼育されていた金魚に餌を与えた男の顔を生成してください」。それは彼が人生でただ一度だけやった悪戯だった。彼以外の誰も知らないはずの、完全に個人的な秘密だ。偶然で当たる話じゃない。

画面に「生成中……」の文字が出て、数秒のあいだ、彼はいつものように何気なく待っていた。ところが表示されたのは、白い壁を背景にこちらをじっと見つめる、紛れもない彼自身の顔。

動揺した彼は、震える指でリジェネレートボタンを三度押した。三度とも、寸分違わず同じ彼自身の顔が出た。彼はそれ以上何も試せないまま、静かにブラウザを閉じたという。

この話が怖いのは、不気味な画像が出たからじゃない。AIが知り得るはずのない個人の記憶を、見透かしたように形にしてしまった点が怖いんだ。学習データの偶然の一致、という理屈ならいくらでもつけられる。それでも「AIは何かを知っている」という薄気味悪さが拭えない。そこがこの怪談の核。

同じ横顔、黙り込む部屋、待受の祟り

この手の噂には、断片的だけど生々しい体験談がいくつもくっついている。あるイラスト投稿サイトのユーザーの話だ。深夜、納期に追われながら、背景の群衆キャラクターをAIに大量生成させていたという。

シード値も服装の指定もまるで違うはずだった。なのに生成結果の中に、同じ女性の横顔が何度も紛れ込んでいる。最初は偶然だと思って聞き流していた。三度目、四度目と同じ顔が出るうちに、背筋が寒くなってきたらしい。

その日は作業を中断して布団に潜り込んだのに、なぜか一晩中、金縛りのような息苦しさが続いたと語っている。これはきつい。寝ても逃げられないんだから。

別の証言もある。大学のサークルの集まりで、何人かが持ち寄ったノートPCを囲んでいた。面白半分でホラー系のプロンプトを次々に試していたそうだ。誰かが生成した一枚を見た瞬間、その場の全員が同時に「あ」と声を漏らしたという。しばらく誰も口を利けなかった。

その画像に何が写っていたのか。証言者本人も、具体的な説明は避けている。「うまく言葉にできないが、見てはいけないものを見た気がした」とだけ振り返っているんだ。

もう一つは、いかにも古典的な祟りの形をなぞる話。生成した「呪われた絵」を、知人がスマートフォンの待受画面に設定した。その日を境に立て続けに体調を崩し、結局一週間で画像を削除したら体調が元に戻ったという。この話も広く出回っている。

どれも客観的な検証に耐える話じゃない。けれど当人は、「見た」直後から「悪いことが起きた」という因果を強く実感してしまう。都市伝説としての生命力は、まさにそこに宿っている。

一人多い、ふたりの少女

ローブ型の噂が広がる一方で、日本語圏では独自の派生イメージも生まれた。代表格が、複数の投稿者が別々に報告した「ふたりの少女」の噂だ。

プロンプトでは人物を一人だけ生成させたはずだった。なのに完成した画像の背景の暗がりに、輪郭のぼやけた少女らしき人影がもう一人いる。そんな現象が、2023年頃から途切れ途切れに話題になった。

単体なら「AIが複数の人物を混同しただけ」で片づく話だ。それが日本の心霊写真の定番、「一人多い」というモチーフと結びついた。そのせいで、一気に怪談としての説得力を帯びたんだよな。

まとめサイトやショート動画では、「集合写真に写り込む余分な一人」のAI版として紹介された。「AIも人間と同じように“視てしまう”ことがあるのでは」という考察も、繰り返し投稿されている。古典の焼き直しなのに、妙に効く。

笑いながら震える掲示板

なんJや、それに似た匿名掲示板の派生スレッドにも独特の文化がある。「例のAI、絵師が使うとこうなる」みたいなタイトルのスレッドが定期的に立つ。AIが吐き出した不気味な誤生成画像を、ひたすら貼り付けていく。笑いと恐怖の両方で消費する文化が、すっかり根付いているわけだ。

こうしたスレッドは、技術的な失敗を茶化す書き込みが大半を占める。それでも時折、真剣なレスが混じり込む。「これはさすがに笑えない」「マジで見た後具合悪くなった」というやつだ。笑いと恐怖の地続き感こそ、この掲示板文化の特徴。

賛成派も反対派も燃料をくべている

ピクシブ百科事典やニコニコ大百科には、AI生成物をめぐる事件や軋轢をまとめた項目がある。そこでは技術論争と怪談めいた話題が、奇妙に同居している。なんとも落ち着かない光景。

考察系のYouTube動画やまとめブログでは、二つの動きが並んで走っている。ひとつは「不気味の谷」という工学理論を持ち出し、AI画像の気味悪さを科学的に説明しようとする一派。もうひとつは、「いや、それだけでは説明のつかない現象がある」とオカルト側へ振り切る一派だ。

SNSで特に目立つのは、生成AIに批判的なクリエイターたちの動きだ。「AIそのものが呪われている」という物語を半ば意図的に広め、AIへの警戒感をあおる材料にしている面も指摘されている。

AI推進派のほうは、こうした怪談を「技術に対する漠然とした不安が生み出した現代のフォークロアにすぎない」と一蹴しがちだ。皮肉なことに、賛否両陣営の対立そのものが、この都市伝説を広げる燃料として働いている。まさに火に油の構図。

1970年の理論が、いまAIを照らす

この都市伝説の科学的な背景として、よく引かれるのが「不気味の谷(アンキャニー・バレー)」だ。日本のロボット工学者・森政弘が1970年に唱えた理論。人間に酷似しているのに完全には一致しない相手に、脳が強烈な違和感や嫌悪感を抱く。そういう現象を指している。

もともとは、人型ロボットの外観をどう設計するかという論考だった。その概念が半世紀の時を経て、生成AIの顔画像の薄気味悪さを説明する言葉として、再び脚光を浴びている。それ自体がなかなか示唆的だ。

日本には古くから、心霊写真の伝統が根強くある。「集合写真に一人多い人影が写り込む」「現像した写真に見知らぬ顔が写る」という類いの話だ。フィルムカメラの時代から続く“見てはいけない画像”という型に、生成AIという最新技術が新しい器として収まった。

写真は「現実を写し取る」という不可解さゆえに畏怖された。AIは「無から何かを生み出す」という不可解さゆえに畏怖される。技術は変わっても、人間が抱く根源的な不安の形はほとんど変わっていない。この現代の都市伝説でいちばん面白いのは、たぶんそこなんだよな。

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