出流原弁天池

栃木県

1. 導入

栃木県佐野市出流原町。
山の斜面に朱色の社が張り付いていて、その真下に、透き通った池がある。

出流原弁天池。
読みは「いずるはらべんてんいけ」だ。

ここは心霊スポットじゃない。
というか、真逆の場所だと思ってる。

環境省の名水百選に選ばれた湧水の池で、栃木県の天然記念物。
覗き込むと、底の水草も鯉の鱗も一枚ずつ見える。
そういうレベルの透明度だ。

正直に言うと、俺がここに来た理由は単純だった。
心霊スポットばかり回ってると、たまにこういう水を見たくなる。

で、結論から言うとかなり良かった。
汚れが落ちたって表現は大げさかもしれないけど、そう感じたのは本当だ。

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ただし条件がある。
早朝に行くこと。
これに尽きる。

2. 基本情報

住所は栃木県佐野市出流原町一一一七。
一帯は磯山公園と呼ばれてる。

池の規模は、周囲およそ百三十八メートル。
そんなに大きくない。
歩いて一周してもすぐだ。

でも中身がすごい。

湧水量は一日およそ二千四百立方メートル。
水温は年間を通して十六度で安定してる。
夏でも冬でも変わらない。

水は、古生層の石灰岩が溶けてできた洞穴から湧き出してる。
このあたりは秩父古生層と呼ばれる石灰岩質の地層だ。
だから炭酸水素カルシウムを多く含む。

硬度は平均でおよそ七十六から九十二ミリグラム毎リットル。
数字だけ見ると硬そうだけど、区分としては軟水で、飲みやすい部類に入る。

名水百選に選ばれたのは一九八五年、昭和六十年のことだ。
県の天然記念物にも指定されてる。

そしてこの池は、出流川の源になってる。
湧いた水は下流で養魚場や農業用水に使われ、地域の生活を支えてる。
昔は機織りにも使われていたという。

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つまり信仰の対象であると同時に、完全に実用の水でもあるわけだ。

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3. 磯山弁財天

池の上を見上げると、崖の中腹に朱色の社が見える。
これが磯山弁財天だ。

創建はおよそ千年前とされる。
唐沢山城主だった藤原秀郷の勧進により、弘法大師が江ノ島弁天で護摩修行をした際の護摩の灰で造られたもの、と伝わってる。

当時は一帯に七宝伽藍が立ち並んで、かなりの規模だったらしい。
ただ、その後の度重なる火災で寺宝はことごとく焼けてしまった。

今ある本殿は鎌倉時代の再建だ。
建て方が面白くて、釘を一本も使わない「かけつくり」という工法で組まれてる。
崖の斜面から張り出すように建ってる、あの構造だ。

この本殿、当地唯一の文化財として大切に守られてきた。

もうひとつ面白い話がある。
弁財天は昔、弁天池の小島に祀られていた。
それを現在の山腹に移したのは、出流川沿いの住民、特に水車講の農民たちの信仰によるものだという。

霊泉の恩恵を受け続けてきた人たちが、感謝の総意で山の上に上げた。
そういう経緯だ。

弁天様を山腹に安置しているのは、ここだけだと案内されてる。

社が東の方角を向いてるのにも由来がある。
唐沢城主にまつわる話で、弁天堂を江戸城の鎮護の守り神として、江戸城向きに安置したという伝承が残ってる。
だから本殿は今の東京の方角を向いてる。

ご本尊も独特だ。
八本の手を持つ天女風の弁財天で、頭上には白蛇が巻き付いた宇賀神像を頂いてる。
その左右に大黒天と毘沙門天。

さらに十六童子が、弁財天の指示を待つように並んで安置されてる。
五穀豊穣、家内安全、商売繁盛。
守備範囲はかなり広い。

ちなみに出流原弁財天は佐野七福神のひとつに数えられてる。

4. 朝日長者の伝説

この池には、宝が埋まってるという伝説がある。

昔、このあたりに朝日長者という裕福な人物が暮らしていた。
何ひとつ不自由が無かったが、子だけが授からなかった。

夫婦が出流原の弁天に子授けを願うと、美しい女の子が生まれた。
鶴姫と名付けて、大事に育てたという。

だが姫が十八のとき、山に遊びに入ったまま帰ってこなかった。

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嘆く夫婦に神の霊示があった。
姫は弁天池の鯉になっている。
竜神となって昇天するためには、莫大な財宝がいる。

そこで長者は、娘のために後ろの山に財宝を埋めた。
そして宝の在り処を詠んだ歌を残した。

朝日さす夕日輝く木の下に、うるし千ばい黄金億々。

こういう歌だ。

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宝探しの話としても有名だけど、俺が引っかかったのは別の部分だ。
死んだ娘が池の鯉になっている、という発想。

今も池には鯉が泳いでる。
水が澄んでるから、姿がはっきり見える。
それを見ながらこの話を思い出すと、ちょっと感覚が変わる。

5. 現地の様子

行くなら朝がいい。
これは強く言っておきたい。

昼になるとそこそこ人が来る。
観光地としては小さいのに知名度はあるから、車で寄る人が途切れない。
ベンチに座って長居する空気じゃなくなる。

でも早朝は誰もいない。
本当に誰もいない。

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水音しかしない状態で池のほとりに立つと、聖地って言葉が急に現実味を帯びてくる。
この差は大きい。

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池の水は、噂どおりの透明度だ。
底が普通に見える。
鯉が水の中に浮いてるみたいに見えて、距離感が狂う。

俺が行ったのは紅葉には少し早い時期だった。
それでも部分的に色づいてて、水面に映る色だけで十分満足できた。
本気のシーズンに来たら、たぶんかなりのものだと思う。

社に上がる階段は急だ。
手すりはあるけど、それなりに登る。

途中には白蛇の手水舎がある。
蛇は弁天様の使いとされていて、この地域では長い蛇の夢を見ると縁起がいいと言われてきたらしい。
白蛇には、感謝の気持ちを込めて希望のところをさすると良いと案内されてる。

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弁天堂の下には風穴洞がある。
岩の隙間から冷たい空気が吹き出してくる場所だ。
夏に手を入れると、驚くほど涼しいらしい。

登り切ったところからは、下の池と周辺の景色が見渡せる。
朱色の社と、緑と、水。
色の組み合わせだけで、なんとなく気分が上がる。

6. パワースポットとしての見方

弁財天は、もとをたどるとインドの河の神格化だ。
サラスヴァティー川を神とした存在で、音楽や弁才、福智、延寿を司る。

つまり水の神様である。

その神様が、名水百選の湧水の真上に祀られてる。
これ、配置として完璧なんだよね。

しかもこの池の水は、千年単位で人の生活を支えてきた。
田んぼを潤して、魚を育てて、機を織る水になった。
その感謝が信仰として積み上がって、社を山腹まで押し上げた。

ここが面白いところだ。
上から降ってきた信仰じゃなくて、下から積み上がった信仰なんだ。

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パワースポットって言葉は正直、使い方が雑になりがちだと思ってる。
何となく雰囲気がいいだけの場所に貼られることも多い。

でもここは違う。
水があって、水に感謝する人がいて、その結果として社がある。
因果がはっきり見える。

心霊スポットを回った後にここへ来ると、感覚の差がすごい。
向こうは人が消えた場所の記憶を見に行く行為だ。
こっちは人が生き延びてきた記録を見に行く行為になる。

浄化されたと感じたのは、たぶんそういうことだと思ってる。

7. アクセスと周辺環境

車なら佐野駅からおよそ二十分。
佐野藤岡インターや佐野田沼インターからも近い。

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注意点は駐車場だ。
池のすぐ横のスペースは数台分しかない。
少し離れた場所にもう少し停められる場所があるけど、混む時間帯は厳しい。

この意味でも早朝は正解だ。
停める場所で悩まなくて済む。

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湧水は持ち帰れる。
隣のホテル一乃館の脇に汲める場所があって、専用ボトルも売ってる。
売店で聞けば教えてもらえる。

周辺もそこそこ充実してる。
すぐ近くに赤見温泉があって、フィッシングフラワーパークもある。
池の裏山にはハイキングコースが整備されていて、二十分から三十分ほどで回れる。

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ただし裏山は普通に山道だ。
靴はちゃんとしたものを履いたほうがいい。
水辺が近いので、虫除けもあると安心だ。

8. 訪問時の注意

まず、ここは信仰の場だ。
観光地として整備されてはいるけど、現役で参拝される社であり、地域の人が守ってきた池でもある。

池に物を投げる、水に入る。
これは論外だ。
あの透明度は、地元のボランティアが定期的に清掃を続けて維持されてる。

階段は急なので足元に注意。
手すりの太さが一部合わない箇所があるという声もあるので、無理はしないほうがいい。

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湧水を汲むなら、勝手にやらずに一乃館か売店に声をかけること。
飲用については、自治体や現地の案内に従うのが確実だ。

そして繰り返しになるけど、行くなら早朝。
人がいない時間帯のこの場所は、別物だ。

9. 参考文献

出流原弁天池(佐野市磯山弁財天観光協会)
URL:https://isoyamabenzaiten.com/bentenike.html

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磯山辨財天の歴史(佐野市磯山弁財天観光協会)
URL:https://isoyamabenzaiten.com/benzaiten.html

出流原弁天池(佐野市観光協会)
URL:https://sano-kankokk.jp/?sightseeing=04-2

佐野市 出流原弁天池湧水(環境省 名水百選)
URL:https://water-pub.env.go.jp/water-pub/mizu-site/meisui/data/index.asp?info=17

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出流原弁天池・磯山弁財天(磯山公園)/とちぎ旅ネット
URL:https://www.tochigiji.or.jp/spot/s9779

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