夜に赤い靴を履くと、何が起きるのか
夜に赤い靴で出歩くと、霊や妖怪に目をつけられ、そのままどこかへ連れ去られる。そんな禁忌が語られる。
赤い靴の女性が足音に追われて高熱を出した、子どもが知らない声に呼ばれて消えた。そんな尾ひれまで付いてきて、字面を並べるだけなら十分に不気味だ。ところが、日本の古い習俗として広く共有されていたことを示す記録は確認されていない。現時点では、近現代の怪談として見るのが自然だ。
赤はそんなに不吉な色か
赤は血や火、危険を連想させる一方で、鳥居や祝い事、魔除けにも使われる色だ。生命力や守りの側にも立っていて、日本文化の中で一貫して不吉だったわけでもない。
だから「赤は霊を呼ぶ色なので、昔から夜に禁じられた」と一本の線で説明するのは難しい。場面によって吉にも凶にも意味づけられる、幅の広い色なのだ。
赤い話が、いくつも混ざっている
赤い靴に赤いマント、赤い部屋と、赤を印象的に使う怖い話は多い。童謡の「赤い靴」も、少女が異国人に連れられていく歌としてよく知られている。
夜、少女、赤い靴、連れ去り。ここまで揃うと、たしかに怪談へ組み替えやすい。ただ、それがこの禁忌の直接の起源だという確認は取れていない。似たモチーフが混ざり合った可能性のある話、と考えるところまでにしたい。
大阪の女性、東京の子ども
大阪で赤い靴を履いた女性に怪異が起きた、東京で子どもが失踪した、靴を寺で供養すると現象が止まった。そんな語りがいくつも転がっている。関西では強く信じられ、東北ではあまり聞かれない、という説明もセットで出てくる。
けれども、寺や事件、新聞、採話集を特定できる情報は確認されていない。事実として紹介するには足りず、今のところは未確認の伝承としてはっきり分けておく。
夜道で本当に効くのは、靴の色じゃない
赤い靴だから犯罪者に狙われやすい、という根拠も示されていない。暗い場所では色の見え方が変わるため、赤がいつでも最も目立つとも限らない。
夜間の安全を左右するのは、もっと即物的な条件だ。照明の有無、交通量、単独行動かどうか、周囲を確認できる環境か。靴の色を怖がるより、明るい道を選び、危険を感じたら人のいる場所へ移動する。そのほうがよほど役に立つ。
都市伝説として読むほうが面白い
この話の魅力は、夜の闇に赤だけが浮かぶ強い映像にある。まあ、絵として強すぎるのだ。古代から続く禁忌と断定するより、色の象徴、童謡、連れ去りへの不安、いくつもの赤い怪談が合成された都市伝説として読むほうが面白い。
具体的な採話地や年代の分かる記録が見つかれば、姿は変わるかもしれない。それまでは「赤い靴は危険」を現実の服装ルールにしなくていい。
