霊柩車と親指の、よく知られた迷信
霊柩車を見たら、親指を手の中へ隠す。そうしないと親が早死にする。子どものころ、慌てて親指を握った経験がある人もいるでしょう。このしぐさは、ただの新しい都市伝説ではなく、民俗資料でも扱われているまじないです。もちろん、親指を隠さなかったことが原因で親が亡くなるという因果はありません。
「親指は親だから」だけではない
いちばん覚えやすい説明は、親指の「親」が自分の親を表すため、隠して守るというものです。ただ、由来とされる考え方はほかにもあります。魂が親指の爪の間から出入りするので、恐ろしいものに出会ったら親指を握って隠すという身体観や、尖った先端には霊魂が宿るという考え方です。江戸期の記録にも、畏れを感じるものに出会ったとき親指を握る趣旨の話が紹介されています。
もともとは霊柩車だけの作法ではなかった
親指を隠す伝承は、霊柩車や葬列に限らず、恐ろしいと感じる対象に出会った場面にも全国で分布するとされます。現代の霊柩車が広まったあと、親指と「親」を結びつける分かりやすい説明が加わり、子どもたちへ伝わりやすくなった可能性があります。一つの起源へ決めつけるより、古い身体観と親を思う語呂が重なったしぐさとして見るほうが自然です。
なぜ、ついやってしまうのか
大切な家族に何か起きたらどうしよう、という不安は誰にでもあります。そんなとき、親指を握るだけで「守る行動をした」と感じられれば、少し安心できます。まじないの効果は象徴的ですが、不安を形にして落ち着かせる儀礼行動としては分かりやすいものです。隠し忘れたからといって、あとから自分を責める必要はありません。
- 親指を隠すかどうかは本人の自由
- 隠さなかった人を不吉だと責めない
- 霊柩車や葬列を見世物にしない
- 撮影や追跡、進路を妨げる行為はしない
大切なのは、遺族への配慮
この俗信には、親の語呂、魂の出入口、先端への畏れなど、いくつもの説明が重なっています。民俗としてはとても興味深い一方、現実の場面で優先したいのは故人と遺族への配慮です。親指を握る静かなしぐさを残すのはかまいません。ただ、「隠さないと親が死ぬ」と子どもや周囲を強く脅すのではなく、昔から伝わるお守りのような行為として語るのがよいでしょう。
親の体調不良をあとで知ると、「あのとき隠さなかったから」と結びつけてしまうこともあります。しかし、二つの出来事が続いただけでは原因とはいえません。不安なら親へ連絡し、必要な受診や生活上の助けにつなげるほうが、親を守る現実的な行動になります。
