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ごみこさん

山道に、ごみ袋が等間隔で吊るされていた

北海道のとある山で、恋人同士の若い男女がピクニックを計画した。

天気は良かった。行程も本格的な登山というほど厳しくない。地元の人間なら誰でも知っている、ちょっとした散策コースだ。昼過ぎには下山してドライブでもしよう。そのくらいの軽さで、二人は山道に足を踏み入れた。

歩き始めてしばらく経った頃、妙なものを見つけた。木の枝に無造作にくくりつけられた、汚れたごみ袋だ。

中には食べ残しや壊れた日用品が詰め込まれている。誰かがこの山を、勝手な集積所みたいに使っているらしい。マナーの悪い登山者がいるんだね、と二人は顔をしかめて通り過ぎようとした。

ところが、奥へ進むにつれて同じような袋がぽつぽつ目に入るようになる。しかも位置が妙なのだ。まるで道しるべのように、一定の間隔で木々の間に吊るされている。

さらに進んだところで、二人は気づいた。木立の隙間から、女がじっとこちらを見つめている。

髪も服も泥とごみにまみれ、手には大きな袋をだらりと提げていた。あまりの出で立ちに驚きながらも、二人は声をかけた。落とし物ですか、と。

女は静かに、しかしはっきりと名乗った。

「ごみこ」

それだけ言うと、女はまた木々の奥へ消えていった。

さすがに薄気味悪くなって、二人は来た道を引き返すことにした。だが、通ってきたはずの登山道の様子がおかしい。さっき見た汚れた袋が、等間隔にずらりと並べられているのだ。道を塞ぐように。

一つずつどかしながら進もうとした、そのときだった。

袋の中から、携帯電話の着信音が鳴り響いた。

恐る恐る中を覗き込む。画面に表示されていたのは、数年前にこの山で行方不明になったとされる人物の名前だった。

二人は弾かれたように、別々の方向へ走り出した。

森のどこからも、何かを引きずるような音が追いかけてくる。ずるり、ずるり。

日が完全に落ちても、二人は戻らなかった。翌日組織された捜索隊が見つけたのは、置き去りにされた二人の荷物と、新しく増えたごみ袋が二つだけ。

以来この山では、行方不明者が出るたびに地元の人々がこう囁くようになったという。

「また、ごみこさんに拾われたんだ」

なお、袋の中身や着信音、失踪者の名前といった細部は、確認できる公開あらすじをもとにした読み物としての再構成だ。映像作品の逐語的なシナリオ紹介ではないことを、先に断っておく。

初出は口承じゃない。レンタルDVDの棚だ

ここが「ごみこさん」の一番面白いところなんだけど、この話、長い年月をかけて口承で広まった伝統的な都市伝説ではない。はっきりとした商業的な初出がある。

確認できる最も古い記録は、2011年3月25日にレンタル開始された1本のDVDだ。

タイトルは『呪いのご当地都市伝説―北海道・東北編―「ターボババア、ごみこさん、ママが夜来る」』。制作はアース・スター エンターテイメント系列、販売はトップ・マーシャル、監督は山内大輔。出演は山下真実、佐倉美沙、加藤賢崇、柴崎真人、竹川幸弘、白木妃奈子ら。収録時間45分、16:9カラー、ドルビーデジタル対応。インディーズ寄りのオリジナルビデオ作品である。

パッケージや通販サイトに載った公開あらすじによれば、触れ込みは「口コミで認知度抜群のご当地都市伝説を初映像化」。北海道・東北地方で語られているとされる三つの怪異譚を一本にまとめている。

深夜の東北道に現れ、配達ドライバーが事故に遭うという「ターボババア」。山へピクニックに出かけたカップルが失踪し、遺されたビデオには鉈を持った血まみれの女性が映っていたという「ごみこさん」。そして「ママが夜来る」。

つまり「ごみこさん」が広く認知されるようになったのは、この映像企画が世に出た2011年3月からだ。それ以前に独立した原型の口承や投稿が存在したのかどうかは、今のところ公的に確認できる資料からは判断できない。

むしろ気をつけたいのは、「すでに地元に伝わっている伝説」という体裁そのものが、映像作品側の演出・宣伝手法だった可能性である。よくある手だ。

この認識は、TSUTAYAの商品ページとYahoo!ショッピングの掲載あらすじという一次資料同士を突き合わせても揺るがない。笠間書院刊行の『日本現代怪異事典』の書誌情報でも、この話は伝統的口承ではなく、現代の映像発怪異として整理されている。

登山かピクニックか、怪異か人間か

紹介する媒体によって、細部がけっこう揺れる。

まず行動の性質だ。本格的な「登山」として語る版と、軽装の「ピクニック」として語る版がある。遭難の切迫感をどこまで出したいか、書き手が使い分けているようだ。

次に、事件の位置づけ。「2011年前後に北海道で実際に起きた未解決失踪事件」であるかのように紹介する動画説明が、一部に存在する。だが、公的な警察発表や報道記録との対応関係は一切確認できていない。ここは大事なところだ。宣伝目的の「実話風」演出と、実際に立件・報道された事件を混同してはいけない。

そして「ごみこ」という存在そのものの解釈にも幅がある。山に取り憑いた怪異・妖怪の一種として描く版と、山中で人を襲う人間の殺人者として描く版だ。

前者なら、土地に根ざした祟りの話になる。後者なら、猟奇的な人間ドラマになる。同じ話なのに、怖さの質がまるっきり変わってしまう。

「拾われた」という言い回しが残っている

「ごみこさん」自体について、一次的な目撃証言や体験談を掲げた独立資料は、今回の調査では見つからなかった。

代わりに、この話がどう受け取られてきたかを物語る間接的な証言はいくつかある。

ある視聴者は、レンタルショップの棚でこのDVDのパッケージを見かけたときの話を書いている。「ごみこさん」という響きの幼さと、あらすじにある「鉈を持った血まみれの女」という凄惨な内容。そのギャップに強い違和感を覚えて、思わず借りてしまったという。ネーミングの勝利だと思う。

別の視聴者は、受容の格差を指摘している。同時収録の「ターボババア」は2010年代半ば以降、漫画・アニメ作品を通じて全国的に有名になっていった。その一方で「ごみこさん」は、その陰に隠れる形で存在感を失っていった。

同じ棚に並んでいた三つの話のうち、なぜ一つだけが広く知られて、残り二つはマイナーなまま留まったのか。この格差そのものが、一種の「発見されなかった怪異」として語られることがある。

もう一つ、地に足のついた語りもある。北海道の山間部でキノコ狩りや山菜採りをする人たちにとって、不法投棄されたごみ袋を山中で見かけるのは、別に珍しいことではない。

「ああいうのを見た後にこの話を知ると、本当にあの女がいるんじゃないかと勘繰ってしまう」

現実の不快な光景と、怪異譚が結びついてしまう瞬間だ。こういう証言がいちばん生々しい。

B級パッケージが愛されている

この作品は大手動画配信サービスでも取り扱われている。さらに、レンタル落ちの中古DVDが今なお複数の通販サイトで継続的に取引されていることも確認できる。TSUTAYA、Yahoo!ショッピング、楽天市場、Amazon、HMV、タワーレコード、ブックオフ。けっこうな数だ。

これは息の長いカルト的な需要がある証拠だろう。

SNSや個人ブログでの反応は、作品の実話性そのものよりも、企画とパッケージのB級テイストを楽しむ方向に寄っている。「ご当地都市伝説シリーズはB級感が逆にクセになる」「ごみこさんのパッケージだけで笑ってしまう」。だいたいこの温度だ。

考察界隈での扱いも独特で、この話単体を深掘りするコンテンツはあまりない。増えているのは、「ターボババア」経由の再発見だ。あちらが『ダンダダン』などの人気作品を通じて全国区の知名度を得たことの延長で、「同じDVDに入っていたのに知られていない話」として紹介される。相方の七光りである。

怪異・都市伝説の記録サイトの多くは、この話を「山の怪異」「移動・境界型」の都市伝説として分類している。山中で道に迷う、引き返せなくなる。この普遍的な恐怖のパターンに、不法投棄という現代的な不快感を接木した点を評価する声もある。

不法投棄という、現実の不快感

もう一度だけ書いておく。「2011年に北海道で起きた未解決事件」という説明を裏付ける警察発表・報道記録は確認されていない。だから、この話を特定の実在事件の記録として扱うのは適切ではない。

ただし、話が広まった背景に現実の社会問題があるのは確かだ。山岳地帯における不法投棄である。

北海道に限らず、日本各地の山間部では、心無い登山者やドライバーによるごみの不法投棄が長年問題視されてきた。「山を汚す者」への嫌悪感が、「ごみを集める怪人」というモチーフに転化された。そう考えるのは、かなり自然だと思う。

ついでに相方の話もしておく。同じDVDに収録された「ターボババア」は、高速道路上を異常な速度で移動する老婆の都市伝説として、2000年代後半から独立して広く語られるようになった。後年には「ジェットババア」など類似モチーフの都市伝説群も生んでいる。さらに人気漫画・アニメ『ダンダダン』に登場する妖怪のモデルとしても取り上げられ、令和になってから再燃した。

「ごみこさん」は、この有名な相方の陰に隠れた存在だ。それでも、同じ制作陣・同じ企画から生まれた姉妹編として、北海道のご当地ホラーの一角を占め続けている。

最後に、怪異とは無関係の現実的な注意を一つ。山中で不審な物品や不法投棄物を見つけても、開封したり持ち帰ったりしてはいけない。自治体・警察・土地管理者へ通報するのが正解だ。中身が何であれ、いいことは何もない。

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