奇怪千万からのお願い

このサイトの記事が面白かった、役に立ったと思って頂けたら、一つお願いがございます。
Amazonで何か買う予定があるとき、その前に下のボタンから入って頂いて買い物をしていただくと
サーバーの運営費と心霊スポットやパワースポットの取材費になります。

ここから入って買い物をすると、金額の数%が紹介料として私に入ります。
貴方様の支払いが増えることは一切ありません。買う物も何でも構いません。
記事をもっとたくさん増やしたいので、ご協力をお願いします。

当サイトではアマゾンアソシエイト以外のアフィリエイトは使用しません
(記事が見づらくなるから・・・)

幽霊だけど何か質問ある?

2007年6月8日、VIP板に立った一本のスレッド

タイトルはこれだけだった。「幽霊だけど何か質問ある?」。

板はニュー速VIP。当時の2ちゃんねる、今の5ちゃんねるだ。VIP板というのは、釣りだと分かっていても構わず乗っかるのが作法みたいな場所である。住民たちは半笑いで最初のレスを付けた。

ところが、投稿者の語り口が予想と違った。固定ID「NMQZ542Z0」を名乗るその人物は、やたらと落ち着いていたのだ。

「恨みはない」

これが最初の一行だった。二十二歳、事故で死んだ。意識が戻ってから、まだ一週間も経っていない。自分の葬式を、自分で見た。生前着ていた高いスーツを死装束にされたことに、少しだけ苦笑した、と書いている。

今は岡山駅前のあたりを浮いているらしい。物に触れる感覚はあるが、持ち上げることはできない。扉は、力を抜けば身体がすり抜ける。

当然、住民の一人が突っ込んだ。「じゃあどうやって書き込んでるんだよ」。

答えは要領を得ないものだった。キーボードを叩いている感覚はない。文章を掲示板へ「ねじ込む」ように意識を集中させると、それが書き込みになるのだという。

普通なら、ここで笑って終わりだ。実際、住民たちは冗談半分でIPアドレスの表示を試みた。当時のVIP板は、設定次第でIPが見えるスレッドがあったのだ。

案の定、投稿者のIPは出てきた。219.127.112.168とされている。

ただ、妙なことがあった。通常なら表示されるはずのホスト名、いわゆる「フシアナサン」の欄が空白だったのだ。さらに有志がそのIPへpingを飛ばしても、応答が返ってこない。

「パソコンが存在しないのに、同じIDで書き込みが続いている」

ここでスレの空気が変わった。

冷やかしていた住民たちの声色が変わり、質問が真剣になっていく。死後も生前の記憶はあるか。性欲はどうか。痛みや空腹は。生前よく見ていたサイトは見られるのか。天気予報や未来は分かるのか。閻魔大王には会ったのか。他の幽霊らしき人影とすれ違うことはあるのか。

投稿者は、律儀に一つずつ答えていった。

記憶はある。性欲は消えた。痛みも空腹もない。意識すれば生前よく見ていたサイトの画面は見えるが、複雑な検索をしようとすると集中が散ってうまくいかない。天気予報も未来も分からない。閻魔には会っていない。他の幽霊らしい人影とはすれ違うが、呼びかけても反応してもらえない。

生前好きだった作家として、中島らもの名前を挙げたことも記録に残っている。

ある住民が「死んでもネットができるなら少し安心した」と書いた。投稿者はこう返している。「そのころにも掲示板があれば試してみて」。

線香をあげたい、という申し出もあった。「自分は無宗教寄りのクリスチャンだったから、気持ちだけもらう」。

このあたりから、スレの目的が変わっていく。正体を暴くことではなくなった。身寄りのなさそうな新参者の話し相手になること。生者であれ死者であれ、そこはもうどうでもよくなっていた。

やがて投稿者の文章が途切れがちになる。「ぼやける」「集中が続かない」。ここに留まる時間が終わりに近づいている、という匂わせだ。

最後まで、死後の世界の秘密が大仰に明かされることはなかった。ただ、生きている者たちへ礼を言い、幸福を願って、静かにレスが止まった。

ホスト名が空欄だった、その理由

スレッドの発生日時は2007年6月8日。板はニュー速VIP。ここは複数の考察ブログ・まとめサイトで一致して確認されている。

投稿者は自身を岡山県在住、二十二歳のフリーター男性で、事故により死亡したと説明していた。固定ID「NMQZ542Z0」を使い続けたことが、これが単発の釣り投稿ではなく、一定時間にわたる連続した書き込みだったことを裏付けている。同一人物、あるいは同一人物を演じた誰かによるものだ。

で、いちばん議論を呼んだのがIP検証の結果である。

IPアドレス219.127.112.168について、ホスト名の逆引きが表示されない。pingへの応答もない。これが「物理的なパソコンを使わずに書き込んでいる証拠」として、一部の住民を本気で驚かせた。

ただ、後年の技術的な再検証はもっと素っ気ない。この現象、超常現象は一切必要ないのだ。

ホスト名が表示されないのは、プロバイダ側で逆引き応答許可の設定をしていない場合に普通に起こる。pingが通らないのも、ファイアウォールでポートを閉じていたり、プライベートIPのネットワーク環境から接続していれば自然に発生する。どちらも珍しくない。

実際に該当IPの割当情報を調べたブログもある。そこでは、インターネットカフェ等の共有回線を提供する事業者名に近い割当が確認されたという分析がなされた。「幽霊が契約者になれるわけがない」という皮肉つきで、生きている人間が匿名性の高い回線から投稿していた可能性が高い、という結論になっている。

このスレッドは早い段階で全文がまとめブログに転載された。そして「2ちゃんねる名スレ」「感動スレ」「意味が分かると怖い話」という、まったく違う複数のカテゴリで紹介されていく。

転載の過程で内容も変わった。まとめサイトごとにレスの取捨選択や順序が違う。全体を三部構成に分けるサイトもあれば、技術検証パートをばっさり削って感動秘話に仕立てるサイトもある。

Yahoo!知恵袋には2009年の時点で「このスレの自称幽霊さんのホスト名について」という趣旨の質問が投稿されている。二年経っても、この技術的な謎を気にかけている人がいたわけだ。

さらに2021年には、個人ブログでスレッド構造そのものを再検証した考察記事が公開された。2020年代に入ってもポッドキャストで「スレ住民がホンモノと認めた根拠とは?」という切り口で語られている。とんでもなく息が長い。

同じスレが、四つの顔を持っている

技術検証中心版。 IPアドレス、ホスト名の空欄、ping不応答。この三点を軸に据えて、「幽霊は本物だったのか、それとも巧妙な釣りだったのか」という謎解きを前面に出す版だ。まとめサイトの多くはこの構成を採っている。

感動交流中心版。 技術検証を最小限にして、投稿者と住民の穏やかなやり取り、投稿者が最後に見せた優しさや礼儀正しさを中心に編集した版。こっちは「泣ける2ちゃんねるの名スレ」として紹介されることが多い。若い世代はこの版から入るケースが増えている。

全三部構成版。 原スレのボリュームを踏まえて、「その1」「その2」「その3」と三分割し、連載形式で載せる版。各回の末尾にちゃんと引きを作ってあって、構成の工夫が凝らされている。

釣り確定版。 2018年以降の考察記事に多い立場だ。当時の2ちゃんねるが釣り全盛期だったことを前提に、VPNやネットカフェ経由の接続ならホスト名やping応答を簡単にごまかせた、と結論づける。投稿者の正体を「幽霊を演じた生きた人間」とはっきり明言する。

読んだ人たちが、何を感じたか

当時リアルタイムで見ていたという人の振り返り。

「最初はどうせ釣りだろうと思ってスレを開いたんです。でも読み進めるうちに、変に静かなやり取りに引き込まれていった。誰かが茶化すレスを入れても、幽霊は律儀に真面目に返す。その温度差が逆に怖かったし、途中からは本当に信じたくなっている自分がいました」

温度差、というのがいい表現だ。

別の閲覧者は、深夜に一人で読んでいたときのことを語る。

「ホスト名が空欄だという指摘を読んだ瞬間、部屋の空気が変わったような気がしました。パソコンの画面の向こうに、本当に岡山駅前に浮いている誰かがいるんじゃないかと想像して、しばらく画面から目を離せなかったのを覚えています」

後年、まとめサイト経由で知った読者はこう書いている。

「Yahoo!知恵袋で誰かが数年越しにホスト名のことを質問しているのを見つけて、それだけ多くの人がこのスレを覚えていたんだと驚きました。自分も結局、技術的な種明かしを読んでも、最後のやり取りの部分だけは素直に切なくなってしまいました」

そして、種明かし側の証言もある。技術者を名乗る投稿者の言葉だ。

「当時の環境なら、ネットカフェや一部のプロバイダ経由でPPPoE接続していれば、動的IPの逆引きレコードが設定されていないことは珍しくなかった。ping不応答も、ルータやファイアウォールの設定次第で普通に起こる。当時の住民が驚いたのは、単に多くの人が普段そこまで気にしてIPを見ていなかったからだと思う」

身も蓋もない。だが、たぶんこれが正解だ。

決定版が存在しないスレッド

このスレッドは「2ちゃんねる名スレ」として、その後何度もまとめブログでリバイバルされ続けている。

「2ちゃんねるまとめ・読み物・長編・名作」を謳うサイト。「感動レ」というカテゴリを持つサイト。複数の系統のブログが、それぞれ違う切り口で紹介している。だから単一の決定版が存在しない。これもこの話の特徴だ。

オカルト系のポッドキャストでも「スレ住民がホンモノと認めた根拠とは?」というテーマで一本の回が作られた。十年以上経ってもコンテンツとして消費され続けている。話の完成度がそれだけ高い、ということだろう。

SNSでは定期的に「幽霊だけど質問ある系のスレ、好きすぎる」という形で言及が再燃する。そのたびに、技術的な種明かしを知らない新しい世代の読者が「本物だったのでは」と驚いて拡散する。このサイクルが、もう十八年繰り返されている。

岡山駅前と、中島らものこと

舞台とされるのは岡山県、特に岡山駅前周辺だ。投稿者が実在の駅名を挙げたことが、話にリアリティを与える大きな要素になっている。

ただし、これに対応する実際の死亡事故の記録や、投稿者の実在を裏付ける資料は確認されていない。

投稿者が愛読していたと語った作家、中島らもは実在の人物だ。生と死、酩酊、自由な精神を描く随筆・小説で知られる。あの作風と、この投稿者のどこか達観した語り口を重ねて語る人は多い。名前の選び方がうますぎる、と言ってしまえばそれまでなんだけど。

技術的な検証で言及されたインターネットカフェ経由の接続、あるいはソフトバンクテレコム系列の回線という指摘についても、一言添えておきたい。あれらはいずれも「当時、匿名性の高い接続手段が一般に存在した」という背景を示す傍証であって、特定の店舗や個人を名指しできるものではない。

種は割れている。それでも、最後のレスだけは、いまだにうまく笑い飛ばせない。

タイトルとURLをコピーしました