2014年12月、名古屋市内で暮らしていた当時19歳の大学生が、知人の77歳女性を自宅に招き、命を奪った。加害者が口にしたとされる動機は大きく報じられたが、刺激の強い言葉だけを抜き出すと、被害者が一人の生活者だったことも、事件がどのように裁かれたかも見えにくくなる。
集会で知り合った二人
二人が知り合ったのは宗教団体の集会だった。2014年12月7日、加害者は女性と集会に参加したあと、「聞きたいことがある」と自宅アパートへ誘った。そこで女性を襲い、殺害した。具体的な方法を細かく追う必要はない。確かなのは、面識を得たばかりの若者を信じて訪ねた女性が、その場所で命を奪われたということだ。
被害女性が帰宅しなかったため、夫は捜索願を出した。警察は最後に接触した人物を調べ、2015年1月26日、名古屋へ戻った加害者から事情を聴いた。翌27日、警察官がアパートに入り、女性の遺体を発見。加害者は殺人容疑で逮捕された。事件直後に宮城県内の実家へ戻っていたことや、SNSに犯行をうかがわせる投稿をしていたことも捜査で明らかになった。
以前の殺人未遂も審理された
捜査では、2012年に起きた二つの事件も浮かんだ。高校生だった加害者が、同級生の男女に硫酸タリウムを摂取させたとされる殺人未遂事件である。当時は立件されていなかったが、名古屋の事件後にあらためて捜査され、殺人事件と一緒に裁かれた。
加害者は、少年犯罪への強い関心や、人の死を見たいという趣旨の供述をしたと報じられている。ただし、こうした供述を「変わった若者」の一言で消費しても、事件の説明にはならない。家庭環境や交友関係を原因と決めつける話もネットにあるが、裁判で認定された範囲を超えた推測は、事実として扱えない。
少年審判から刑事裁判へ
事件当時19歳だったため、まず少年法の手続きが取られた。家庭裁判所では複数回の精神鑑定が行われ、2015年9月29日、事件は検察官へ送致された。精神発達上の問題は指摘されたものの、犯行への影響は限定的で、責任能力に問題はないという判断だった。
名古屋地方裁判所は2017年3月24日、殺人と二件の殺人未遂について有罪とし、無期懲役を言い渡した。弁護側は精神状態の評価などを争ったが、名古屋高等裁判所は2018年3月23日に控訴を棄却。最高裁判所も2019年10月15日に上告を棄却し、同月22日に無期懲役が確定した。裁判所は、双極性障害や発達障害の影響は限定的で、完全な責任能力があったと判断している。
これは裁判上の評価であり、同じ診断名を持つ人全体を危険視する根拠にはならない。
残ったのは被害と報道の課題
事件では、加害者の年齢や経歴、供述が繰り返し注目された。週刊誌が実名と顔写真を掲載したことで、少年事件の匿名報道をめぐる議論も起きた。一方で、被害女性の人生はほとんど語られていない。宗教団体の集会で知り合ったという事実は、被害を受ける理由にはならないし、私生活を興味本位で掘り返す必要もない。
事件を振り返るときは、加害者の言葉の異様さを並べるより、確認された経緯と司法判断を落ち着いて分けて読むほうがいい。ネット上の未確認情報を足さず、77歳の女性と、2012年の二人の被害者が受けた被害を中心に置く。それがこの事件を扱う最低限の姿勢だ。
