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⚖️ 筧千佐子「後妻業の女」事件――資産家男性らが青酸化合物で命を落とした近畿連続不審死の全貌

2007年から2013年にかけて、近畿で妙な死が続いた。京都や兵庫、大阪で、結婚相談所を通じて知り合った高齢の資産家男性らが、次々と不審死を遂げたんだ。共通点はひとりの女性。

その女性が筧千佐子だ。結婚や内縁の関係を、何度も繰り返してきた人物だった。捜査の結果、交際や婚姻の相手だった男性らに青酸化合物を使って命を奪い、遺産を得ていたとして殺人罪などに問われた。2017年、京都地裁が言い渡したのは死刑。

控訴、上告と争ったけれど、2021年に死刑が確定した。のちにこの手口は「後妻業の女」という言葉とセットで語られるようになり、世間にすっかり知れ渡っていく。ここまでが骨組みだ。

伴侶の顔で近づき、遺言を整えていた

入口は結婚相談所だった。報道によれば、彼女はそこで複数の高齢男性と知り合い、交際や結婚、内縁の関係を次々に重ねてきたという。相手には「将来をともに歩む伴侶」として深く信頼させていたらしい。一緒に暮らすところまで、関係を進めていたそうだ。

怖いのはここからだ。生活をともにしたうえで、公正証書遺言などの形を整え、自分が財産を相続できる状態を作っていたとされる。捜査と公判で明らかになった範囲では、2007年から2013年にかけて、関係を持った複数の男性が青酸化合物を口にしていた。命を落とした人もいれば、一時重篤に陥った人もいたとされる。

2013年12月、ひとつの司法解剖がすべてを動かした

事件が表に出たきっかけは、2013年12月に亡くなった交際相手の男性だった。不審な点があるとして司法解剖に回されたところ、男性の体内から青酸化合物の成分が検出されたんだ。警察が本腰を入れた。

調べを進めると、過去に彼女と関係のあった男性たちの死にも、青酸化合物の疑いが浮かんできた。京都府警を中心に捜査本部も置かれている。2014年、筧千佐子は関係者の一人に対する殺人容疑で逮捕され、そこから複数の事件で次々と追起訴されていった。網が一気に広がった。

裁判で認められたのは「3人と1人」

起訴の中身を見ておこう。最終的に起訴されたのは、殺人3件と殺人未遂1件だった。検察側は、2007年から2013年に交際や婚姻の関係にあった男性らに、青酸化合物を摂取させたと主張した。3人が亡くなり、1人が一時重篤な状態に陥ったという筋立てだ。

ここで数字の話をしたい。週刊誌や書籍の中には、彼女が関係を持った男性の総数や亡くなった人数を、十数人規模と挙げるものもある。ただ、それは何十年にもわたる交際や婚姻の広がりを、取材をもとに推計した数字なんだよな。刑事裁判で殺人と認められたのは、あくまで3件の死亡と1件の未遂だけだ。ここは混ぜちゃいけない。

「いつ執行されるのか」と自分から聞いた被告

2017年11月、京都地裁は筧千佐子に死刑判決を言い渡した。判決から間もない接見で、彼女は取材者に「死刑判決を受けたが、いつ頃執行されるのか」と自分から尋ねたという。死刑を前にした本人の態度として、この逸話は広く紹介されてきた。弁護側はすぐ控訴した。

控訴審の争点は二つ。一つは、男性らの死が病死だった可能性で、殺人そのものを争った。もう一つは、被告人が公判の段階で重い認知症になり訴訟能力を失っているという主張で、公判の停止や精神鑑定を求めたんだ。

大阪高裁は2019年5月24日、実質的な追加の審理をほとんどしないまま結審し、一審の死刑を支持して控訴を棄却した。審理はあっさり終わった。この進め方が異例の早さだったことは、法曹関係者からも指摘されている。

高裁の判断はこうだ。直近の事件があった2013年12月の時点では認知症の症状は認められず、完全な責任能力があったというもの。3人が青酸化合物を摂取させられて死亡したという一審の認定も、そのまま維持された。

最高裁まで持ち込まれた「裁判の意味がわからない」という訴え

弁護側は最高裁へ上告し、認知症が進んで、被告人は裁判を受けていること自体の意味を理解できないと訴えた。求めたのは、審理の差し戻し。結果は棄却。最高裁第三小法廷は2021年6月29日、上告に理由がないとして退け、一・二審の判決を認めた。

最高裁は一連の犯行を、計画的かつ巧妙に遂行されたものだと評価していて、この決定で死刑判決が確定した。京都地裁の一審判決から数えると、確定までおよそ3年7か月かかった計算だ。ここで刑が固まった。

執行を待たずに迎えた、拘置所での最期

確定後も、筧千佐子の側は再審請求の手続きを続けていた。2022年9月に大阪高裁へ再審を申し立て、これが棄却されたあとは、即時抗告の審理が続いているさなかのこと。その途中で、訃報が入った。

2024年12月26日の午前、大阪拘置所で筧千佐子の死亡が確認された。年齢は78歳。死刑が執行されるより先に、収容されていた拘置所の中で命が尽きたわけで、刑はとうとう執行されずに終わった。

確定したまま執行されずに亡くなった構図は、帝銀事件の平沢貞通など、過去の死刑確定者の例とも重なる。ただ、事件の性質も経緯もまるで違うので、同じ棚には並べられない。そこは線を引いておく。

彼女の死を受けて、大阪高裁は再審の審理を終わらせる決定をしたと報じられている。生前最後に取材者が接見したとき、死の気配は感じられず、むしろ生への強い執着が見えたという証言も報じられた。意外な話だ。

小説のタイトルが、現実の事件の名前になった

「後妻業」って言葉がある。もともとは作家・黒川博行の小説と、それを映画にした作品のタイトルとして知られていた言葉なんだよ。それが筧千佐子の事件が報じられるなかで、現実の事件を指す言葉として定着した。

結婚相談所というまっとうな仲介を入口に高齢の資産家男性へ近づき、婚姻や内縁の立場を得て、公正証書遺言で財産を移す。詐欺や強盗みたいな単純な手口とは違う。外から見れば合法な手続きを装って進んでいくところが、この手口の特徴なんだ。たちが悪い。

この事件をきっかけに、高齢者向けの結婚仲介サービスの使われ方について、法曹や福祉の関係者のあいだで議論が広がった。高齢者がひとりで公正証書遺言を作る場面で、どうチェックするのかという論点も出てきている。家族や周囲が高齢の親族の交際や結婚の変化に気づいたら、財産管理の状況を確かめておくべきだと説く報道も出た。もっともな話だ。

ただ、この事件を機に具体的な法改正があったと示す公的な資料は、確認できていない。ここは盛れない。あくまで世の中への注意喚起にとどまった、と受け止めておくのが、いまの資料から言える妥当な線だと思う。

「11人」「十数人」がひとり歩きしている

この事件はメディアやネットで何度も取り上げられ、ノンフィクション記事や特集番組の題材にもなってきた。そこでよく出てくるのが、「11人」とか「20年間で十数人」とかの数字だ。彼女が生涯に関係を持った男性の総数や、亡くなった人数として示されている。出どころは主に週刊誌と書籍。

どれも取材や推計に基づく報道で、刑事裁判が殺人と認めたのは3件、未遂は1件にとどまっている。なのに大きな数字だけがひとり歩きしがちなんだ。まるで司法が「十数人殺害」を認めたかのように語られる場面もあるけど、はっきり言ってそれは正確じゃない。取材で見えた推計と、有罪が確定した件数は別物だ。分けて考えよう。

法廷や接見での振る舞いも、繰り返し語られてきた。「死刑はいつ執行されるのか」と自分から聞いた話や、赤いセーター姿で快活に話していた様子なんかがそうだ。典型的な死刑確定者のイメージとの落差が、人物そのものへの関心を強める一因になった。ギャップが強すぎる。

こういう逸話の多くは、彼女に接見した特定の記者やノンフィクション作家の取材から出てきたものだ。事件の法的な評価とは、切り離して読んだほうがいい。印象と判決は別。

ネットの書き込みには、認知症を装っていたんじゃないかという見方も、本当に認知機能が落ちていたという見方も、両方ある。司法が確定させたのは、2013年12月の時点で完全な責任能力があった、という判断だけだ。それ以降の認知機能については、公的に確定した評価は出ていない。白黒はついていない。「本当は認知症だった」と言い切るのも、「演技に決まってる」と言い切るのも、どちらも未確認の推測だ。

亡くなった男性たちのこと

被害に遭った男性たちの私生活やなれそめを、面白おかしく書くつもりはない。いずれも近畿に住んでいた高齢の男性で、結婚相談所を通じて筧千佐子と出会い、交際や結婚、内縁の関係になった人たちだ。ここは事実だけ置く。

裁判では、男性らが青酸化合物を摂取したことで亡くなったり、一時重篤な状態に陥ったりした事実関係が認められている。資産の状況や家族関係の細かいところには、遺族のプライバシーを考えて踏み込まない。それで十分だと思う。

「安全なはずの仕組み」が入口になった

この事件の土台には、日本の高齢化と、ひとりで暮らす高齢者の増加という構造がある。そんななかで、正規の婚活や結婚仲介という「安全なはずの制度」が、財産を狙う犯罪の通り道に使われうると突きつけたんだ。なんとも皮肉な話。結婚相談所そのものは違法な商売じゃなく、多くの利用者にとって役に立つサービスだ。

引っかかるのは、見抜く仕組みのほうだ。身元確認や交際歴の照会では、交際や結婚、死別を何度も繰り返す利用者に気づけなかったのでは、という指摘がある。そこが穴だったかもしれない。

高齢の利用者本人だけでなく、家族や後見人が交際の変化にどう関わるべきか。この論点は事件のあと、高齢者の財産管理や成年後見制度についての議論で、たびたび引き合いに出されてきた。家族の側の話でもある。

認知症と責任能力、裁判所が引いた線

もう一つ残ったのが、司法の実務上の難しい問いだ。刑事裁判で責任能力を判断することと、老年医学で認知症を診断すること、この二つがどこで交わるのか。答えは簡単じゃない。この事件は、その問いを突きつけた例としても記憶されている。

高齢の被告人が公判の段階で認知機能の低下を訴えるケースは、この先も想定されている。裁判所がこの事件で採ったのは、特定の犯行時点で責任能力があったかを個別に判断する、という枠組みだった。これがのちの同じような事案で、参照点の一つになったという指摘がある。一つの物差しってわけだ。

ただ、これは筧千佐子の事件についての法的な評価にすぎない。ほかの高齢の被告人の事件に、そのまま自動的に当てはめられるものじゃない点は、頭に置いておいてほしい。そこは別の話だ。

確定から3年半、執行を待ち続けた日々

執行前に拘置所の中で亡くなったという結末は、この事件だけの論点を超えた問題も改めて見せつけた。日本の死刑制度で、執行までの期間が長くなっていくという構造の問題だ。確定から亡くなるまで、彼女は約3年半、執行を待つ身だった。その間に刑は執行されなかった。

この期間の長さをどう受け止めるかは、事件の良し悪しとは切り離された、死刑制度全体にかかわる論点になってくる。その当否について、この記事は立場を取らない。書けるのは経過だけだ。

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