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筧千佐子「後妻業の女」事件――資産家男性らが青酸化合物で命を落とした近畿連続不審死の全貌

2007年から2013年にかけて、近畿地方で高齢男性への殺人と殺人未遂が続いた。裁判で責任を問われたのは筧千佐子。結婚相談所などを通じて知り合った男性に青酸化合物を飲ませ、財産を得ようとしたとして、3件の殺人と1件の殺人未遂で有罪となった。

交際相手の死から捜査が広がった

捜査が大きく動いたきっかけは、2013年12月に交際相手の男性が亡くなったことだった。司法解剖で体内から青酸化合物の成分が見つかり、警察は筧の周辺で起きた過去の死亡事案も調べ始めた。

筧は結婚相談所を利用して複数の高齢男性と知り合い、交際、婚姻、内縁関係を重ねていた。相手が亡くなった後に財産を受け取れるよう、公正証書遺言が作られていた例もあった。2014年に逮捕され、その後、3人への殺人と1人への殺人未遂で起訴された。

週刊誌やテレビでは、筧と関係した男性の人数や、亡くなった人数をより大きく数える報道も出た。しかし、交際歴があったことと、殺人が裁判で認定されたことは同じではない。刑事裁判で有罪が確定した範囲は、死亡3件と未遂1件である。

認知症をめぐって争われた裁判

京都地方裁判所は2017年、筧に死刑を言い渡した。弁護側は、男性たちが病死した可能性や、筧の認知症が進み裁判を受ける能力がないことなどを主張した。大阪高等裁判所は2019年に控訴を退け、最高裁判所も2021年に上告を退けたため、死刑が確定した。

裁判所が判断したのは、少なくとも犯行当時には責任能力があり、青酸化合物を使った行為が認められるという点だった。公判中や確定後に認知機能がどの程度低下していたかについては、弁護側と検察側で見方が分かれた。ネットで見かける「すべて演技だった」「完全に判断できない状態だった」という断定は、どちらも確定した事実としては扱えない。

死刑確定後、再審請求が行われた。筧は2024年12月、大阪拘置所で死亡した。刑は執行されておらず、本人の死亡後、再審を求める手続も終了した。

「十数人」と「4件」を混ぜない

この事件は「後妻業」という強い言葉とともに広まった。複数の男性と関係を持ち、財産を受け取っていた経緯から、十数人を殺害したかのような見出しも作られた。だが、その人数は取材記事が交際歴や不審死をまとめたもので、司法が殺人と認定した件数ではない。

また、被害者を「資産家男性」とだけ呼ぶと、一人ひとりの生活や家族が見えにくくなる。被害者たちは、将来をともにする相手として筧を信頼し、交際や婚姻関係を結んでいた。財産の額や家族構成を興味本位で掘り下げることは、事件の理解に必要ではない。

結婚相談所の利用者全体や、再婚する高齢女性を疑いの目で見るのも違う。正規のサービスが事件の接点に使われたことは事実だが、この事件を理由に利用者を一括りにはできない。事件後に注意喚起や議論が広がった一方、特定の法改正へ直結したと確認できる資料はない。

確定判決と周辺報道の境界

確認できる中心は、3件の殺人と1件の殺人未遂で有罪が確定したこと、犯行時の責任能力が認められたこと、刑の執行前に拘置所で亡くなったことだ。それ以外の死亡事案や人物像は、報道で疑われたことと裁判で認定されたことを分ける必要がある。

「毒婦」や「後妻業の女」といった呼び方は目を引くが、女性加害者を特別な怪物として眺める方向へ話をずらしやすい。大切なのは呼び名ではなく、信頼関係を利用して命と財産を奪ったと裁判で認定された行為と、残された遺族の喪失である。

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