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「第2のスフィンクス」はギザの地下に眠るか――InSAR解析の主張と、エジプト考古学界の反論

ポッドキャストの生配信から、騒動は始まった

二〇二六年三月二十六日、アメリカのオカルト・古代文明系ポッドキャスト「マット・ビール リミットレス」に、ひとりのイタリア人研究者が出演した。

名前はフィリッポ・ビオンディ。自らを合成開口レーダー、いわゆるSARの専門家だと名乗る人物である。彼はこの日、生配信の場でギザ台地に関する新しい主張を初めて公にしたと伝えられている。

主張の骨格はこうだ。現存する大スフィンクスの位置から、ギザで最も高いカフラー王のピラミッドを経由して線を引く。それをクフ王の大ピラミッドを軸に、鏡のように反転させる。すると砂漠のある一点に行き着く。

その地点には、高さにしておよそ三十三メートル、周囲より不自然に盛り上がった砂丘が存在している。ビオンディは、そこにもう一体、現存のスフィンクスと完全な対称性をなす「第2のスフィンクス」が埋まっていると主張した。

さらに踏み込む。この砂丘の下には、垂直に伸びる立て坑と水平に走る通路のネットワークがあり、それが衛星レーダーによる地表の微細な振動解析――干渉SAR、いわゆるInSAR――によって検出されたのだという。自らの確信度についてはこう語った。幾何学的な相関は百パーセント、第2のスフィンクスが実在する確信は約八十パーセントだ。

この発言はポッドキャストの枠を超えてまたたく間に拡散した。後に英デイリー・メール紙などの大手メディアが後追いで報じ、X上の関連投稿は合計で一千万回以上閲覧される騒動に発展したと伝えられている。

根拠にされた「夢の碑文」という石碑

ビオンディにとって、これは初めての「大発見」ではなかった。前年の二〇二五年にも、大ピラミッド地下に巨大な未知の構造物が眠っているとする主張を発表し、当時から一部の考古学界・地球物理学界の研究者から強い批判を受けていた人物である。今回の説は、その延長線上にある。

彼が根拠として繰り返し提示したのが、現存の大スフィンクスの前脚の間に立つ「夢の碑文」、ドリーム・ステラと呼ばれる石碑だ。

紀元前一四〇〇年頃、ファラオのトトメス四世が建立したと伝えられるこの碑文には、背中合わせに座る二体の獣、あるいはスフィンクス状の図像が刻まれている。ビオンディはこれを単なる意匠や象徴ではなく、実際にギザの地に存在した二体の像の配置を記録した見取り図であると解釈し、自説の中核に据えた。

「掘ってもいないのに発見とは何だ」

だが発表からほどなくして、専門家からの批判が噴出し始める。

エジプトで長年、遺跡保護行政のトップを務めてきたザヒ・ハワス元古代遺産相は、極めて厳しい言葉を投げかけたと複数の海外メディアが伝えている。ギザ台地は何十年にもわたって多くの考古学者によって徹底的に調査され、発掘され尽くしている。そこにそのような記念碑が存在するという証拠は一切得られていない。

ハワスはさらに、地下の柱や神殿についての噂は、古代エジプト文明やピラミッドの歴史について専門知識を持たない者による捏造に過ぎない、とまで言い切ったと報じられている。

地球物理学の専門家からは、より技術的な角度の疑問も出た。InSARのような遠隔探査技術は、地表のわずかな変動やレーダー波の反射の違いを検出することはできる。しかし、それが人工的な構造物によるものなのか、単なる地質層の不均一性や砂丘の自然な堆積によるノイズなのかを区別することは極めて難しい。実際に地面を掘って確かめる発掘調査を経なければ、学術的な発見として認められることはない、という指摘である。

ビオンディの主張は、査読を経た学術論文としてはまだ発表されていない。エジプト政府から発掘許可が下りたという事実も確認されていない。

十年以上前にも、同じことを言った人がいた

もうひとつ押さえておきたいのが、この着想自体はビオンディが最初ではないという点だ。

エジプト学者バッサム・エル・シャマー氏は十年以上前、かつて二体目のスフィンクスが存在したが落雷などによって破壊されたのではないか、とする説を提唱していた。当時のエジプト文化財当局からは取り合われることなく一蹴されたと伝えられている。

批判者たちは、ギザの地下にはすでに複数のシャフトや小部屋、通路の存在が学術的に確認されていることを踏まえ、こうした既知の空間をあたかも新発見であるかのように描き出す手法そのものに危うさがあると重ねて指摘している。

九十年前の予言者が、この土地に物語を植えた

「第2のスフィンクス」説が一過性のニュースとして消費されずに繰り返し話題を呼ぶ背景には、ギザの地下をめぐるはるかに古いオカルト伝説がある。

その源流としてほぼ必ず言及されるのが、二十世紀前半のアメリカで活動した「眠れる予言者」エドガー・ケイシーだ。ケイシーは催眠状態に入って口述する「リーディング」という手法で、数千件もの予言や霊視記録を残した人物である。

一九三〇年代のリーディングの中で、彼はこう語ったと伝えられている。太古の失われた大陸アトランティスの民が、文明の崩壊を予見してナイル川流域へと移住し、自分たちの知識をスフィンクスの足元に隠した。

この「記録の殿堂(ホール・オブ・レコーズ)」には、アトランティス文明の歴史・科学・哲学の記録に加え、空飛ぶ船に類するものまでもが納められているとケイシーは述べたとされる。この予言は今日に至るまで、オカルト考古学愛好者の間で語り継がれてきた。

ケイシーを敬愛する層のブログやnote記事では、さらに話が広がる。アトランティス人が重力を操る未知の技術でピラミッドの巨石を運んだとする解釈や、ピラミッド建設の時期を通説よりはるかに古い紀元前一万年以上に遡らせる解釈まで紹介されている。こうした言説が二十一世紀の考古学的主張と地続きで語られ続けているところが、なかなか面白い。

この系譜には、一九九〇年代に早稲田大学の調査チームがアメリカの研究者と共同で行った地中レーダー探査によって、スフィンクス周辺の地下に空洞らしき反応が検出されたとする報告も接続されることがある。

加えて近年では、オカルト系メディアを中心に、一九五〇年代のCIA文書に「スフィンクスの下の神殿」を示唆する記述が含まれていた、とする主張も流布している。この種の言説は、二〇二六年五月に米国政府がUFO関連の機密文書の一部を公開したという実際の出来事と絡めて語られることがあり、政府の情報公開という現実とオカルト伝説が結び付くことで、ネット上での拡散力をさらに増幅させている面がある。

ただし文書の真正性そのものについては第三者による検証がなく、あくまでオカルト系メディアの報道の域を出ないものだとされる。

鏡像都市説、迷宮説、そして辛辣な疑似科学批判

ネット上の考察系記事やSNSを横断すると、この説にもいくつかの派生的な語られ方があることが分かる。

最も直接的なのは、ビオンディの主張をそのまま延長し、ギザ台地全体が現存する構造物と対をなす鏡像都市として設計されていたのではないかとする見方だ。この立場を取る愛好者は、三大ピラミッドの配置にオリオン座の三ツ星との対応関係を見出す、いわゆるオリオン相関説とも結び付けて語ることが多い。

より学術的な文脈に近いところでは、古代ギリシアの歴史家ヘロドトスがエジプトで見たと記した広大な「迷宮」の伝承を引き合いに出し、ギザ台地の地下に未発見の通路網が広がっている可能性そのものは荒唐無稽とまでは言えない、とする穏健な見方も存在する。

他方で懐疑派は容赦がない。そもそも夢の碑文の図像を字義通りの設計図として読むこと自体が古典学的に無理があるという指摘。そしてInSARという最先端技術の専門用語が一般読者には検証不可能であることを利用した、疑似科学的な権威付けに過ぎないのではないかとする、より辛辣な評価も根強く存在する。

見出しが独り歩きした過程を、記者が追いかけた

Newsweek誌の日本版が二〇二六年三月に行ったファクトチェック記事は、ネット上でこの説がどう広まったかを跡付けている。

記事によれば、発端となったポッドキャストでの発言そのものは限られた視聴者にしか届いていなかった。ところが英国の大衆紙が「衛星が第2のスフィンクスを検出」という刺激的な見出しで後追い報道したことをきっかけに、X上で爆発的に拡散したという。

この過程を検証した記者は、一次情報であるビオンディ氏の主張と、それを報じた二次・三次のメディアの見出しとの間には、確信度や検証段階についての重要なニュアンスの落差があった、と指摘している。

日本のオカルト系ニュースサイトの一つは、この説を報じた記事の中で「完全な対称性を発見」という強い調子の見出しを掲げつつ、記事の後半ではハワス氏らの否定的な見解も併記している。刺激的な見出しと慎重な内容が同居する構成だ。

オカルト考古学に詳しいという匿名のブロガーは、自身のnote記事で率直な感想を綴っている。エドガー・ケイシーの予言から九十年以上が経って、ようやく科学がそこに追いついたのだと信じたい気持ちはよく分かる。ただ、InSARのデータそのものを一般人が検証する手立てがない以上、今の段階では信じるか信じないかの話にしかならない。

一方、考古学を専攻していたという別の書き手は、はっきり懐疑的な立場を表明した。ギザほど徹底的に調査され尽くした遺跡はない。もし本当に三十三メートル級の砂丘の下に巨大構造物があるなら、これまでの重力測定や地中レーダー調査で何らかの兆候が出ていておかしくない。それが出ていないという事実の方が、私にとってはよほど雄弁だ。

「またこのパターンか」と言う古参たち

日本語圏のオカルトまとめサイトやYouTubeの都市伝説系チャンネルでは、この説は「ピラミッドに続く世紀の大発見」といった煽り気味のタイトルで紹介されることが多い。

コメント欄には興奮した反応が並ぶ。ケイシーの予言がついに証明されるのか。これが本当ならエジプト考古学の常識がひっくり返る。

一方で、過去に同種の大発見報道が何度も出ては立ち消えになってきた経緯を知る古参のオカルトファンからは、冷めた声も根強い。またこのパターンか。発掘して実際に石が出てくるまでは話半分に聞いておくべき。

海外の考古学系フォーラムや古代史系メディアのコメント欄でも同じだ。ロマンを求める層と学術的厳密性を求める層とがはっきり分かれて議論を交わしている。この手のリモートセンシングを用いた新発見報道そのものが持つ、熱狂と冷笑の同居。それが毎年のように繰り返される、一種のお決まりの現象になっている。

現地には、今も観光客が立てる

議論の舞台となっているエジプト・ギザ台地には、クフ王の大ピラミッド、カフラー王のピラミッド、メンカウラー王のピラミッドという三大ピラミッドと、現存する大スフィンクスが今も並び立っている。

大スフィンクスの前脚の間には、実際に夢の碑文ことドリーム・ステラが現存しており、観光客も間近で見ることができる。

エドガー・ケイシー由来のホール・オブ・レコーズ伝説は、スフィンクスの右前脚付近の地下を有力な候補地とする語りが多く、この一帯は長年にわたって考古学者や自称探求者たちの注目を集め続けてきた。ケイシー自身の資料や関連文献は、アメリカ・バージニア州ヴァージニアビーチにあるケイシー財団に保管されており、こちらもオカルト愛好者の間では一種の聖地として知られている。

現時点で第2のスフィンクスは、あくまでリモートセンシングデータの一解釈だ。考古学の世界では、新発見の主張は査読付き論文と実際の発掘調査を経て初めて学術的に確定する。SNSでの拡散速度と学術的検証の進行速度の乖離が、この種の話題を毎年のように生み出す背景になっている。ビオンディのチームは今後も調査を継続する方針を示しており、決定的な反証が出ない限り、ギザの砂の下をめぐる議論はまだ終わらない。

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