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方位除けと八方塞がり、九星気学の吉凶方位と引っ越しの選び方

「今年は八方塞がりだから引っ越しをやめた」「吉方位旅行に行ったら運気が上がった」。こうした言葉を一度は耳にしたことがある人は多いだろう。方位そのものに吉凶があるという発想は、九星気学という占術体系を背景にしている。現代日本人の引っ越しや旅行の意思決定にも、今なお強い影響を与え続けている。

本稿では方位除け・八方塞がりという慣習の起源を掘り下げる。実際に神社で祈祷を受ける方法、引っ越しや旅行における方位の選び方も扱う。さらに自宅でできる簡易な方位除けの作法までを、可能な限り具体的に見ていく。

方位除けとは何か――九星気学が説く「方位の吉凶」の起源

方位に吉凶があるという発想の源流をたどってみる。古代中国の陰陽五行思想と、そこから派生した風水・易学の体系に行き着く。天体の運行と地上の方角を対応させる。そして洛書と呼ばれる魔方陣状の図式に基づき、九つの星を各方位に配置する。九つの星とは一白水星・二黒土星・三碧木星・四緑木星・五黄土星・六白金星・七赤金星・八白土星・九紫火星である。

その年・その月ごとに星の巡りが移動する。それによって方位の吉凶が変化する。この考え方が九星気学の骨格というわけだ。この体系は奈良・平安期に陰陽道とともに日本に伝来する。貴族社会における「方違え(かたたがえ)」という風習として結実した。

方違えとは、平安貴族が実際に日常的に行っていた回避行動である。外出しようとする方角が、その日の干支や暦の上で凶方位にあたる場合に用いた。いったん別の方角にある家に一泊してから、目的地に向かうのだ。『枕草子』や『源氏物語』にもその様子が具体的に描写されている。

明治から大正期にかけて、園田真次郎という人物が中国由来の気学・易学の理論を整理・体系化する。これが現代私たちが「九星気学」と呼ぶ体系そのものである。

一般に広めたことで確立したとされる。園田は古代中国の方術と日本の暦学、陰陽道の知識を統合する。生年月日から「本命星」と「月命星」という二つの星を算出することだ。個人ごとの運勢と吉凶方位を割り出す実践的な占術として気学を再構築した。戦後の高度経済成長期以降、住宅事情の変化や引っ越しの増加があった。

この体系はそれとあいまって「家相・方位除け」という形で、一般家庭にまで浸透する。

今日のような方位除け祈祷や吉方位旅行のブームにつながっている。

八方塞がりとは――本命星が中宮に入る年の意味

八方塞がりとは、九星気学において自分の本命星が「中宮」と呼ばれる盤の中央に位置する年を指す。九星気学の方位盤は九つのマスに分かれている。通常は自分の本命星が、盤上のいずれかの方位に配置される。しかし九年に一度、その星が盤の中央に入る年が巡ってくる。中央とはどの方位にも属さない場所である。

この年は「どの方角に向かっても吉方位が存在しない」状態になるとされる。

これが「八方すべてが塞がっている」という意味で「八方塞がり」と呼ばれる所以というわけだ。八方塞がりの年は、慎重になるべき年とされる。新築・引っ越し・開業・結婚といった人生の大きな決断がその対象だ。遠方への移動を伴う行動全般も対象になる。九星気学を実践する人々の間では厄年と並んで、あるいはそれ以上に警戒される年回りとして扱われている。

凶方位の種類――五黄殺・暗剣殺・歳破という専門用語

方位除けの実践を理解するうえで欠かせないのが、凶方位の種類である。中でも最も強い凶意を持つとされるのが「五黄殺」で、これはその年の五黄土星が位置する方位を指す。五黄土星は「万物を腐敗・破壊させる」という強い凶意を持つ星とされる。その方位に向かって行動を起こすと、健康・仕事・人間関係などあらゆる面で災いを招くとされる。

五黄殺の正反対に位置する方位は「暗剣殺」と呼ばれ、これもまた五黄殺に匹敵する強い凶方位とされる。暗剣殺は「見えないところから刃物で突然斬りつけられるような災難」を象徴するとされる。突発的な事故やトラブルを招く方位として恐れられてきた。

このほかにも、九星気学には数多くの凶方位の分類が存在する。その年の干支と正反対の方角にあたる「歳破」がある。自分の本命星と同じ星が同じ年に重なる「本命殺」、その正反対にあたる「本命的殺」もある。これらが複合的に重なる方位ほど強く忌避される。

方位除け祈祷の受け方――寒川神社を中心とした実践ガイド

方位除けの祈祷を専門に執り行う神社として、全国的に最も名高いのが寒川神社というわけだ。神奈川県高座郡寒川町に鎮座する相模国一之宮である。寒川神社は「全国唯一の八方除の守護神」を祀る神社として知られる。地相・家相・方位・日柄など、あらゆる方角に由来する災いを取り除くのが「八方除」の祈願だ。この祈願で年間を通じて多くの参拝者を集めている。

社伝によれば、寒川神社の八方除信仰は古い。源頼義・義家父子が奥州征伐の折に、方位の障りを除く祈願をしたという伝承がある。暦学・陰陽道に精通した社家の伝統にも由来するとされる。江戸時代にはすでに「方位の悩みは寒川神社へ」という信仰が関東一円に広まっていたと伝わる。方位除け祈祷を受ける際の一般的な流れは、厄除け祈祷とほぼ共通している。

社務所や祈祷受付で申込用紙に氏名・住所・生年月日を記入する。初穂料(相場は5000円から1万円程度)を納める。その後、祈祷殿にて神職による祝詞奏上が行われる。参拝者の氏名・生年月日・現住所が読み上げられる。これから向かう新居や旅行先の方角も読み上げられる。

その方位に由来する災いを祓い清める祈願がなされる。玉串奉奠を行った後、御札やお守りを授与されて終了となる。

方位除けの祈祷は、正月から立春までの期間に受けるのが最も望ましいとされる。これは九星気学における「年」の区切りが、暦の上の1月1日ではない。二十四節気の立春を境に切り替わるという考え方に基づいている。立春を過ぎてから前年の星回りに基づいた祈祷を受けても効果が薄いとされるためである。八方塞がりの年についても同様に、立春までに祈祷を済ませておくのが実践者の間での共通認識となっている。

引っ越し・旅行時の方位の選び方――吉方位への「移動」という実践

九星気学の実践において最も具体的な行動指針となるのが、引っ越しや旅行の際にどの方角を選ぶかという判断である。まず自分の生年月日から本命星と月命星を算出し、その年・その月に自分にとって吉方位となる方角を割り出す。吉方位には「生気」「天道」「月命」など複数の種類があり、それぞれ効果の強さや持続期間が異なるとされる。

実践者の間で広く行われているのが「吉方位旅行」である。自宅から見て吉方位にあたる場所へ実際に足を運び、一定期間その土地に滞在することで運気を上昇させる実践法だ。目安として、自宅からの距離がおおむね100キロメートル以上離れていることが条件として語られることが多い。宿泊を伴うことも条件とされ、最低でも一泊、可能であれば連泊するほど効果が高いとされる。

引っ越しの場合は、旧居から新居への方角が吉方位であるかどうかが重視される。やむを得ず凶方位への引っ越しとなる場合もある。後述する「方違え」や祈祷による方位除けで対処するのが伝統的な作法とされる。八方塞がりの年に引っ越しをせざるを得ない場合もある。そのときは一度別の場所、つまり吉方位にあたる場所に仮住まいをしてから、改めて目的の新居に移る。

この古くからの方違えの応用が、実践者の間では今も語り継がれている。

また旅行についても、五黄殺や暗剣殺にあたる方角への渡航をどうしても避けられない場合がある。そのときは事前に神社で方位除けの祈祷を受ける対処法が実践されている。出発前に盛り塩や粗塩を使った簡易な浄化を行うという対処法もある。

自分でできる方位除けの作法――盛り塩・お札・自宅での対策

神社での正式な祈祷を受けずとも、自宅で日常的にできる方位除けの作法も数多く伝わっている。最も広く実践されているのが「盛り塩」である。玄関や鬼門(北東)・裏鬼門(南西)にあたる場所に、小皿に盛った粗塩を置く。定期的に交換することで、邪気や凶方位の影響を和らげるとされる。盛り塩は毎日、あるいは最低でも月に数回は新しい塩に取り替えるのが望ましいとされる。

使用済みの塩は水に流すか、庭にまくといった形で処分するのが一般的な作法というわけだ。凶方位に該当する方角へ、どうしても外出・移動しなければならない場合もある。簡易な対処法として、事前に「お伊勢参りの砂」や神社で授与された方位除けのお札を懐に入れて出発する。方位除けの祈祷を受けた御守りを常に携帯するという実践も広く行われている。

自宅内の対策は、家相の知恵とも結びついている。鬼門・裏鬼門にあたる部屋に、水回り(トイレ・浴室・キッチン)を配置しないという知恵だ。すでに水回りがその方角にある場合は、鏡や観葉植物、盛り塩を組み合わせる。そうして「気の乱れ」を中和する工夫が、実践者の間で語り継がれている。

派生・別バージョン――奇門遁甲、風水、四柱推命との違い

方位に関する占術は九星気学だけではない。中国古来の兵法や戦略に用いられたとされる「奇門遁甲」は、九星気学よりもさらに複雑な盤の構成を持つ。時刻・方位・干支を組み合わせて吉凶を判断する高度な占術体系である。一部の熱心な実践者やプロの占術家の間で、今も研究され続けている。また「風水」は方位そのものよりも土地の地形や気の流れ、建物の間取りを重視する体系である。

九星気学の方位判断と組み合わせて用いられることも多い。四柱推命は、生年月日から個人の運命そのものを読み解く占術である。方位の吉凶を直接扱うものではない。それでも九星気学と併用して、総合的な運勢判断を行う占い師も少なくない。これらの体系はしばしば混同されがちだ。

ただ、九星気学は「毎年・毎月変化する方位の吉净」を扱う。これに対し風水は「固定された土地・建物の気の流れ」を扱う。この点で、実践上の役割が明確に異なる。

体験談・目撃談

ある会社員男性は、転勤に伴う引っ越し先が自分の五黄殺の方角にあたっていることを九星気学に詳しい知人に指摘される。慌てて近隣の神社で方位除けの祈祷を受けたという。祈祷後、引っ越し自体は無事に済んだ。しかし新居に入居して数ヶ月後に体調を崩した。原因不明のめまいに悩まされる時期が続いた。

本人はこれを「祈祷を受けていなかったらもっとひどかったはずだ」と捉えたのだ。以後も年に一度は方位除けの祈祷を欠かさず受けるようになったと語っている。別の女性は、長年の夢だった独立開業にあたる。事務所の場所を選ぶ際に、九星気学の吉方位を徹底的に調べた。自宅から見て吉方位にあたるエリアを、あえて選んで契約したという。

開業後の業績は順調だった。本人は、方位を意識したことが直接の成功要因かはわからないという。それでも「気持ちの面で迷いなく前に進めたのは大きかった」と振り返っている。こうした「方位を意識したことで精神的な安心感を得られた」という体験談がある。方位除けや吉方位旅行の実践者のブログやSNS投稿に、極めて多く見られる傾向というわけだ。

方位除けという慣習が単なる迷信としてではない。意思決定における心理的な支えとして機能している側面がうかがえる。また、八方塞がりの年に大きなトラブルが重なったという体験談も少なくない。ある投稿者は八方塞がりの年に転職と離婚が同時に重なる。「あとから九星気学を調べて自分がその年八方塞がりだったと知り、鳥肌が立った」と書き込んでいる。

これに対しては「後から知って結びつけているだけではないか」という懐疑的な反応が寄せられている。「実際に苦しい年だったのは事実だから侮れない」という肯定的な反応も寄せられている。体験の解釈をめぐる議論が今なお続いている。

掲示板・SNS・考察界隈の反応

5ちゃんねるの占い板やオカルト板では、九星気学や方位除けに関するスレッドが定期的に立てられる。「五黄殺に引っ越して人生が狂った」といった具体的な体験報告が投稿され続けている。「暗剣殺の方角に旅行に行ったら財布を無くした」という報告もある。

一方で「方位の吉凶は統計的根拠が皆無で、単なる自己成就予言にすぎない」という懐疑的な意見も根強い。両者の議論は平行線をたどりながらも、長年にわたってスレッドを賑わせ続けている。SNS上では、正月から立春にかけて活発になるハッシュタグがある。「方位除け」「八方塞がり」「吉方位旅行」といったものが例年用いられる。

寒川神社をはじめとする方位除けの神社への参拝報告が数多く見られる。九星気学の年盤を用いた自己流の方位診断を共有する投稿も多い。毎年立春前後に「来年の吉方位・凶方位一覧」を解説する動画がある。占術系のYouTubeチャンネルで定期的に公開されている。コメント欄には自分の本命星や引っ越し予定地について具体的な相談を書き込む視聴者が絶えない。

九星気学や方位除けという慣習は、現代の日本社会においても意思決定の一つの参照軸として根強く機能し続けている。こうした活況が、そのことを物語っている。

実在の神社・流派の背景情報

方位除け・八方除けの総本山的な存在として最も知られるのが、前述の寒川神社である。相模国一之宮としての格式に加える。全国唯一の八方除の守護神を祀る神社という、独自の立ち位置がある。関東圏はもとより全国から、方位に関する悩みを抱えた参拝者が訪れる。このほか、厄除けと方位除けを併せて祈願できる寺社も各地に存在する。

千葉県の千葉厄除け不動尊や、埼玉県の西新井大師系列の寺院などだ。

それぞれが地域に根ざした独自の由緒と信仰を今に伝えている。九星気学そのものの実践・研究は、明治・大正期に園田真次郎が体系化した。それ以降、複数の流派や気学会・易学院が全国各地に設立される。占術家の養成や年盤・月盤の頒布を通じて今日まで理論と実践の双方が継承されてきた。これらの流派は互いに解釈の細部を異にしながらも、洛書に基づく九星の巡りという骨格そのものは共通している。

この共通基盤こそが方位除けという慣習を百年以上にわたって支え続けている土台となっている。

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