寒川神社で大式の祈祷を受けると、授与品の包みに同じ形の札が九枚入ってくる。家の真ん中と八つの方角に一枚ずつ祀るための八方札だ。受けに行く年の決め方から、受付での書き方、札を貼る位置、一年後の返し方まで、順番に追っていく。
相模の一之宮が八方除を名乗るわけ
神奈川県高座郡寒川町の寒川神社は、寒川比古命と寒川比女命の二柱を寒川大明神として祀る。延喜式の神名帳では相模国でただ一社の名神大社に数えられ、国司が最初に参る一之宮でもあった。社殿は江戸から見て南西、裏鬼門の方角に当たる位置にある。関八州の守護と裏鬼門の護りの社として崇められてきた、と神社は説明していた。
神社の案内にある言葉はこうだった。地相、家相、方位、日柄などに起因する禍事や災難を取り除き、家業繁栄と福徳円満をもたらす。大難は小難に、小難は無難に、吉事は最大に。これが全国唯一の八方除の御神徳だという。
面白いのは、神社が方位の吉凶を鑑定しないと明言していること。よくある質問の欄には、吉方ならより良い気を呼び込み、凶方なら大難を小難に過ごせるよう祈る、と書いてあった。自分の方角が良いか悪いかを調べてから行く必要はない。気が楽だ。八方をまとめて祓ってもらう、それが寒川の祈祷の組み立てだ。
数え年を九で割って一余る年が八方塞がり
神社や寺で言う八方塞がりは、九星の巡りを下敷きにしている。生まれ年の星、本命星が、その年の方位盤の真ん中に入る年のこと。九つの星が一年ずつずれて回るので、九年に一度は必ず巡ってくる。誰にでも来る。
生まれた年は、自分の星がちょうど真ん中にいる年だった。だから数え年の一歳から九ずつ足した年齢が八方塞がりになる。数え年を九で割って一余る年、と覚えておくと早い。
京都の車折神社が出している令和八年の厄年表を見てみた。八方塞がりは男女共通で、数えの十、十九、二十八、三十七、四十六、五十五、六十四、七十三、八十二歳。神社はここで言う方位を、実際の方角ではなく一人一人が持つ年齢ごとの星回りだと説明している。
数え年は、満年齢にその年の誕生日がまだ来ていなければ二を、来ていれば一を足す。九星の年の切り替わりは元日ではなく立春で、一月一日から節分までに生まれた人は前の年の星になる。ここで数え間違える人が多い。
年齢の並びは毎年変わらない。本命星も年の星も一年に一つずつ動くので、数えの十九歳は何年生まれであっても八方塞がりに当たる。去年の早見表を見ても答えは同じ。
数えの十九と三十七は、女性の本厄とも重なる年だった。車折神社の表でも、同じ年齢の欄に本厄と八方塞がりが並んで載っていた。厄除けと八方除けを一度に頼む人がいるのは、このためだ。二重の年回り。
本命星を自分で出したいなら、生まれた西暦の各桁を一桁になるまで足し、十一から引く。十を超えたら九を引けばいい。一九八五年生まれなら一と九と八と五で二十三、さらに二と三で五。十一から五を引いて六、六白金星になる。
二〇二六年は同じ計算で一白水星の年だった。一白生まれの人が、ちょうど八方塞がりに当たる。二〇二七年は九紫火星の年で、九紫生まれの人の番になる。
立春の前後に受けに行く日を決める
寒川神社の祈祷に受ける時期の決まりはない。いつでもいい。とはいえ八方塞がりの年の人なら、九星の年が切り替わる立春の前後に受けに行く人が多い。節分の日には節分祭があって、境内はとにかく混む。
引っ越しや新築、増改築なら、日取りが決まった段階で受けに行けばいい。神社の案内でも、旅行や引っ越し、人生の節目に受けるものとして八方除を挙げていた。工事の前に受けて、授かった札を新居で祀るという順番がきれいだ。
予約はない。前もって電話で枠を押さえておく、ということもできない仕組みになっていて、正月も平日も着いた順に受け付けていた。当日に祈祷受付で申し込む形で、受付は朝八時から夕方五時まで、年中無休。正月の期間は特別の体制になり、始まる時間が早まるそうだ。
混み具合は日によって大きく違う。週末の十時ごろに着いたら百人ほどが待っていて、一時間半から二時間かかったという参拝記もあった。平日の朝一番なら、ずっと早く済む。
電車なら相模線の宮山駅から歩いて五分ほどで、車なら寒川のインターを降りて数分で着く距離だった。境内の門は朝六時に開いて日没に閉まる。授与所は八時から四時半までなので、御守りを別に受けたいなら祈祷の後の時間を残しておく。
祈祷受付で申込用紙を書き初穂料を納める
持っていく物は少ない。初穂料の現金、祈祷を受ける本人の住所と生年月日が分かる控え、それに願い事を一つか二つ。引っ越し先が決まっているなら、新しい住所も書き出しておくと迷わない。
申込用紙には住所、氏名、生年月日、願い事を書く。字は楷書で。願い事は二つ程度にまとめて相談してほしい、と神社は案内していた。内容によっては一つだけになる場合もある。
連名での申し込みはできない。ここは厳格。夫婦や家族で受けるなら、一人一枚ずつ用紙を書いて、それぞれ初穂料を納める。ここを知らずに一枚で済ませようとする人が案外いる。
子どもの分も一枚ずつ。受付で書き直すと待ち時間が延びるので、家族の生年月日は前の晩のうちに紙へ書き出しておいた方が楽だ。
初穂料をのし袋に入れるなら、紅白の蝶結びを選ぶ。表書きの上段に御初穂料、下段に祈祷を受ける人の名前。中袋があれば表に金額、裏に住所と名前を書いておく。窓口でそのまま現金を渡す人も多いので、袋は必須ではないらしい。
服装の決まりは寒川の案内には見当たらなかった。京都の城南宮は、本来なら男性はスーツにネクタイが望ましく、半袖の肌着のような服や短パン、サンダルは避けてと答えている。寒川で受けるときも、襟のある服くらいにしておけば困らない。
中式か大式か、授かる物で式階を選ぶ
初穂料は式階で決まる。五段ある。中式が三千円以上、大式が五千円以上、当座式が一万円以上。その上に一代式の三万円以上、永代式の五万円以上がある。
どの式階にも、神社の名が入った札と守り、それに持ち帰って使う土や箸まで、ひと通りの品がそろって入っていた。中身は記名板剣神札、御守、御神土、御箸、御神供、御神酒の六つ。大式から八方札が九体つく。当座式からは御幣束と八方除門札が加わり、永代式にはさらに撤饌がついた。
選び方は単純。家の八方に札を祀りたいかどうかで決まる。八方札が欲しいなら大式以上。玄関に門札も掛けたいなら当座式以上。
額が上がるほど効くという話ではない。授かる物が増えると思っておけばいい。初穂料は誠意の表れで、高いほど良いわけではないと書いている参拝記もあった。
手水と拝礼を済ませてから控室で待つ
受付の前に本殿へお参りしておく。順番はこう。三の鳥居をくぐり、神池の太鼓橋を渡ると神門が見えてくる。その手前に手水舎がある。
手水の順番は神社の案内に五段で書いてあった。柄杓一杯の水で最後までやり通すつもりで、少しずつ使っていくのがこつらしい。軽く一礼して右手で柄杓を取り、左手を洗う。持ち替えて右手を洗い、もう一度右手に持って左の手のひらに水を受け、口をすすぐ。もう一度左手を洗い、最後に柄杓を立てて柄に水を流す。
神門をくぐったら拝殿の前へ。賽銭は投げずに静かに入れる。九十度になるくらい深く二回礼をして、ゆっくり大きく二回手を打つ。願い事を込めて祈り、最後に深く一礼して下がる。
拝礼を済ませたら祈祷受付へ回り、用紙と初穂料を出す。名前が呼ばれるまでは地下の控室で待つ形で、ベンチのような椅子に座れるので、膝の悪い人でも楽だったという参拝記があった。
待っている間に、授かる札の祀り場所を家族で決めておくと、帰ってから慌てずに済む。
昇殿して名前と住所を読み上げてもらう
呼ばれたら拝殿に上がる。平成九年に建った総桧造りの社殿で、拝殿には二百十六人が一度に座れる。何人もの祈願者を一緒に祈祷する形だ。一人ずつではない。自分だけのために神職が出てくる形を想像していると、最初は少し面食らうかもしれない。
修祓では神職が大麻を左右に振って祓うので、頭を下げて受ける。そのあと、神職が祝詞を奏上し、祈願者全員の住所と名前を読み上げて神前に取り次いでくれる。自分の名前が読まれたら、軽く頭を下げておけばいい。参拝者が声を出す場面はない。
祈祷が済んだら授与品を受け取って終わり。案外あっけない。祈祷のあとには神嶽山神苑の入苑券ももらえた。本殿の真裏、難波の小池を囲む庭で、神社の起こりに関わる泉がある。時間があれば寄っていくといい。
九枚の八方札を家の中心と八方に祀る
家に帰ったら包みを開いて中身を確かめる。九枚が揃っているか、破れや折れがないかを見てから、説明書きを最後まで読んでおくと手順を取り違えずに済む。八方札には祀り方の説明書きが添えられていて、受けた人たちの紹介によると、家の中央と八方に祀るよう書かれているそうだ。真ん中に一枚、そこから北、北東、東、南東、南、南西、西、北西へ一枚ずつ。
家の中心は間取り図から出す。ここが肝心。四角い家なら対角線の交わる点でいい。凹凸のある家は、厚紙に間取りを写して切り抜き、鉛筆の先に乗せて釣り合う点を探すと早い。
方角は方位磁石で測り、間取り図に八方の線を書き込む。スマホの方位計でも足りる。そのうえで、線が壁に当たる所に札の位置を決める。九枚の位置を図に残しておけば、翌年の貼り替えで迷わない。
札は目線より高い所へ。これは外せない。画鋲で札そのものを刺すのは避けて、裏に白い紙を当ててから両面テープで留める人が多い。湿気のこもる所と直射日光の当たる所は外す。
九枚を家じゅうに貼れない家もある。正直、賃貸だとそこが悩みどころ。そういう家では、神棚や清潔で高い棚の上に九枚をまとめ、南か東を向けて祀ったという人が多かった。
記名板剣神札を神棚か南向きの高い棚へ
記名板剣神札は祈祷を受けた人の名前が入る札だ。神棚があれば中に納める。神社本庁の案内では、三社造りの神棚なら中央に神宮大麻、向かって右に氏神さまの札、左に崇敬する神社の札を納める。寒川の札はたいてい左の崇敬神社の位置に入る。
一社造りの神棚なら、札を重ねて納める。順番がある。手前から神宮大麻、氏神さま、崇敬神社の順。寒川の札は一番奥になる。
神棚がないなら、目線より上の清潔な棚に、南か東を向けて立てる。板剣の形なので、札立てを使うと倒れにくい。家族が出入りのたびに頭の上を通るような位置は避ける。
御神土を敷地の四隅と玄関に撒く
御神土は、寒川大明神の鎮まる神域の土。量はひと袋。敷地の四隅や入口、玄関などに撒いて清めるよう説明がついてくる。一戸建てなら敷地の角にひとつまみずつ、玄関の両脇にも少し。量は気にしなくていい。
撒く順番に決まりは書かれていない。鬼門の北東から時計回りに四隅を回り、最後に玄関へ、という順にする人もいる。袋の土は一度に使い切らなくてもいい。
マンションで撒く場所がない家は、ベランダの鉢植えに混ぜる人が多い。方違神社の御砂の案内でも、マンションなら玄関やベランダに撒くよう書かれていたので、考え方は近い。玄関の内側に小皿で置く人もいた。
ちなみに、撒いたところへさらに盛り塩を足す人もいる。寒川の添え書きにそういう指示は見当たらないので、やるなら自分の気の済む範囲で。
御箸、御神供、御神酒は神さまからのお下がり。家族で分けていただく。八方除門札は当座式以上の授与品で、玄関の内側か、屋根のかかる門口に掛ける。雨ざらしにすると傷むので、外に出しっぱなしにしない。
札の前で朝に略拝詞を唱える
札を祀ったら、毎朝その前で手を合わせる。一分で済む。水や米を毎日供える決まりは、寒川の案内には書かれていなかった。作法は神社での拝礼と同じで、二礼二拍手一礼。
唱えるなら一番短いのが略拝詞だ。原文は「祓へ給ひ、清め給へ、守り給ひ、幸へ給へ」。読みは「はらえたまい、きよめたまえ、まもりたまい、さきわえたまえ」。祓ってください、清めてください、守ってください、幸せにしてください、という意味になる。三回ほど唱えて、心の中で家族の名前と住所を言えば足りる。
八方という言葉に合う一節が、大祓詞の後半にある。罪や穢れを祓い去るたとえを、風や霧や船に託していくつも重ねていく段の、ちょうど入り口に当たる部分だった。
原文は「科戸の風の天の八重雲を吹き放つ事の如く、朝の御霧夕の御霧を、朝風夕風の吹き払ふ事の如く」。前半の読みは「しなどのかぜの、あめのやえぐもを、ふきはなつことのごとく」。後半は「あしたのみぎりゆうべのみぎりを、あさかぜゆうかぜのふきはらうことのごとく」と読む。
意味はこう。風の起こる所から吹く風が、空に重なった雲を吹き飛ばすように。朝夕の霧を朝の風と夕の風が払うように。罪や穢れが残らず祓われていく様子を重ねていく箇所で、札の前で読むにはちょうどいい長さだった。
新居に入る日なら、荷物を入れる前に窓を開けて風を通す。御神土を撒き、中心を確かめて札を祀り、家族そろって略拝詞を唱えてから荷ほどきに取りかかる。これで段取りは足りる。
行けない年は郵送祈祷を現金書留で頼む
遠方や入院で行けない人のために、寒川神社は郵送の祈祷を受けている。これは助かる。申し込み方は三通りあった。
一つ目が現金書留。手紙か申込用紙に郵便番号、住所、氏名、生年月日、電話番号、願い事を書き、祈願料と郵送料を同封して送る。宛先は寒川町宮山三九一六の寒川神社、郵送祈祷宛。
二つ目と三つ目は先払い。郵便局で祈願料と郵送料を払い込み、受領証の写しと申込用紙をファクスで送るか、封書で送る。どれを選んでも中身は同じで、式階も授与品も参拝したときと変わらない。
郵送料は件数と式階で決まっていて、中式なら一件から五件までが千円、六件以上になると千五百円という具合に、神社の案内に表が載っていた。神社から内容を問い合わせる電話が入ることもあるので、電話番号は必ず書く。
最近はネットで申し込む郵送祈祷もできた。式階と件数を選んで初穂料を試算し、郵便局かゆうちょ銀行で払い込む。入金証明の画像を用意してから申込フォームに入力すると、自動返信のメールが来て受付が済む。
届くまでは、神社のほうで入金と申込の中身の確認が取れてから、一週間ほどと案内されていた。年末年始は二週間前後かかる。送料は梱包手数料込みで上限二千円、海外への発送はしていない。
郵送で届いた札も、祀り方は参拝して受けた札と変わらない。包みを開いて八方札の枚数を確かめ、家の中心と八方に祀り、御神土を四隅に撒く。届いた日が引っ越しの前なら、新居に入る日まで箱のまま高い棚に上げておく。
祈祷は要らず札だけ欲しいなら、授与品の郵送もある。現金書留に申込用紙と初穂料、送料一律五百円を入れて授与品担当へ送る。口座振込と電話での申し込みはできず、届くまで一週間ほど、繁忙期は二週間以上かかることもあるらしい。
五色の八方除御守を一つ選んで身につける
祈祷を受けなくても、授与所で八方除の御守は受けられる。八方除大麻という御札が一体千円。祈祷の八方札とは別物で、こちらは一体だけの札になる。家に祀る札で、地相、家相、方位、日柄に起因する災いを除けるものとして出されていた。
身につける守りは、八方除の御守が五色あって、袋型とカード型がある。初穂料はどれも千円。白が開運と心願成就、紫が病気平癒と長寿、赤が縁結びと家内円満と子宝、青が学業とスポーツと仕事、黄が金運と商売繁盛。
選ぶのは願いに近い一色で足りる。迷うなら白。袋型は鞄の内ポケットか、毎日持ち歩く物に付ける。カード型なら財布や定期入れに入れておけば邪魔にならない。車に乗る人には、八方除の交通安全守りが千五百円であった。
よその神社の御守と一緒に持っていいか気にする人もいる。城南宮の答えは、違う神社の物を一緒に持っても問題ない、というものだった。たくさんの神さまに見守ってもらっていると考えてほしい、とも書いてあった。
一年たったら納札殿へ返して受け直す
八方札も記名板剣神札も御守も、一年ほどで新しい物に替えるのが目安。城南宮も、御守と御札は一年たったら神社に返して新しく授かる習わしだと案内している。八方塞がりの年の人なら、年回りが切り替わる次の立春の前後が、ちょうど古い札を納めて受け直す替え時になる。
寒川で古い札を納めるのは、社務所の右手にある納札殿。平成二十四年に建った総桧造りの建物だ。祈祷を受け直す日に古い札を持っていけば、納めてから受付へ回るという一度の往復で済んだ。
納める前に、札を包んでいたビニールや紙袋は外しておく。九枚の八方札は剥がした順に重ねて白い紙で包むと持ちやすい。御神土が余っていたら、敷地に撒き切ってしまえば後始末が要らない。
人形やぬいぐるみを一緒に納めたいなら、第一駐車場の脇へ持っていく。受け付けは朝九時から夕方四時で、千円以上の初穂料が要る。
遠くて寒川まで返しに行けないなら、近所の神社の古札納所やどんど焼きに頼む手もある。城南宮は、受けた神社へ返すのが一番だが他社でも構わないと答えていた。ただ、よその社の札を受けない所もあるので、先に聞いておく。
城南宮の納札所も、受けるのは御札と御守と城南宮の授与品だけで、門松や人形、陶器は入れられないと書いていた。持ち込みが多いときのお焚き上げは箱の大きさで料金が決まっていて、小箱が六千円、大箱が一万二千円だった。
郵送で返したいときも、送る前に寒川神社へ電話で確かめておくと安心だ。
新しい札を受けてきたら、古い札を剥がした跡と同じ場所へ、同じ向きのままで一枚ずつ貼り直していく。図に残した九つの位置がここで役に立つ。
札が倒れた、汚れた、足りないときは社務所に聞く
祀っているうちに困ることもある。一年は長い。両面テープが弱って札が落ちた、台所の近くで油がついた、子どもが一枚破いた。よくある話。
落ちただけなら、手を洗ってから拾い、白い紙を新しくして同じ位置に留め直す。汚れや破れがひどい札を、無理に貼り続ける決まりはない。その一枚は白い紙に包んで高い所に置いておき、次に寒川へ行ったときに納札殿へ納めた人が多かった。
九枚のうち一枚だけ受け直せるかどうかは、寒川の案内には書かれていなかった。祈祷の授与品なので、足りなくなったら電話で社務所に聞くのが早い。授与所で受けられる八方除大麻を代わりに祀った、という話も見かけた。
引っ越しで札を外すときは、古い家の中心から八方へ、貼ったときと逆の順で剥がす。九枚を白い紙に包んで箱に入れ、ほかの荷物の下敷きにならないよう、自分の手で新居へ運ぶ。新居の中心と八方を測り直してから祀り直せばいい。
受けてから一年たたないうちの引っ越しなら、札はそのまま新居で使い続ける人が多い。住所が変わったことが気になるなら、新しい住所で祈祷を受け直すのも手だ。
城南宮と方違神社は頼み方がこう違う
方位の災いを除ける神社は寒川だけではない。京都の城南宮は方除の大社を名乗り、建物工事や引っ越し、通勤や旅行に伴う方除の祈願を受けている。
違うのは祈祷の形だ。ここが大きい。城南宮の方除は日数を決めて申し込む。七日で六千円、二十日で一万円、一か月で一万二千円、三か月で三万円、一年で八万円。その期間中、毎朝本殿で神職が祝詞を奏上して祈願を重ねてくれる。
授かるのは祈祷の御札と太玉串で、付属の御札立てに一緒に祀る。壁掛けにもできるので、神棚がなくてもすぐ祀れた。受付は朝九時から午後四時、予約は要らない。電話やファクスで申し込めば、御札を郵送してもらえる。
大阪府堺市の方違神社は、地元では「ほうちがいさん」と呼ばれていて、寒川とはまた違う方角の祓い方をしてくれる社だ。この社は、摂津と河内と和泉の三国の境にあって、どの国にも属さない方位のない地とされてきた。転勤や結婚で移る人、旅に出る人が、出発地から目的地への方位を祓ってもらう社だ。
ここの授与品は使い方がはっきりしている。どれも神社の授与品の案内に、そのまま書いてあった。御砂は五百円で、敷地の四隅や家の周囲、気になる所に撒く。マンションなら玄関やベランダに。
粽は本粽が千円、紙粽が五百円。貼って使う。玄関の内側の上か、鬼門や気になる所に貼る。新築なら、基礎工事の最後に基礎の真ん中へ埋める鎮物と、棟上げで棟木に付ける棟札も出している。
粽の形は、神功皇后が葦の葉に土地の埴土を包んで方災を祓ったという故事から来ている。いまも神社の紋になっていて、五月三十一日の例祭には粽が供えられた。
方違神社の祈祷の受付は朝九時から午後四時。平日の九日、十九日、二十九日は祈祷を休むが、大安の日なら休まない。出かける日が決まったら、その前に暦を確かめて日を選ぶといい。
寒川は一度の祈祷で八方をまとめて祓い、九枚の札と神域の土で家の八方と四隅をぐるりと囲むやり方になる。城南宮は決めた日数のあいだ祈り続けてもらう。方違神社は移る先への方角を祓い、砂と粽で家を固める。どれを選ぶかは、何のために受けるかで決まる。
