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ネット発

怪談

清滝トンネルで、一回だけ赤を待った

十月の半ばの、金曜の夜だった。拓海の仕事が長引いて、名古屋を出たのは九時半を回ってからだ。行き先は、京都の清滝。愛宕山の登り口にある、川沿いの小さな集落だ。山が好きなのは拓海で、志保はいつもついていくほうだった。
怪談

旧犬鳴トンネル、弟の書きかけた一行

木曜の夜は、日付が変わってから寝る。由紀の勤め先はホームセンターで、土日に出るかわりに金曜が休みだ。風呂から上がって、東区のアパートで布団に入る。携帯にイヤホンをさして、一時を待つ。一時ちょうどに、甥の配信が始まる。
怪談

沖ノ島の音を、口にしない夜

土曜の夜、九時を過ぎると、大島港の前は暗くなる。渡船ターミナルも、もう明かりを落とした。最終便は、とっくに神湊へ着いている。港の前の食堂「とも綱」だけが、のれんの内側に灯りを残している。
怪談

小津町バス停、始発より先に着くバス

十二月の最初の月曜、朝の六時十分。俺は小津町のバス停に着いた。家を出たのは五時四十分だ。谷のいちばん奥、林道の入口に近い家から、小津川に沿って歩いて下りてくる。懐中電灯で足元だけ照らして、三十分かかる。
怪談

伊与久沼公園、昼の動画の三十二秒

おすすめの一番上に、見慣れた景色が出てきた。「伊与久沼公園 昼 何も起きません」投稿者の名前は、ただのひる。再生回数は十万を超えていた。
怪談

大手町の将門塚の配信に、父が映っていた

配信者は歩道に立ったまま、広場には入らなかった。歩道の奥から、スーツの男が歩いてきた。鞄の持ち手に、黄色い反射材の飾りがぶら下がっていた。
怪談

芦花公園の墓地、四時半の二回目の放送

芦花公園の墓地。四時半の放送のあと、もう一回放送が流れるんだって。それが鳴ってるあいだ、白い人が歩くの。娘が差し出した動画には、木の手桶と白い背中しか映っていなかった。
怪談

寒川神社の大晦日、神苑の池に映る人と駐車場の五人目

写真が貼ってある。夜の砂利の駐車場だ。反射材のベストを着た男たちが、横に並んでいる。ただ、一番右の背の低い男は、俺だった。葛西が指で数えた。五人いる。
怪談

入の谷津橋の配信を見た夜、玄関のチャイムが三度鳴った

画面の黒い部分、橋の向こう側から、声がした。長く伸びた、間の抜けた呼び方だった。コメントが一気に増えた。返事すんな。憶えられるぞ。私は、背中が少し冷えた。
怪談

匝瑳の落書きマンション、三文字の付箋

匝瑳の落書きマンションの三文字を、高校の裏掲示板で見た。今も、私の字で付箋に出る。