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2026-09

怪談

お別れのラッパ

父の古いトランペットを吹くと、息を入れる前に音が出た。別れの曲を頼んだ父の友人は、その声を知っているようだった。
怪談

砂糖を量る午後

古い秤で砂糖を買った客は、必ずもう少しと頼んだ。店主が足すたびに客の声が幼くなり、店の奥へ小さな靴が集まった。
怪談

引き戸の向こうの膝

母の介助に戻った実家で、引き戸の曇りガラスに膝が見えた。戸を開けるたび、向こうの身体は少しずつ脚を伸ばしていた。
怪談

砂場の湯気

閉園する幼稚園で、娘が作った砂の料理から湯気が立った。食べられないと分かっているのに、母親の腹だけが空き続けた。
怪談

終点の樟脳

売却する古いバスの座席を洗うと、染みついた樟脳の匂いが消えた。その夜、開いた扉を下りても車外へ出られなくなった。
怪談

紙袋の青空

父の青果店で売り始めた空の紙袋には、小さな青空が入っていた。口を広げるたび、店の天井が低くなった。
怪談

兄嫁のかかと

兄の家へ泊まると、毎朝、兄嫁の足の向きが変わっていた。兄へ相談しても、昔からそうだと笑われた。
怪談

歯車の眠る町

商店街の止まった時計を直すと、住民が昼間から眠り始めた。夜には、姿の見えない誰かを抱えたまま時計屋へ集まってきた。
怪談

魚拓の水

祖父の自慢の魚拓を額から出すと、紙の上に川が流れ始めた。黒い鯉の腹へ、見知らぬ家の窓が吸いこまれていった。
怪談

廃線の百葉箱

廃駅の百葉箱を開けると、八月なのに雪がこぼれた。亡父が使った鉛筆を返すと、中から最後の欄が空いた帳面を差し出された。