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姿が見える

怪談

湯の山温泉、鶯花荘寮の前から乗った客

わしは今年で七十四になる。菰野の小さいタクシー会社で、夕方の番をしとる。四日市の工場をやめてから乗りはじめたで、もう三十年あまりや。夕方の持ち場は、近鉄の湯の山温泉駅や。湯の山線の終点で、線路はそこで行き止まりになっとる。
怪談

翁島ペンション、夕方の囲いの隙間

翁島駅で降りたのは、沢井ひとりだった。郡山で新幹線から、磐越西線の普通列車に乗りかえてきた。無人の駅だ。向かいのホームへは、構内の踏切を歩いて渡る。小さなコンクリートの駅舎を出ると、四時を少しすぎていた。
怪談

気多大社の鵜祭、明け方の入らずの森で腕を広げていたもの

十二月十五日の夜、金沢から羽咋へ車を走らせた。後ろの席で、娘の美緒が窓に額をつけている。小学五年で、どこへ行くにもスケッチブックを抱えていく子だ。リングで綴じた、表紙の角が丸くなったやつ。夫は仕事の都合で来られなかった。
怪談

津田沼の跨線橋、二十三時二十六分

隣に並ぶ市道の跨線橋の欄干に、銀色の風船が引っかかっている。紐が街灯の柱に絡んでいるらしい。風に揺れて、こちらの窓の高さまで浮いてきた。
怪談

葛飾・立石様の鳥居の内側、明け方の写真に写る背中

木下さんが家を出るのは四時と決まっているのに、三時五十八分、立石児童遊園の写真が木下さんの名前で届き、鳥居の内側に黒いものが写っていた。
怪談

南酒々井のバケトンまで、昼休みの散歩

通路の向こうの、明るい四角。そこに、人が立っていた。小さい。背中が丸い。逆光で、顔のあたりは白く飛んでいる。こちらを向いているかどうかは、分からない。
怪談

大洗磯前神社の神磯、夕方の鳥居に立つもの

ファインダーの中、鳥居の右の柱のわきに、人が立っていた。顔を上げると、岩の上には誰もいない。覗き直すと、いる。柵の中に、入れるわけがないのに。
怪談

コンコン神社、画面の中の八本目

孫からの顔の見える電話が、下飯田のコンコン神社からかかってきた。画面にだけ、黒い形が映っていた。
怪談

影の中は夜

面会に来る父を待つ中庭で、娘が自分の影を「夜」と呼んだ。足元には、まだ灯りをつけていないはずの自宅の窓が光っていた。
怪談

昼寝のあと

久しぶりに会った友人と、河原で弁当を食べた。昼寝をしている彼の頭の向こうへ回ると、白髪の老人が横になっていた。