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人の入れ替わり

怪談

七つの家の坂、助手席の窓の曇り

私が働いているのは、光市の立野にある小さな直売所だ。立野橋の西で、県道八号から二十三号へ折れて、すぐの所にある。朝のうちに、近くの農家さんが野菜を並べに来る。昼は、通りがかりの車がよく寄っていく。
怪談

ホテル活魚の手前で引き返した夜と、伯母が預かった時計

長尾から連絡が来たのは、十月の初めだ。「久保が札幌から戻ってきた、金曜に飲もう」メッセージには、千葉の駅前にある居酒屋の地図がついていた。駅から歩いて五分ほどの店らしい。久保と顔を合わせるのは、十何年ぶりになる。
怪談

神様池、清掃の日の手形は四つ

十月の日曜、朝の九時前に神様池へ歩いていった。母の代わりだ。膝を悪くしてから、保存会の草刈りに出られなくなったという。「一軒から一人は出んとかんでね」電話でそう言われて、土曜の夜に名古屋から帰ってきた。
怪談

姫ヶ淵、三歩うしろの妻

十月の終わりの木曜、慎吾は妻の真由と甲州へ向かった。結婚して十二年になる。旅の段取りは、いつも真由が決める。宿も、寄る場所も、帰りの渋滞の読みまで全部だ。慎吾は運転をして、あとはついて歩けばいい。
怪談

鎌ケ谷・老婆坂の裏門に、もう一人の母が迎えに来る

陸は、門の外に立っていた。砂利道の上で、右手を横に伸ばしている。誰かと手をつないでいる形で、指が少し曲がっていた。隣には誰もいない。
怪談

秦野の天神隧道、明け方の配信

トンネルの入口が見えてくる。口の形の暗がりの中に、白っぽい照明が並んでいる。美月の足音が変わった。そこで、足音が二人分になった。
怪談

横浜・瀬谷のお墓山の下、昼に戸口から訊く声(横浜市瀬谷区阿久和南)

雨の昼、戸の外から「いいですか」と女の声がした。隣の奥さんだと思って、はい、と返した。戸は開かない。三和土の長靴だけが、濡れていた。
怪談

横浜外国人墓地の門が閉まったあとで

柵の反対側の端に、こちらへ背を向けて立っていた。広場の幅は、十歩ほどある。さっきまで肘が触れる距離にいたのに、いつ動いたのか。
怪談

鶴見川橋梁下の地下道で、父を待った夜

地下道の口から、浜辺の歌が流れてきた。父の節だ。私は体を起こして入口を見た。誰も出てこない。母は、反響でしょ、と言った。
怪談

八幡の藪知らずで待っていた方

市川市役所へ書類を出す十分ほど、後輩を八幡の藪知らずの前に待たせた。戻ると、鞄の持ち方と歩き方と呼び方が少しずつ違っていた。