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kikaisenban

怪談

入の谷津橋の配信を見た夜、玄関のチャイムが三度鳴った

画面の黒い部分、橋の向こう側から、声がした。長く伸びた、間の抜けた呼び方だった。コメントが一気に増えた。返事すんな。憶えられるぞ。私は、背中が少し冷えた。
怪談

梶ヶ谷トンネルで増えた傘

後部座席に、ビニール傘が一本、横になっていた。さっきの客のだ。いや、客は開いて帰った。俺はこの目で見ている。降ろした後も、座席を確かめた。
怪談

大洗磯前神社の神磯、夕方の鳥居に立つもの

ファインダーの中、鳥居の右の柱のわきに、人が立っていた。顔を上げると、岩の上には誰もいない。覗き直すと、いる。柵の中に、入れるわけがないのに。
怪談

伊勢崎・龍神宮の川しずめで渡された白い箱

祠の前で、美結と並んだ。二礼、二拍手、一礼。手を打つと、乾いた音が木立に跳ね返った。一拍遅れて、もう一回鳴った。背後から。
怪談

秩父湖の吊り橋、返事をするな

目の前に、秩父湖の吊り橋があった。青い主塔が、夜明け前の空に黒く立っている。二百メートル先の対岸は、霧で見えない。
怪談

川崎・生田の入らずの森、裏の鍵

二時の巡回から戻って、日誌を開いた。「二時 構内 異常なし」。もう書いてある。わしの字だ。判子も押してある。零時の分は覚えている。二時の分を書いた覚えがない。
怪談

鶴見川橋梁下の地下道で、父を待った夜

地下道の口から、浜辺の歌が流れてきた。父の節だ。私は体を起こして入口を見た。誰も出てこない。母は、反響でしょ、と言った。
怪談

烏の森から届く五時の放送

チャイムが終わった。いつもならそこで切れる。今日は、女の人の声が続いた。亡くなった、友人の、と言ったきり、先は森に吸われて届かない。
怪談

七里殺人の森の裏で呼ばれた名前

荷受け口の向こうは、すぐ林だ。風が吹くたび、木がこすれて低い音を出す。チャイムが鳴って、所長の声が名前を呼んだ。三日の間に聞いたことのない名前だった。
怪談

コンコン神社、画面の中の八本目

孫からの顔の見える電話が、下飯田のコンコン神社からかかってきた。画面にだけ、黒い形が映っていた。