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見えない圧・接触

怪談

旧伊勢神トンネル、空けておく後ろの席

毎年、十月の三日に稲武へ行く。佳代の母親の命日で、墓が稲武の寺にある。豊田の家から国道を上がって、伊勢神の峠を越えていく。片道で、一時間と少しの道のりだ。佳代は稲武の生まれで、わしは豊田の町の生まれだ。
怪談

対馬オソロシドコロ、ひじをかりた

高校の同級生三人が、十月の終わりに対馬へ行った。三人とも四十二で、今も福岡に住んでいる。話は一人ずつ、別の日に聞いた。食い違うところは、直さずに並べておく。河野の話。言い出したのは俺だ。ネットでオソロシドコロって名前を見てから、ずっと頭に引っかかってた。
怪談

東第180号踏切道の荷台(埼玉県川越市)

踏切の板に前輪が乗った時、後ろが重くなった。荷台が沈んで、ハンドルが浮きかける。渡ってから降りて、荷台を見た。新聞の束はまっすぐ載っている。
怪談

月居隧道の入口で、三人が別々に触られた話(茨城県大子町袋田)

袋田側に信号機だけが残る廃隧道。鎖の外に立っていただけで、膝の裏を押される。誰も中へは入っていない。それなのに後日、車の後ろの席から濡れたものが出てきた。
怪談

滝頭の無縁塚のそばの店で、壁際の丸椅子が沈む夜

手の甲に、重さが乗った。手のひら一つ分の、冷たい重さだ。濡れている。賢吾の手を、丼の縁に押し付けている。動かせない。引こうとした。引けない。
怪談

無線山の黒電話

明け方の廊下の突き当たりで黒電話が鳴り、受話器を取ると声の代わりに乾いたものの擦れる音がして、送話口のすぐ近くで誰かが長く息を吐いた。
怪談

七里殺人の森の裏で呼ばれた名前

荷受け口の向こうは、すぐ林だ。風が吹くたび、木がこすれて低い音を出す。チャイムが鳴って、所長の声が名前を呼んだ。三日の間に聞いたことのない名前だった。
怪談

第二今泉踏切、真ん中の席のベルト

明け方の宇都宮、第二今泉踏切で警報が鳴った。列車は来ない。タクシーの後ろの席が、沈んだ。
怪談

まだ人がいる

盆踊りの終わった公園で、落とした団扇が拾えない。誰もいないはずの場所が、満員の人混みのように窮屈だった。
怪談

食べ終わった席

祝宴のあと、冷めた弁当を食べる友人の足元へ、温かい米が落ちてきた。