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2026-09

怪談

化粧を落とすまで

友人の婚礼で化粧を頼まれた。門を開けてくれた老女の影は、小さな犬の形をしていた。借りた鏡の中で、新婦の顔だけが少しずつ変わっていく。
怪談

石の中の潮

磨くと魚の影が見える白い石。叔父が少しずつ削っていた面を、居候の甥は勝手に磨いた。作業場の戸の下から、海岸の砂が入り始める。
怪談

午後の切り抜き

父と息子で切った影絵。紙の襟を切り落とした瞬間、息子が喉を押さえた。古い黒紙の上では、描いていない目が開き始めていた。
怪談

土を捨てる日

閉じる陶芸教室で、古いバケツの土を捨てようとした。取りに来た女性は、それだけは自分が持つと言った。
怪談

傘を閉じる音

借りた傘は、紺色だったと思う。妻にそう言うと、黒だったよ、と返された。暗いところで見たのだから、どちらでもおかしくなかった。最初は色くらいの違いだった。
怪談

白線の下

古い白線を削ると、下から敷居が出てきた。木の敷居だった。両端を切ったように道の途中で終わり、中央だけが靴で踏まれて凹んでいた。三浦は機械を止めた。
怪談

夏休みの点呼

先生が返してくれたのは、木を削って作った小さな船だった。船底に、俺の名前が鉛筆で書いてあった。「ずっと、渡せなくて」先生はそう言い、紙袋を畳んだ。
怪談

靴を脱ぐ道

遥が靴を脱いだので、私は少し驚いた。舗装していない道ならともかく、そこは住宅の間のアスファルトだった。砂利も、割れた貝殻も落ちていた。「足、痛いの?」小声で聞くと、遥は靴を片手にまとめ、私のサンダルを指した。脱いで、とい
怪談

拍手の残り

本当に受けたときは、何を喋ったかあまり覚えていない。次の台詞を言いたいのに、客の笑いが終わらない。その間だけ、俺たちは面白い人間だった。あの晩のことは、台詞も、間も、嫌になるほど覚えている。
怪談

火を迎える晩

火を迎える晩には、家の中で喧嘩をしない。小さいころ、祖母にそう言われた。弟と叩き合いになっても、その日だけはどちらが悪いかを訊かれなかった。祖母は私たちを引き離し、口を洗ってきなさいと言った。手ではなく口を洗わせるのが、