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kikaisenban

怪談

石段で一席

稽古場所を失った若い落語家は、河原の林へ通い始めた。人の姿は見えないのに、笑い声や息継ぎが返ってくる。その反応を覚えた噺は、十五人の客の前では受けなかった。
怪談

大西さんの眼鏡

出張帰りに寄った温泉で、眼鏡を外した先輩と風呂へ入った。先客の背中から、もう一組の腕が伸びていた。私が逃げ出した後も、先輩はその客へ礼を言った。
怪談

栗山の客

自分で稼いだ金で栗山を買った岡部さんは、白い顔の連中に睨まれながら、毎年、栗を拾い続けていた。三年目の秋、小屋の前に客用の椅子が出ていた。
怪談

切った凧糸

甥が学校で作った凧を海辺で揚げた。凧の上に薄い服を着た人が引っ掛かり、こちらへ降りようと、糸をたぐり始めた。
怪談

白い車を見た

父は昔、峠で白い車が落ちるのを見たという。地元紙の取材でその記憶を確かめ始めると、父の家に小柄な女が訪ねてきた。
怪談

網から出た声

釣れたのは、魚より濡れた布に似ていた。網に入れた途端、それは男の声で、水へ戻さないでほしいと頼んだ。
怪談

帽子を持つ人

港へ向かう道を間違えた姉弟は、杉林の脇で水色の帽子を持つ女に会う。帽子の中から、小さな指がのぞいた。
怪談

岩場のまばたき

叔母が親しくなった男の顔を、一緒に見に行くことになった。干潮の岩場で男が帽子を取ると、足元の水が瞬きをした。
怪談

軽い布団

二年前に死んだ父の布団を、母に頼まれて干しに行った。掛布団を剥ぐと、薄くなった父が敷布団へしがみついていた。母は掃除機を持ってきた。
怪談

庭を空ける

売りに出した家の庭に、知らない人が座っていた。内見の客だと思ったが、帰る途中にいつも休む場所なのだという。数日後、家の枕とマグカップが港の待合所に届いた。