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kikaisenban

怪談

欠勤者の声

森さんは、その日、休みだった。朝礼で班長がそう言ったし、更衣室の靴もなかった。それなのに、包装室から「次、流して」と聞こえたとき、誰も手を止めなかった。
怪談

水位のない池

池の底で、伯父が帽子を脱いだ。首の汗を拭いているのだろうと思ったら、帽子を逆さにして、何かをすくう格好をした。
怪談

列の最後

「最後の人ですか」その女の人に聞かれて、私ははいと答えた。答えたときには、まだ列というほどでもなかった。私の前に二人いて、細い道の先で立ち止まっていただけだった。工事の人が向こうを通しているのだと思っていた。
怪談

十七番の預かり

「その子、うちでは吠えないんです」飼い主にそう言われると、里奈はたいてい笑って受け流した。家と預かり先で様子が違う犬は珍しくなかった。けれど、十七番の犬については、話が逆だった。
怪談

風をほどく

宮内さんは風の強い日に、外で網を繕った。晴れて凪いだ日は家にいて、テレビを大きな音でつけていた。漁師の仕事というのは、私には最後までよく分からなかった。
怪談

荷札の裏

船で荷物を運んでいたころ、宛名を声に出して読む癖があった。耳でも確かめておけば間違わない。人数の少ない会社だったから、一個の誤配でも翌日の仕事に響いた。
怪談

給食の余り

余った給食を子供に渡していいかと聞かれて、芳江は駄目だと答えた。勝手に渡せば、食べてはいけない物まで食べさせるかもしれない。そう説明すると、若い調理員の岸さんは「ですよね」とうなずいた。
怪談

写真に入らない部屋

売り家の写真に、人が写ってはいけない。赤井は撮影に行くたび、それを最初に説明した。鏡の前に立たないでください、窓に映ることがあります、と言うと、大抵の人は部屋の隅へ移動する。そこも写るのだが、何度も追い立てるようで言いに
怪談

隣の停電

娘の部屋の電球を替えに行ったとき、俺はもう、そこに住んでいなかった。離婚して半年たっていた。娘が電話で「お父さん、直して」と言ったのがうれしくて、何も聞かずに替えの電球を買った。
怪談

午前四時の洗濯物

母は、洗濯物に名前を書く人だった。靴下にも肌着にも、油性ペンで大きく書いた。介護施設から持ち帰った母の服を整理するとき、自分の下着にまで旧姓を見つけて、私は少し笑った。まだ実家にいたころ、母が勝手に書いたものだろうと思っ