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2026-09

怪談

会いたかっただけ

同窓会の幹事を断るつもりで、久しぶりに美和と会った。公園の砂利道で、一歩ぶんの足音が、いつまでも終わらなかった。
怪談

布を外します

閉店前の美容室。客の髪を洗う千種の目に、自分を下から仰ぐ顔が映る。客を起こしても、その眺めは洗髪台の底に残っていた。
怪談

後ろを空けて

人物を描く会で、モデルの椅子が白い壁から離れなくなった。描き直している高井さんは、何度見てもここがおかしいと言う。帰りたいと答えた人の手は、離れた入口へ届いていた。
怪談

網の上を歩く

二十球を打ち終え、仕事仲間と屋上の打席を出た。床へ落ちたネットの影に、靴が引っかかった。
怪談

まだ青い実

六月、叔母の庭で葡萄に袋を掛けていた。新しい袋から落ちたのは、まだ実ってもいない葡萄を食べたあとの皮だった。
怪談

両手を空けて

夜の港で、相良は船から降りる女の荷物を受け取った。腕は重さで下がったのに、そこには何も見えなかった。女は手を抜き、今度は息子を降ろすと言った。
怪談

二人をお願い

甥を預かりに姉の家へ行った。居間には、どちらから見ても背中しか見えない男がいた。姉が頼んでいたのは、子供一人の留守番ではなかった。
怪談

天井の晴れ間

プラネタリウムの投影を止めても、天井は青空のままだった。九人の客が見上げる先に窓が開き、誰かがこちらを覗き込んだ。
怪談

洗ったもの

二人暮らしを終える日、最後の皿を洗っていた。水は流れているのに、音がしない。受け取った皿は、表から見ればいつもと同じで、裏だけが指で押した土の形をしていた。
怪談

夏の斜面

閉じたスキー場へ、昔の友人と登った。車は下に見えていた。足が引かれるのは、別のほうだった。