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kikaisenban

怪談

折り目のある水

久しぶりに入った市営プールで、男が楽な泳ぎ方を教えてくれた。手本を見ようとした時、彼は水面を指でつまんでいた。
怪談

刈り終わった土地

借りていた資材置場を返す日、刈り取った草から白い穂が開いた。地主の文代が撤去を求める間にも、落ちた種の周りで緑の草が枯れていく。
怪談

中身は無事です

旅先の宿で、客の鞄が床を噛み始めた。持ち主の男は、自分の工具よりも、三つの預かり品を先に取り出そうとする。
怪談

運ぶだけ

資料展の片づけ中、展示ケースのガラス戸が枠を離れた。誰も持っていない一枚の板が、立ったまま展示室を進んでいく。
怪談

そこで伸ばす

敷物を洗うつもりだった日曜の昼、腰をかがめた私は妻に背中を押してもらった。痛くはなかった。むしろ、身体の中に余っていた場所がひらいて、ひどく楽になった。立ち上がろうとするまでは。
怪談

まだ手を合わせていない

祖父との墓参りで、まだほどいていない花の包みがごみ袋に入っていた。火をつける前に、線香は燃え尽きていた。
怪談

会いたかっただけ

同窓会の幹事を断るつもりで、久しぶりに美和と会った。公園の砂利道で、一歩ぶんの足音が、いつまでも終わらなかった。
怪談

布を外します

閉店前の美容室。客の髪を洗う千種の目に、自分を下から仰ぐ顔が映る。客を起こしても、その眺めは洗髪台の底に残っていた。
怪談

後ろを空けて

人物を描く会で、モデルの椅子が白い壁から離れなくなった。描き直している高井さんは、何度見てもここがおかしいと言う。帰りたいと答えた人の手は、離れた入口へ届いていた。
怪談

網の上を歩く

二十球を打ち終え、仕事仲間と屋上の打席を出た。床へ落ちたネットの影に、靴が引っかかった。