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kikaisenban

怪談

雨を積む

荷台の雨は、トンネルへ入っても止まなかった。 高田はラジオの音量を下げた。後ろの幌を叩く音なら、出口まで続くこともある。濡れた布から水が落ちるのだ。けれど聞こえているのは、細かな雨が土に沁みていく音だった。次の退避所へ寄せ、助手席
怪談

立ち飲み屋の出口

柳田に誘われた立ち飲み屋は、ひどく狭かった。客を通そうと身を引くと、隣の男の背中が開き、その向こうに別の路地が見えた。
怪談

駅前の聞き役

街頭相談の受付で男の話を聞いていた。返事をする前に空席から私の声がした。その相槌のたび、男の背中の重みが私へ載った。
怪談

屋上庭園の昼休み

昼を食べに屋上へ行くと、客はみんな背中を向けていた。こちらへ歩いてくる人にも背中しかなかった。柵の下の道路には、大きな顔があった。
怪談

待合室の居眠り

歯科の待合室で、口を開けると目の前が暗くなった。隣の患者が返事をすると、その口の中に、居眠りしている男の目があった。
怪談

乾燥の終わる椅子

乾燥機が止まっても、女の人は起きなかった。やがて彼女が椅子を離れたあとにも、眠った彼女は座っていた。私の椅子にも、私がいた。
怪談

信号待ちの口笛

夜勤明けの交差点で、男が口笛を吹いていた。信号は赤だった。私は歩いていないのに、横断歩道の線を踏んでいた。
怪談

閉館前の靴音

弓野の右の靴音なら、振り向かなくても分かった。その音が郷土博物館の奥から聞こえたとき、本人はまだ私の隣にいた。
怪談

新聞を閉じない客

毎朝、図書館で新聞を読む男がいた。その隣に座る人は、いつもこちらを見た。私の目もまた、私の知らないところで男を見続けていた。
怪談

エレベーターを見張る夜

夜勤の代行で入ったマンション。誰もいないエレベーターから青い袖と手だけが出てきた。中からは、もう少しです、と声がした。