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kikaisenban

怪談

自転車を起こす人

倒れた自転車を起こす老女を手伝おうとした。前輪が地面に落ちたとき、誰もいないサドルの上から呻き声がした。
怪談

雨を待つ歩道橋

市の片づけ帰り、友人三人で歩道橋の下へ雨宿りした。濡れた人たちは私たちと同じように待っていた。ただ、待っているものが違っていた。
怪談

煙のない喫煙所

顔だけ知る喫煙仲間が煙を吐いた。その煙は私の口から出た。硝子張りの小さな喫煙所で、三人の身体が別々に息をできなくなる。
怪談

改札の外に残る人

五年ぶりに飲んだ西尾は、改札を通って帰ったはずだった。柱にも券売機にも、別れ際の西尾が残っていた。
怪談

途中からの上映

上映前のスクリーンに、別の映画館の廊下が映った。そこで靴を脱いだ客が、こちらの客席へ座りに来た。
怪談

池のまんなかのベンチ

面接までの時間を公園で過ごす女に、池のまんなかを指さされた。水上のベンチには、彼女と同じ青い服の人が座っていた。
怪談

天井の低い連絡口

いつも通る駅の連絡通路で、人々が頭を下げて歩いていた。足首をつかんだ配送員は、床から上を見ないよう私に頼んだ。
怪談

水曜日の隣人

水曜日だけ、隣の女の人の電話が聞こえた。 ほかの日より帰りが二時間ほど遅くなる。勤め先の薬局で水曜に棚を整理するためで、終わってから電車を乗り継ぐと十時を過ぎた。新しく借りた部屋は駅から近く、家賃も安かった。そのぶん壁は薄いのだろ
怪談

起こさないで

頭を撫でられて目を覚ますと、自分の左手が髪の中を動いていた。眠っている間の暮らしは、少しずつ丁寧に整えられていた。
怪談

朝顔をたたむ

引っ越しの日、祖母の朝顔をつまむと、片づけたはずの部屋で椅子が倒れた。花の向こうには、家族が置いてきた夏が残っていた。