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kikaisenban

怪談

一匹だけの足音

亡犬の遺骨を引き取った車内で、一本の脚が歩く音がした。母が犬の名を呼ぶたび、後部座席の箱が膨らんだ。
怪談

夜市のつり銭

夜市の売上げに、指へ貼りつく五百円玉が混じっていた。増える釣り銭を使うたび、夫婦は知らない品を注文した客として迎えられる。
怪談

革の手帳を開く

父の石屋を片づけ、空白の革手帳を持ち帰った。ページをめくると指の感覚が抜け、触れていない墓石の奥を探り始める。
怪談

六時の留守番

父は玄関の外にいた。帰してはいけないと告げる男は、家の中にいた。八歳の悠介は、知らない大人たちから一人を選べと迫られる。
怪談

雨の入らない畑

借りた畑の一角だけ、雨が土へ落ちない。芋の根を引くと、地面の下で誰かが夕飯の食器を片づけていた。
怪談

自転車を押す女

行きたくない道でだけ、自転車が動かなくなる。助けられていると思った早紀のまわりで、他人の帰り道が消えていった。
怪談

検温の時間

父の古い体温計を切ると、捨てたはずの青い手袋が戻った。熱のある寝床には、父のものではない足が並んでいた。
怪談

向かいの双眼鏡

向かいの老婦人の双眼鏡がこちらへ向くと、家の戸口が狭くなった。彼女が見ていたのは窓に止まる、名前の分からない鳥だった。
怪談

針山の頭

祖母の針山から針を抜くと、母の皮膚に文字が浮いた。白い頭の一本を動かした途端、母が祖母の声で謝り始めた。
怪談

水門の洗濯ばさみ

叔父が水門に留めていた洗濯ばさみを外した。水が逆に動き始め、向こう側がこちらの声を真似しだした。