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kikaisenban

怪談

天ぷらの夜

料理教室に誰も注文していない葉が届いた。口にした人たちは皆、食べ損ねた夜のご飯の味がすると泣いた。
怪談

野球部の砂時計

廃部の用具室に娘の上履きがあった。古い砂時計を動かすと、家に置いてきた物がグラウンドへ集まり始めた。
怪談

右だけの靴底

預かった父の革靴は、右の靴底だけ減っていなかった。剥がすと青い糸が出てきて、棚の下から咳が聞こえた。
怪談

煤の誕生日

十歳の娘の誕生日。蝋燭を灯すと空席が沈み、煤の顔が増えた。火を消そうとした母親の手を、祖父が止めた。
怪談

道具を置く日

引退する親方と山の集会所を直した。道具を持って出ようとすると、床も柱も同じ距離を保ったままついてきた。
怪談

湯上がりの爪

閉店後の浴槽で見つけた透明な爪は、翌日も同じ目地に生えていた。母も常連客も、指が増えたことを気にしない。
怪談

遠足の塩

弟が海から持ち帰った塩を使うと、食卓の水が消えた。父の家では、乾いた魚の皮が夕飯を待っていた。
怪談

座布団をひっくり返す

公民館の座布団を捨てると聞いて、父はわざわざ車を出した。将棋会は三年前になくなっている。会長だった人は亡くなり、父も膝を悪くして正座ができない。それでも一枚ぐらい家にあっていい、と電話口で言った。
怪談

息を継ぐところ

亡き母の朗読を姉の結婚式で流すため、録音の沈黙を切り詰めた。作業を進めるたび、古い家の畳が鳴った。
怪談

朝までの客席

祖母の人形劇の最後の公演で、人形を笑わせるたびに観客が一人消えた。戻ってきた客には顔がなかった。